犬は歌わないの映画専門家レビュー一覧

犬は歌わない

東西冷戦時代のソ連で、人間の宇宙飛行が可能か検証するため宇宙空間へ送り出された犬のライカを軸に、人間と犬との間の現実を映し出すドキュメンタリー。アーカイブ映像と地上の犬目線で撮影された映像を通し、犬を取り巻く社会のエゴや理不尽な暴力を描く。監督は、ドキュメンタリー作品を手がけてきたオーストリア出身のエルザ・クレムザーとドイツ生まれのレヴィン・ペーター。2019年ロカルノ国際映画祭にてヤング審査員特別賞、フィルムメーカーズ・オブ・ザ・プレゼント部門ISPEC 特別賞を受賞。
  • 非建築家、美術家、映画評論、ドラァグクイーン、アーティスト

    ヴィヴィアン佐藤

    人間の文明支配の外で生きる野良犬たち。文明社会からの彼らへの網羅は、私達自身に対して罪悪感を伴った何物かを提起し続ける。これは犬ではなく、人間の本質に関する作品だ。人間の本能とは一体どこにあるのか。進歩せざるを得ないことが人間の本能だというのなら、立ち止まり自らを去勢をしてしまう人間の意志とは。文明を持ってしまった人間。機能を喪失し骨組だけとなった廃車のなんと美しく崇高なことか。美しい映像で綴る犬のエレジーを通して人間の哀しい翳が炙り出される。

  • フリーライター

    藤木TDC

    原題でもある「宇宙犬」は幻想的なモンタージュだけ、正味は野良犬を被写体にしたダイレクトシネマ(観察映画)。何も考えてないかのような犬に無言でカメラを向け続けるかなり攻めた映像だ。都市住民たる野良犬はグータラ寝てばかりで餌をねだって半端に人間に媚びる姿が情けなく、そこに観客は自己投影できるし(俺だけ?)、宇宙旅行の栄光と現在の堕落の対比は文明批評的。そんな構成がただのワン公観察を真っ当な映画表現たらしめ、意外な完成度に?然。動物だって人間だ。

  • 映画評論家

    真魚八重子

    今まで映画を観てきた人生の中で、もっとも正視に耐えない作品だった。元々宇宙恐怖症気味で、ライカの話はあまりにゾッとするので耳を塞ぐようにしてきたせいもある。冒頭の燃え上がったライカが綺麗な抽象画のようになる悪趣味さや、無垢な犬たちが宇宙飛行実験に使われるアーカイブにも震えあがってしまった。猫が犬に?み殺される映像を使う、観客をリアルな死と向き合わせるアートドキュメンタリーらしい趣向も、そんな瞬間を撮れたクルーは幸運だと思うが、観たくはない。

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