手紙と線路と小さな奇跡の映画専門家レビュー一覧

手紙と線路と小さな奇跡

韓国の東部に位置する国内初の私設駅・両元(ヤンウォン)駅が1988年4月1日、大統領府への住民たちの請願の末に、彼らの手によって駅舎を建立し、開業した実話をモチーフに、一人の少年の夢への挫折と希望、人と人との絆をあたたかく描いた笑いと感動の物語。監督は「Be With You ~いま、会いにゆきます」のイ・ジャンフン。住民たちが線路を歩いている危険を打開するため大統領府に手紙を送り続ける高校生ジュンギョンに扮するのは、「ただ悪より救いたまえ」で2021年・青龍映画賞の助演男優賞を受賞したパク・ジョンミン。彼の天才的な数学の才能と一途な性格に惹かれ、全面的に応援するクラスメイトのラヒ役に「少女時代」のメンバーであり、「EXIT イグジット」など女優活動が続くイム・ユナ。ジュンギョンの父親で規律を重んじる機関士のテユン役を「KCIA 南山の部長たち」のベテラン俳優イ・ソンミンが演じている。
  • 米文学・文化研究

    冨塚亮平

    主なアピール点の一つと思しき主人公カップルのもどかしい関係性にまつわるさまざまな細部のコミカルな演出は、一昔前の日本の学園ドラマを思わせるベタさを全面に押し出すような方向性で個人的には全く乗れず。また、実話を映画化する上で最も強調したかったはずの主人公たちが線路を長時間歩く場面にしても、いずれも撮り方にさしたる工夫が見られないため印象に残らず。鍵となる姉との関係性の落とし所は一応うまくまとまっているとは言えるが、途中で予想がついてしまった。

  • 日本未公開映画上映・配給団体Gucchi's Free School主宰

    降矢聡

    冒頭に置かれた列車シーンの緊張感のなさに抱いた嫌な予感は、ゆるい学園ラブコメを思わせるパートに移行するにつれて、この緩慢さに身を委ねてみるのも映画の愉しみだという気持ちへと次第に変化していく。しかし、その後冒頭のシーンを契機として、遺族たちの映画へと変貌する構成には驚かされる。この映画の列車が、ここではないどこかへと連れていくものであり、この土地に縛りつけるものでもあるという二重の描写は、複数の顔を持つこの映画の構造に少し重なる。

  • 文筆業

    八幡橙

    一見意味不明な長い邦題とほっこり押しのパッケージから、はいはい、泣かせる系のありがちないい話ですね、と頷きつつ観始めるも、さにあらず。共に三十代で、高校生役には無理があろうパク・ジョンミンと少女時代のユナが、年齢の壁をぶち破り、余裕すら感ずる咀嚼度で物語を呑み込んで、80年代の田舎町の素朴な青春を好演。後半、それが一つの目くらましであることに気づくのだが、ベタまで行かぬギリギリの線を巧みに計算し尽くした脚本と演出に、結果まんまと泣かされてしまった。

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