異端の鳥の映画専門家レビュー一覧

異端の鳥

ポーランドで発禁となった小説を映画化し、第76回ヴェネチア国際映画祭ユニセフ賞を受賞したドラマ。ホロコーストを逃れて疎開した少年は、身寄りも住むところも失い、一人で旅に出る。行く先々で酷い仕打ちを受けるが、生き延びようと必死でもがき続ける。監督は、「戦場の黙示録」のヴァーツラフ・マルホウル。出演は、新人のペトル・コラール、「テリー・ギリアムのドン・キホーテ」のステラン・スカルスガルド、「アイリッシュマン」のハーヴェイ・カイテル、「アガサ・クリスティー ねじれた家」のジュリアン・サンズ、「オーバードライヴ」のバリー・ペッパー、「アイアン・スカイ/第三帝国の逆襲」のウド・キアー。第92回アカデミー賞チェコ代表作品。
  • 非建築家、美術家、映画評論、ドラァグクイーン、アーティスト

    ヴィヴィアン佐藤

    火、水、風、土の様相と人間の相貌を美しいモノクロームで昇華させた。少年の成長物語と言えなくもないが、国家と少年の体験が複雑に混ざり合い翻弄される。一度は誠実な司祭によって救済されるが、彼は肺を患い死去。傷ついた少年の存在を語り継ぐ者は皆無。しかし傷ついた世界を語り継ぐことができるのは少年だけだ。描かれたのは一少年の半生ではなく、世界からはみ出してしまう人間や動物の過剰な「生きる(死ぬ)」というリビドーの余剰とその背後の不可視の欲動だった。

  • フリーライター

    藤木TDC

    子供に対する虐待の残酷や恐怖を芸術性で希釈しようとの目的だろう、痛ましい展開の多い中盤までは詩的な静止画風カットをやたらインサート、上映約3時間はだいぶ間延びを感じる。全篇モノクロ仕様も物語を少年の記憶として幻想的に見せる方向には効果的だが、本作の重いテーマはカラーで窮状と苦痛を生に再現するほうがまっすぐ意図が伝わるはず。苛烈な歴史の再現で話題をとりつつ観客をあまり不快にさせたくない監督の姑息な計算が透ける。映画祭での評価が主目的なのだろう。

  • 映画評論家

    真魚八重子

    世に溢れる文学からどれを映像化するかの選択で、この映画はあらかた存在理由が決まっている。人間はヒトラーに加担しナチスを巨大化させた程だから、愚昧さや悪意を元々はらんでいて性悪説で語れる側面を持つ。だが善意も持ち合わせている複雑さが真実なので、本作のように悪だけをつらねて描くのは寓話性が強くなる。子どもが辛酸をなめるため「だれのものでもないチェレ」を思い出したが、チェレがリアリズムであるのに対し、本作はグロの抽出が露悪的で鼻につく。

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