渇水の映画専門家レビュー一覧
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脚本家、映画監督
井上淳一
水不足の夏。料金未払いの家の水を止める水道局員。電気ガスはすぐ止められても、水道は最後の最後。ライフライン=命を奪う自責に蓋をする局員。その生い立ちは最低限の言葉でしか語られないが、ちゃんと見える。「怪物」と違い、人物がみな生きている。それはネグレクトの母親も同じ。子供は可愛い、でも自分の欲望も捨てられない。子供も母を憎めないから余計に苦しい。何も解決しない大団円。「波紋」と同じ水が題材でここまで違うものか。及川章太郎の脚本が素晴らしい。傑作。
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日本経済新聞編集委員
古賀重樹
水の表現、渇きの表現がすばらしい。水のないプールで踊る姉妹、日照りの中を歩く水道局員。川の水、公園の水、金魚鉢の水……。どれも映画でしか描き出せない感覚だ。河林満の短い小説をここまで映画的な表現に昇華させた髙橋正弥監督に拍手を送りたい。原作が書かれて33年もたつというのに、少しも古びた感じがしないのは貧困や格差が確実に広がった証なのだろうが、何より、主人公の水道局員が直面する、生きることの難しさという主題に真摯に向き合っているからだ。
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映画評論家
服部香穂里
ひとの生き死にさえ左右し得る、停水執行が生業の水道局職員の日常が照らす、矛盾だらけの社会。屈託のない後輩とのやり取りが、深刻な内容に潤いを与える反面、主人公のアメリカン・ニューシネマを思わせる抵抗に踏みきるまでの心の渇きや沸点の高まりを捉える上では、逆効果にも感じる。無慈悲な現実さながらの結末に到る原作への、やるせない監督の想いは伝わるが、“希望”の微妙な匙加減で、原作者の意図から離れて綺麗ごとに映りかねない危険性も孕むと、痛感させられた。
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