騙し絵の牙の映画専門家レビュー一覧

騙し絵の牙

小説家・塩田武士が大泉洋をイメージしあてがきしたミステリーを、大泉洋主演で映画化。出版社・薫風社社長が急逝し、次期社長の座を巡り権力争いが勃発。専務が大鉈を振るい雑誌が次々に廃刊の危機に陥る中、変わり者編集長・速水は起死回生の奇策を講じる。監督は、「羊の木」の吉田大八。大泉洋は、笑顔の裏に牙を秘める編集長・速水を演じる。ほか、新人編集者の高野を「蜜蜂と遠雷」の松岡茉優が、改革派の専務・東松を「Fukushima 50」の佐藤浩市が演じる。2020年6月19日から公開延期。
  • フリーライター

    須永貴子

    大手出版社内での、保守派と改革派の内部抗争物語。キャラクター間での騙し合いと、観客を驚かせる仕掛けを、無理なく成立させている脚本がスマートだ。無駄にトリッキーな編集をしなくても、ミステリ映画を作れることも証明している。現代日本を批判し、まさかのジャイアントキリングで希望を願う、映画的なラストも良い。残念なのは、「この俳優がこの役ということは……」という、捻くれた予感が裏切られなかったこと。有名俳優を並べてミステリを作るのって難しい。

  • 脚本家、プロデューサー、大阪芸術大学教授

    山田耕大

    本屋で大泉洋の写真が表紙の原作本をよく見かけたが、なるほど大泉あてがきの小説だったらしい。原作がいいのか、脚本が良かったのか、文句なく楽しめる映画だ。演出のキレもいいし、心地よいテンポが何よりいい。人に見せるということを片時も忘れず、隅々に至るまで目が配られている。日本の映画ではコンゲームものは難しいと思っていたが、その考えを安々と裏切ってくれた。大泉が取り組んでいる雑誌の編集を見ていると、日本映画もこんな風ならいいのにと思った。

  • 映画評論家

    吉田広明

    老舗出版社内部で起こる権力闘争のシーソーゲームだが、その主な舞台は社の看板である由緒正しき文芸雑誌と、新興カルチャー誌。後者がいかにアイデアで戦ってゆくかが見どころとなる。権力闘争とは言え、主演の大泉、松岡のキャラのおかげもあり、『半沢直樹』などと違ってネチネチしておらず、陽性なのが救い。闘争は、出版不況における出版社の在り方にまで拡大、ただこれは問題提起的ではあるが深くはない。敵役文芸誌側が伝統に依りかかるだけ、敵としてもう少し強くても。

1 - 3件表示/全3件

今日は映画何の日?

注目記事