騙し絵の牙の映画専門家レビュー一覧
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フリーライター
須永貴子
大手出版社内での、保守派と改革派の内部抗争物語。キャラクター間での騙し合いと、観客を驚かせる仕掛けを、無理なく成立させている脚本がスマートだ。無駄にトリッキーな編集をしなくても、ミステリ映画を作れることも証明している。現代日本を批判し、まさかのジャイアントキリングで希望を願う、映画的なラストも良い。残念なのは、「この俳優がこの役ということは……」という、捻くれた予感が裏切られなかったこと。有名俳優を並べてミステリを作るのって難しい。
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脚本家、プロデューサー、大阪芸術大学教授
山田耕大
本屋で大泉洋の写真が表紙の原作本をよく見かけたが、なるほど大泉あてがきの小説だったらしい。原作がいいのか、脚本が良かったのか、文句なく楽しめる映画だ。演出のキレもいいし、心地よいテンポが何よりいい。人に見せるということを片時も忘れず、隅々に至るまで目が配られている。日本の映画ではコンゲームものは難しいと思っていたが、その考えを安々と裏切ってくれた。大泉が取り組んでいる雑誌の編集を見ていると、日本映画もこんな風ならいいのにと思った。
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映画評論家
吉田広明
老舗出版社内部で起こる権力闘争のシーソーゲームだが、その主な舞台は社の看板である由緒正しき文芸雑誌と、新興カルチャー誌。後者がいかにアイデアで戦ってゆくかが見どころとなる。権力闘争とは言え、主演の大泉、松岡のキャラのおかげもあり、『半沢直樹』などと違ってネチネチしておらず、陽性なのが救い。闘争は、出版不況における出版社の在り方にまで拡大、ただこれは問題提起的ではあるが深くはない。敵役文芸誌側が伝統に依りかかるだけ、敵としてもう少し強くても。
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