花椒の味の映画専門家レビュー一覧
花椒の味
父が遺した火鍋店を継ぎ、秘伝のスープを再現する過程を通して、香港、台北、重慶と別々の土地で育った三姉妹が、家族の温かさに触れて、自分自身と向き合う癒しと成長の物語。プロデューサーは2020年にヴェネチア国際映画祭で生涯功労賞を受賞したアン・ホイ。父親の死によって初めてお互いの存在を知った三姉妹には、真面目な性格のハー・ユーシュー(夏如樹)役に香港のトップスター、サミー・チェン、プロのビリヤード選手でボーイッシュな次女オウヤン・ルージー(欧陽如枝[知])役に台湾の女優メーガン・ライ、ネットショップのオーナーの三女シア・ルーグオ(夏如果)役に中国の女優リー・シャオフォンが選ばれた。脚本・監督は「烈日当空(原題)」のヘイワード・マック(麥曦茵)。また、豪華俳優たちが香港・台湾・中国から集結。ユーシューが心を開く麻酔医チョイ・ホーサン(蔡浩山)にリッチー・レン(任賢齊)、元婚約者クォック・ティンヤン(郭天恩)にアンディ・ラウ(劉德華)、ルージーの母親ジャン・ヤーリン(張雅玲)役に台湾のベテラン、リウ・ルイチー(劉瑞琪)、ルーグオの祖母リウ・ファン(劉芳)役に中国国家一級俳優のウー・イエンシュー(吳彥姝)、ふらふらして頼りないが愛情あふれる父親ハー・リョン(夏亮)役に歌手・俳優のケニー・ビー(鍾鎮濤)など。この映画の「花椒の味」とは何か。三姉妹の名前に込められた「祈り」が心に沁みわたる。
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米文学・文化研究
冨塚亮平
全体的に画面がテレビドラマ的に見えたことや、不在の父のイメージがあまりにも頻繁に出現するせいでここぞという場面での感情の盛り上がりがやや削がれてしまった点は気になったが、容姿性格ともにわかりやすく描き分けられた主人公たち三姉妹は、それぞれにキャラが立っておりいずれも魅力的。2019年に香港、台湾、中国がほのかに重ねられた三姉妹の育む友情をユーモラスに撮るという試みは、その後の香港情勢とは異なるあり得たかもしれない未来を想像させる点でも貴重。
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日本未公開映画上映・配給団体Gucchi's Free School主宰
降矢聡
不仲だった父親の死後、異母姉妹に出会ったり、父の火鍋屋を引き継いでみたりと、様々な交流を通して自分の知らなかった父の側面と愛を知る娘たちの物語。ただ、いささか安易な表現が多く、例えば、悩んだり失敗したりするたびに死んだはずの父の幻影が出現するのはかなり疑問。また、いつまでも世話を焼いてくれる孫に対して、あえてひどいことを口にし嫌われることで孫に自分の人生を生きさせる粋な祖母の場面は、あまりにも通俗的で俗情的な語り口になっていると思う。
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文筆業
八幡橙
それぞれに欠けていた亡き父との時間や思い出を、初めて顔を合わせる中で補ってゆく異母姉妹たち。記憶の断片を持ち寄って、つぎはぎながら幻の父を完成させてゆく。姉妹三人のキャラクターが生きていて、長女役のサミー・チェンの表情に何度もぐっと来た。「赦し」が一つのテーマであり、生きているうちに思っていることをしっかり伝える大切さを説く一方、たとえ亡くしてしまっても、そこから通じ合う思いもあると、観る者にそっと語りかける。ひたひたと、沁み入るような映画だ。
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