ある船頭の話の映画専門家レビュー一覧

ある船頭の話

オダギリジョーによる長編初監督作。橋の建設が進む山村。川岸の小屋に住み船頭を続けるトイチは、村人の源三が遊びに来るとき以外は黙々と渡し舟を漕ぐ日々を送っていた。そんなある日、トイチの前にひとりの少女が現れ、トイチの人生は大きく狂い始めてゆく。トイチを演じるのは「石内尋常高等小学校花は散れども」以来、11年ぶりの主演となる柄本明。共演は「銃」の村上虹郎、「望郷」の川島鈴遥。撮影監督を「宵闇真珠」のクリストファー・ドイル、衣装デザインを「乱」のワダエミが担当する。
  • 映画評論家

    川口敦子

    変わりゆく時代の中で「本当に人間らしい生き方」を問うオリジナル脚本の意図は面白いし、単に無欲の善人だったりはしない船頭、そういう主人公を描こうとしたことも興味深い。ただ、その物語の語り方、撮り方が意図や人物設定と齟齬を来して居心地悪さが募ってくる。時代や場所を敢えて曖昧にして語り撮るのなら船頭の過去、その記憶の生々しさよりもっと寓話性を研いでみて欲しかった。自然、特に川のスケールもこの生の物語と拮抗させるなら大き過ぎない方がよくはなかったか。

  • 編集者、ライター

    佐野亨

    達者な俳優たちと最高峰のスタッフが集結。とくに、遺体をはこぶ夜のシーンやラストのロングショットなど、クリストファー・ドイルの撮影は息をのむほど美しい。しかし、端正な画面とは裏腹に、いや、端正であるがゆえに、すべてが「それっぽさ」のうちに完結してしまっている。不穏さを醸し出す場面での映像処理や音声エフェクト、アンビエントな音楽演出のスタイリッシュな凡庸さも鼻につく。オダギリ監督の強い意志は十分に感じられるため、気取りの抜けた次回作に期待したい。

  • 詩人、映画監督

    福間健二

    現代俳優図鑑と言いたくなりそうなほど、いろんな役者が出る。カメラのドイルを筆頭にスタッフも相当の贅沢さ。一方、逃げだしたくなるような、きびしい現場の条件も見えてくる。そういうなかで柄本明と新人川島鈴遥、しっかり立っていると思った。オダギリ監督、オリジナル脚本。やりたいことをやり、言うべきことを言っている。ユニークで好感度大であるが、言葉が練られていないのは惜しい。とくに急ぐ必要もないと言いたげな長さ。これが映画だと唸らせるショット、あった。

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