逆光(2021)の映画専門家レビュー一覧
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映画・音楽ジャーナリスト
宇野維正
90年代後半に東京で生まれた、役者としても活躍中の新人監督による尾道という土地への愛着と全共闘世代へのノスタルジー。つまり、いずれも疑似的なものなのだが、不思議なことにそれが上滑りすることなく血肉化されているのが作品の熱から伝わってくる。渡辺あやの脚本はさすがに洗練されていて、抑制された台詞劇としての魅力も十分。しかし、この「君の名前で僕を呼んで」を薄味にしたような物語からは、須藤蓮という表現者固有の「声」までは聞き取ることができなかった。
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映画評論家
北川れい子
夏の尾道。時間を持て余しタバコばかり吹かしている先輩は、三島でも読んでみるかな、という。先輩を誘って実家に帰省した大学生のぼくは三島由紀夫に詳しく、相当読んでいるらしい。だからか本作からも三島的な禁断の愛でも描いてみるかふうの意図が窺われ、いささかくすぐったい。いや、はじめに三島ありき? まだ携帯がないころの数日間。ぼくの幼なじみの地元娘たちのキャラクターが懐かしく、ぼくとの距離間も説得力がある。大した事件が起こらないのが逆に三島的かも。
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映画文筆系フリーライター。退役映写技師
千浦僚
私はある映画の面白い面白くないは、それが単に機械的な映像(と音響)であることを忘れさせる、躍動なり情感なりがみなぎる場面を持つかどうかだと思っていて、それでいえば本作は海辺の遊びやダンスホールや蚊帳に入って氷枕を使うところなどで実にみなぎっていた。また個人的にはある映画が優れているかどうかは仕掛けの早さや隙の有無により、優れた映画には雰囲気だけの瞬間などないと考えるがその点本作は隙が多かった。富山えり子氏が演じた文江、素晴らしかった。
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