悪の偶像の映画専門家レビュー一覧

悪の偶像

「ハン・ゴンジュ 17歳の涙」のイ・スジン監督によるサスペンス。息子が飲酒運転し人をひき殺し、政治家のミョンフェは揉み消しを画策。現場に居合わせた被害者の妻リョナが行方不明になっており、ミョンフェと被害者の父ジュンシクは各々彼女を探すが……。さらなる悲劇的な事態を招き寄せていく市議会議員ミョンフェと被害者の父ジュンシクをそれぞれ「尚衣院 -サンイウォン-」のハン・ソッキュと「名もなき野良犬の輪舞」のソル・ギョングが、鍵を握るリョナを「ハン・ゴンジュ 17歳の涙」に主演したチョン・ウヒが演じる。第69回ベルリン国際映画祭パノラマセクション招待作品。
  • 非建築家、美術家、映画評論、ドラァグクイーン、アーティスト

    ヴィヴィアン佐藤

    相変わらず完成度が高い韓国映画。いま日本映画界でこのような文学的作品は製作可能だろうか。人間性の深い洞察や出来事に対して起きる矛盾した想いの煩悶や容認。この内容で日本のプロデューサーはGOサインを出せるのか。人はそれぞれ信じているものが異なる。いや、何かを信じている「自分自身」が信じきれるかどうかだ。政治家であれば、政治を信じるのではなく、政治を信じている「自分自身」が信じきれるか。この作品の題材は、映画製作という大きな欲望にも通じる。

  • フリーライター

    藤木TDC

    選挙を控えた政治家が家族の起こした交通事故と殺人を偽装する松本清張テイストの前半は日本映画的な緩慢ペースでやや眠い。中間を越えた頃から一気に韓国ノワールな演出に転換、猟奇的キャラの登場、暗示とツイストをぶちまけた急展開で緊張が高まり、広げた風呂敷をどう収束するか期待させる。が、観念的要素を残したまま物語は閉じ、ミステリとしては残念な結末。冒頭の尾篭なモノローグの含意は私が男のせいか見終えて何となく理解できたが、主張が作劇に反映しきれていない。

  • 映画評論家

    真魚八重子

    韓国発のノワールな雰囲気はやはりゾクゾクする魅力があるし、ハン・ソッシュとソル・ギョングの演技対決も文句ない出来栄え。轢き逃げ事件の被害者、加害者の父親各々の事情を描くため144分の長尺も仕方ないかと思いつつ、それでももったいなさがある。ある重要な人物の出し惜しみ方は意図的ではあろうけれども、暗黒の精神を持ったキャラだけにもっと描き込みが必要だったのではないか。主人公たちの屈折した心理を匂わせるだけの演出も、狙いはわかるが微妙に曖昧過ぎる。

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