ヒトラーに盗られたうさぎの映画専門家レビュー一覧

ヒトラーに盗られたうさぎ

世界的絵本作家ジュディス・カーの自伝的小説『ヒトラーにぬすまれたももいろうさぎ』を映画化。1933年、ベルリン。ユダヤ人の父らと何不自由なく暮らす9歳のアンナは突然、「家族でスイスに逃げる」と告げられ、過酷な逃亡生活へと足を踏み入れていく。監督は、「名もなきアフリカの地で」で第75回アカデミー賞外国語映画賞を受賞したカロリーヌ・リンク。出演は、新人リーヴァ・クリマロフスキ、「帰ってきたヒトラー」のオリヴァー・マスッチ、「ブレードランナー 2049」のカーラ・ジュリ。
  • 非建築家、美術家、映画評論、ドラァグクイーン、アーティスト

    ヴィヴィアン佐藤

    彷徨い故郷を喪失するユダヤ人の歴史は古い。神話の世界から脈々と繋がる不可思議で神秘的な運命は、非ユダヤ人にとっては永遠に理解できない謎のまま放置される。しかし、その謎を宙吊りにし、中身を論じず解けない彼方に押しやるのではなく、この作品はユダヤ人を等身大の普通の良くできた可愛らしい子どもとして描いた。映画史に貢献するような描写や脚本解釈はなく、アンナ役の女優の視覚的な可愛らしさ、楽天的で優秀な美形家族は最大公約数の観衆に受け入れられるはずだ。

  • フリーライター

    藤木TDC

    中年男が孤独の癒しに見る映画ではない。しかし児童文学を原作にしつつ子供に媚びず、大人の観賞に耐える上質の演技・撮影・美術で悪くはない。戦前に早くもベルリンから逃避したユダヤ人家族の経験は「アンネの日記」「ソハの地下水道」、まして「異端の鳥」の苦難と較べようもないが、悲痛度が強すぎず原作者の絵本ファンも受け入れられるだろう。一点、映画のように失業中の夫に優しさを貫く妻が現実にいるか疑問。主力を女性客に想定しているのか、妻の描写に甘さを感じた。

  • 映画評論家

    真魚八重子

    実話ゆえだが、ナチスや迫害されたユダヤ人をテーマにした中では、珍しくのびのびと豊潤な少女期を捉えた作品になっている。主人公はもちろん、両親それぞれの人柄、周囲の人々のキャラクターも戦争にまつわる映画の範疇を飛び越えて、非常に厚く個性的だ。常にナチスの手が伸びる危機感は感じさせながらも、戦争を直視するのではなく、少女の生活を中心にして横滑りしていくような柔軟さがあって不思議な喜びを感じる。回帰するのではなく、変化と順応の連続の物語も爽やかだ。

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