ハッピー・オールド・イヤーの映画専門家レビュー一覧
ハッピー・オールド・イヤー
タイ映画界の新世代の旗手ナワポン・タムロンラタナリット監督による日本劇場初公開作。海外留学から帰国したジーンは、かつて父が経営していた音楽教室兼自宅の断捨離を行い、自分の事務所にしようとするが、借りた物や写真の思い出が蘇り片づけは一向に進まない。主演は「バッド・ジーニアス 危険な天才たち」のチュティモン・ジョンジャルーンスックジン。第15回(2020年)大阪アジアン映画祭でグランプリを受賞。
-
映画評論家
小野寺系
“こんまり”に影響され、一念発起してミニマリストになろうという異色の人物が主人公で、家族の持ち物や人間までも切り捨てていくという行動は感情移入しにくいが、そこから次第に自分の感情のより戻しに逆襲される趣向が面白い。主人公の精神状態は絶えず移り変わるものの、それでも善人になるわけではない、複雑でリアリティある展開は人間の生き方そのもの。エリック・ロメールの教訓的な恋愛劇をも想起させるように、アートフィルムとしての雰囲気も持ち合わせた個性的な一作だ。
-
映画評論家
きさらぎ尚
女性の凛とした顔、背筋の伸びた全身をゆっくりした動きでとらえるカメラ。インスタレーションを鑑賞しているような錯覚に囚われながらスタートした映画は、徐々に気配を変える。特にヒロインの元カレが登場して以降からの展開には、人の思いと物への記憶をめぐる容易ならざる物語が生む熱量が増す。物に宿っているのは、その物を捨てても残る記憶。幸せな記憶ばかりではない。言葉にならない心情が充ちる。余計なお世話だが、母親の大切な物まで処分するのは独善が過ぎるのでは。
-
映画監督、脚本家
城定秀夫
ひと昔前突如日本を席捲した断捨離という悪魔の思想もこの頃では以前ほど聞かなくなったと思いきや、短期間に「100日間のシンプルライフ」と本作が立て続けに公開されるという世界的シンプルライフブーム到来の足音に、未だ電子書籍に馴染めず本の山に囲まれて生活している自分は身を震わせるばかりですが、ミニマリスト心得を章立てて紹介する断捨離ワークショップ教則ドラマの態を取りつつ、その実アンチ断捨離の炎をひそかに燃やしているこの映画にはたいへん好感が持てます。
1 -
3件表示/全3件