スターダスト(2020)の映画専門家レビュー一覧

スターダスト(2020)

デヴィッド・ボウイのキャリアのターニング・ポイントとなった1972年のアルバム『ジギー・スターダスト』誕生の舞台裏を描く伝記映画。彼の別人格でもある“ジギー・スターダスト”はいかにして生まれたのか。若き日のデヴィッド・ボウイの苦悩と葛藤に迫る。イギリスでミュージシャンとしての成功を夢見る青年は、アメリカから世界を目指し、瞬く間に時代を駆け抜けた。誰もが知るデヴィッド・ボウイの誰も知らない時間が繰り広げられる。デヴィッド・ボウイ役を、ミュージシャンであり、俳優として「ブルックリンの恋人たち」「アクトレス 女たちの舞台」に出演したジョニー・フリンが務めたほか、「ジョーカー」のマーク・マロンがプロモーター―のロン・オバーマンを、「ハンガー・ゲーム」のジェナ・マローンがデヴィッド・ボウイの最初の妻のアンジーを演じている。2006年の「大統領暗殺」でエミー賞を受賞したガブリエル・レンジが監督を務め、クリストファー・ベルと共に脚本も手掛けた。
  • 米文学・文化研究

    冨塚亮平

    ボウイの家族による認可が得られず本人の楽曲が一切使用されていないにもかかわらず、なぜかその点を除いては細部にこだわった考証を前提とした伝記映画として作られており、あまりにもどっちつかず。NYでヴェルヴェッツのライヴを観た後でルー・リードと勘違いして後任ボーカルと話していたことに気づいたボウイ役のジョニー・フリンが反語として問う「ロックスターとそれを真似る人に違いはある?」という問いが虚しく響く一作。彼の演奏場面そのものは決して悪くないのだが。

  • 日本未公開映画上映・配給団体Gucchi's Free School主宰

    降矢聡

    兄の精神的な病気、容姿に対する偏見、そして自分が何者であるのかわからず傷つくナイーブな心情、どれもがカルチャーアイコンになる前のボウイが抱えた悩みであったのだろうが、どれもがいささか内面的かつ抽象的に語られすぎているため、見れば見るほど何処にでもいる悩める青年に見えてしまう。そんなボウイより、アメリカを共に旅したパブリシストであり、良き隣人のロン・オバーマンの方がよほど魅力的。映画はボウイの内側よりも彼こそ見つめるべきではなかったか。

  • 文筆業

    八幡橙

    家族の承認が取れず、本人の楽曲は不使用という権利を巡る一件だけで敬遠するのは勿体ない。70年代初頭のデヴィッド・ボウイの姿をただなぞるのではなく、演じるジョニー・フリン独自の持ち味とあの頃の空気をも盛り込み、成功を夢見る者の夜明け前、まだ明け暮れの時期の懊悩と畏れを映画は繊細に掬い取る。見せかけの面妖さを脱ぎ捨て、新たな地平に飛び出してゆく過程はもちろん、アメリカで出会うパブリシスト、ロンとの道行きなど、映画の、音楽の、普遍の力に引き込まれた。

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