リトル・ジョーの映画専門家レビュー一覧

リトル・ジョー

第72回カンヌ国際映画祭で、エミリー・ビーチャムが主演女優賞に輝いたスリラー。バイオ企業の研究室に務めるシングルマザーのアリスは、人工的に幸福感を得られる美しい花の開発に成功する。だがその花が成長するにつれ、周囲の人々にある変化が起こり始める。共演は「007」シリーズのベン・ウィショー、「インティマシー/親密」のケリー・フォックス。監督は「ルルドの泉で」のジェシカ・ハウスナー。
  • 非建築家、美術家、映画評論、ドラァグクイーン、アーティスト

    ヴィヴィアン佐藤

    アートワークはミニマルからウィリアム・モリスまで、色彩設計も素晴らしい。マヤ・デレンの音楽を担当した故伊藤貞司の楽曲を使用。雅楽のような音源は特に西洋人にとってはミステリアスな効果を生むのであろう。善悪が未分化で、神道や能や狂言にも通じる世界観は光と影ですら相対的な非二元論。一本の映画がこのように鑑賞者の意識を気付かぬうちに変えることもあるだあろう。「柔らかい殻」からの大ファンであるリンジー・ダンカンが重要な精神科医役で出演していて嬉しい。

  • フリーライター

    藤木TDC

    なるほど「ルルドの泉で」の監督10年ぶりの日本公開作か。バイオ操作植物が生存戦略で人体と社会を侵触する導入は中高年の脳内に「怪奇大作戦」のテーマを響かせるも、一筋縄でゆかぬ監督はお約束めいた殺人劇へ進まず、静かな映像とニヒルな構成で観客を作中の花粉のごとく煙に巻き、人間の不可解な深層やウィズコロナ時代の感覚変化へ意識を導く。色彩設計が素晴らしく、オシャレ怖い映画として「ミッドサマー」のように当たるかも。「007」ファンはQの女あしらいに注目。

  • 映画評論家

    真魚八重子

    人工的な閉塞感を作り出した数多の映画の一本であり、その系譜としては決して突き抜けた出来ではない。しかし(もっと硬質なニュアンスでいいのに)と思っていたら、非常に内面的な、心理に分け入る内容だったので、演出にどこか漂う柔らかさはテーマとマッチしていたことに驚いた。女性が母性を持っているとは限らず、愛の量が周囲と比べ少ない場合もあるという、男性の夢を壊すようで言いづらい真実を明かしてくれていてありがたさを覚えた。スリラーとしての変容も地味だが秀逸。

1 - 3件表示/全3件

今日は映画何の日?

注目記事