ルース・エドガーの映画専門家レビュー一覧

ルース・エドガー

17歳の黒人少年の知られざる内面に迫り、人間の謎めいた本質とアメリカの現実を抉り出すヒューマンドラマ。アフリカ系移民の高校生ルースは、文武両道の優等生。だがある課題のレポートをきっかけに、同じアフリカ系の女性教師ウィルソンと対立してしまい……。出演は「アバウト・レイ 16歳の決断」のナオミ・ワッツ、「シェイプ・オブ・ウォーター」のオクタヴィア・スペンサー、「イット・カムズ・アット・ナイト」のケルヴィン・ハリソン・Jr.、「或る終焉」のティム・ロス。監督は「クローバーフィールド・パラドックス」のジュリアス・オナー。
  • 映画評論家

    小野寺系

    アフリカ系やアジア系などのマイノリティが、アメリカの白人社会で成功し受け入れられるために、あるステレオタイプを演じなければならないというプレッシャーと、無意識的な人権侵害を描く作品として成立しつつ、さらに同じ人種間の猜疑心や嫉妬心が絡んだサスペンスも同時進行で描かれるという、複雑な構成に独自性を感じる一作。バリー・ジェンキンスやジョーダン・ピールの作品におけるジャンルの越境や中間性も含め、いまの表現としてとらえておきたい潮流ではある。

  • 映画評論家

    きさらぎ尚

    主人公ルース、養父母、教師、友人。誰も悪人ではなく、けれど個々人が抱え込んでいる敵意が徐々に露わになり、一見、無関係なそれが連鎖するという展開が巧い。基が戯曲なだけあって、時系列に従った流れに、セリフの応酬による会話劇の迫力が重なり、白人の養父母と黒人の養子という環境下で人間の本質が浮かびあがる。同時に見る者は想像力も試される。俳優陣の実力が主題を支えているのは一目瞭然。特にO・スペンサーの教師が圧巻。分断の不穏さに覆われた世界を象徴する。

  • 映画監督、脚本家

    城定秀夫

    主人公は嘘をついているのか否か、それによって物語の風景がガラリと変わってしまうにもかかわらず真相を最後まで曖昧にすることで観る者の心のありようを問う底意地の悪さに加え、終始漂う不安定な空気はいつジャンルごとひっくり返ってもおかしくない緊張を孕んでおり、社会派を装った心理サスペンス、ことによってはホラーかもしれない、などと観客を振り回すこの重層的な構造そのものが「偏見」というテーマを炙り出す装置になっていると考えると、なんと恐ろしい映画であろうか。

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