セノーテの映画専門家レビュー一覧

セノーテ

    山形国際ドキュメンタリー映画祭2015でアジア千波万波部門特別賞を受賞した「鉱ARAGANE」の小田香が、ユカタン半島北部に点在する洞窟内の泉“セノーテ”の全貌に迫る。8ミリカメラやiphoneまで駆使し、誰も見たことのない世界を写し出す。マヤ文明の時代、唯一の水源だったセノーテは、雨乞いの儀式のために生け贄が捧げられた場所でもあり、その近辺には今もマヤにルーツを持つ人々が暮らしている。現世と黄泉の世界を結ぶと信じられていたセノーテを巡り、人々の過去と現在の記憶が交錯する。2020/6/20より公開延期。
    • 映画評論家

      北川れい子

      薄暗い洞窟の中、生き物のようにうごめく水の重量感に圧倒される。小田監督は、長篇デビュー作の「鉱ARAGANE」でも黒光りのするズシンとした映像で、ボスニアの炭鉱とそこで働く人々を美しくも厳粛なタッチで記録していたが、今回はマヤ文明の伝説の洞窟湖に集中的にカメラを向け、そこから過去に遡る。延々と続く微かな光の中での水面と水中の映像は、ある種の催眠効果をもたらし、ちょっとウトッとしそうになったが、と突然、奇跡が! リアルなアートフィルムの秀作だ。

    • 編集者、ライター

      佐野亨

      『夢の島少女』などの作品で知られるTV演出家の佐々木昭一郎にインタビューした際、「私の作品はよく〈映像詩〉と評されるが、自分では〈ジャーナリズム〉だと思っている」と語っていたのが印象的だった。小田香の作品も然り。8ミリフィルムで撮られた人間のいとなみと、iPhoneで撮られた人智を超えた水中の世界。その上にマヤ演劇のモノローグがかぶさる趣向。自然の恐ろしさと人間の歴史がはらむ残忍さにフォーカスした、紛うことなき〈ジャーナリズムとしての映像詩〉である。

    • 詩人、映画監督

      福間健二

      撮れている、と思った。洞窟の泉。そこにどういう未知があるのか。幻覚的な体験に誘い込まれるが、カメラの呼吸が現在からの糸を意識させる。一方、それとは異質な、人々をフィックスでとらえた映像。映画史をさかのぼるような、触られていない顔だ。そして言葉。いま生きる人々の聞いたことや体験したことだけでなく、マヤの伝統を守りぬくための劇のセリフが転用される。それが大きく呼び込むものが効いた。小田監督、ひとつの作品を作るとともに映画の力にゼロから出会っている。

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