サマー・オブ・ソウル(あるいは、革命がテレビ放映されなかった時)の映画専門家レビュー一覧

サマー・オブ・ソウル(あるいは、革命がテレビ放映されなかった時)

    1969年、ウッドストックの夏、NYで30万人を集めたもう一つの大規模フェスがあった。スティーヴィー・ワンダーやB.B.キングなどブラック・ミュージックのスターが集結した“ハーレム・カルチュラル・フェスティバル”。その全貌が鮮やかに蘇るドキュメンタリー。監督は、4度のグラミー賞受賞者であり、ヒップホップ・バンド「ザ・ルーツ」のドラマー/DJとして世界的人気を誇るアミール・“クエストラブ”・トンプソン。1969年当時、黒人の歴史、カルチャー、ファッション、音楽の大々的発表の場となったこの<革命的祭典>の記録映像は、その後50年もの間、倉庫の片隅にあった。クエストラブはその映像を現代に解き放つため、ヴェトナム戦争、ジョン・ F. ケネデイ、マルコム X、ロバート・ケネデイ、キング牧師暗殺といった当時のニュース映像を差し込み、フェスティバルの映像を初めて目にする当時の参加者たちの証言を織り込みながら、パワフルなドキュメンタリー映画へ昇華させた。クエストラブは「なぜ黒人の物語や歴史はこんなにも簡単に抑え込まれ、 捨てられてしまうのか」と憤りを抱え、「自分が生きている間はこうした黒人文化の抹消が再び起きないようにしたい」という切実な思いを込めたという。「Black Lives Matter(ブラック・ライブズ・マター)」が叫ばれ、アフリカン・アメリカンの歴史と文化に注目が集まる今こそ見るべき映画だ。サンダンス映画祭のオープニング作品として上映され、ドキュメンタリー部門審査員大賞と観客賞をW受賞。
    • 映画評論家

      上島春彦

      リアルタイムで知っている69年夏の出来事と言えばアポロの月面着陸に尽きる。米国でもそうだが、ただしNYハーレム公園だけは違う。この音楽イヴェントの凄さは観客も出演者もほぼ黒人というところでフィフス・ディメンションやステイプル一家のライヴ映像はまことに貴重、もっと見たい。ハービー・マンのグループは例外的に白人中心だがソニー・シャーロックの無手勝流ギターをフィーチャーしてバランスを取ってある。ただし現在視点のコメントがかえって問題を鈍らせてしまった。

    • 映画監督

      宮崎大祐

      21世紀に入ってからというもの、わたしのような平凡な日本人には今まで想像すら出来なかったアメリカにおけるアフリカン・アメリカンの闘争や歴史に触れる機会が増えたように思えるが、本作はまさに1969年のニューヨークで起きたテレビには映らない音楽による革命の記録であり、その先進性を目の当たりにすると50年前のハーレムですでに人類の未来は明示されていたような気すらするのだ。鑑賞後わたしのアップル・ミュージックのリストが激増したのは言うまでもない。

    • 映画執筆家

      児玉美月

      これまで見過ごされてきてしまった文化が当事者たちの証言と共に描かれていく手法は、映画におけるトランスジェンダー表象を当事者たちの証言と辿った「トランスジェンダーとハリウッド」を想起させる。ブラック・ミュージックに詳しくない観客にとっても、画面から放たれる熱量と迫力に圧倒され、高い満足度を得られるのでは。とくに終盤あたり、一人ひとりの語りに無数の声が被せられる音響演出が、そこで語られていない人々にまで物語を敷衍させているようで、とりわけ秀逸。

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