アメリカから来た少女の映画専門家レビュー一覧

アメリカから来た少女

アメリカから台湾に帰郷した13歳の少女が、学校で疎外感を感じ、母の病気に不安とやり場のない怒りを募らせつつも、自分の弱さに気づいて成長していく物語。ロアン・フォンイー監督の半自伝的映画にして長編デビュー作。主人公のファンイーを演じたケイトリン・ファンはバイリンガルで、演技経験はなかったがオーディションにより大抜擢され、映画初出演を飾った。病への恐れと母としての強さを体現したのは「男人四十」「百日告別」のカリーナ・ラム。多忙な父親役に「パラダイス・ネクスト」のカイザー・チュアン。「百日告別」「夕霧花園」で知られる台湾恋愛映画の名手トム・リン監督が製作総指揮を務めた。どこにでもある家族の日常を陰影深い圧倒的な映像美で描き出したのは、撮影のヨルゴス・バルサミス。台湾のアカデミー賞といわれる第58回金馬奨にて最優秀新人監督賞、最優秀新人俳優賞、最優秀撮影賞、観客賞、国際批評家連盟賞の5部門を制覇した。逃げていた少女が、両親とぶつかり合い、辛い日々の中にも、心が震えるような温かい瞬間が随所で胸を打つ、台湾青春映画の系譜に連なる初々しい感動作。
  • 米文学・文化研究

    冨塚亮平

    少女の母親への愛憎相半ばする複雑な感情が、二つの国と文化に引き裂かれた家族の状況と重ねられつつ、丁寧に掬い取られている。衣服や髪型の変化といったわかりやすい符牒に加え、家族間でどの言語を用いて会話するのかという選択が、その都度少女たちの家族に対するスタンスを反映することで、思春期の不安定な心理状況がさりげなくより重層的に観客へと伝わる効果を生んでいる。言葉ではやりとりできない馬との幻想的な触れ合いが、用いる言語の変化を生む契機となる演出も巧み。

  • 日本未公開映画上映・配給団体Gucchi's Free School主宰

    降矢聡

    本作は、母の病気の?末、そして母との和解の場となるはずの弁論大会の行方といった、物語としてハイライトに向かって積みあげていく語り口を拒否しているようだ。雄弁な語りよりも、言葉にならない表情を注視し、物事をはっきりと映し出すことよりも、より曖昧で、朧げな輪郭をアンバーな光によって描き出す。上映時間内に結論など出なくても良いとでもいうかのように、ゆっくりと表情や物事に寄り添う演出は、ありきたりなホームドラマと一線を画し、静けさと深い翳りを帯びる。

  • 文筆業

    八幡橙

    アメリカでの日常を失った上、家庭内の不協和音や忍び寄るSARSの影、進学校での疎外感など鬱屈を募らせてゆく少女。母の病気が孕む死への恐れを筆頭に、次々に押し寄せる人生のままならなさに喘ぐ多感な十代を、初めてとは思えぬ憂愁の横顔を以て演じるケイトリン・ファンが、いい。その母に扮するカリーナ・ラムから漂う苛立ちと慈愛にもまた胸が詰まった。白い馬に救いを求める場面など陰翳に富む映像とそこに乗せた深い情感――新鋭女性監督ロアン・フォンイーの手腕に感服。

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