聖地には蜘蛛が巣を張るの映画専門家レビュー一覧

聖地には蜘蛛が巣を張る

2000年から2001年にかけて、イランの聖地マシュハドで、実在の殺人鬼“スパイダー・キラー”によって起こった娼婦連続殺人事件にインスパイアされたクライム・サスペンス。事件を追う女性ジャーナリスト・ラヒミが目撃した英雄視されていく犯人の真の姿とは……。スウェーデン、デンマーク合作映画「ボーダー 二つの世界」のアリ・アッバシ監督が、母国のイランに戻って撮影した。主人公のラヒミを演じたザーラ・アミール・エブラヒミが第75回カンヌ映画祭女優賞を受賞。アカデミー賞のデンマーク代表にも選出され、世界49以上の映画祭にて上映されている。
  • 米文学・文化研究

    冨塚亮平

    実話ベースのフェミサイド告発映画としての重要性もさることながら、イランの映画、社会におけるタブーを徹底的に盛り込んだハリウッド的なジャンル映画として仕上げたことで、極めて斬新な一本となっている。有害な男性性に支配された犯人の被害者性にも注目した演出と、微細な表情の変化が恐ろしいホアキン・フェニックスを思わせるメフディ・バジェスタニの怪演が、殉死しそびれた帰還兵サイードを怪物ではなく血肉を備えた人物像へと昇華させ、より複雑で厭な傑作を誕生させた。

  • 日本未公開映画上映・配給団体Gucchi's Free School主宰

    降矢聡

    16人もの娼婦を殺害した連続殺人犯と、犯人を追う女性ジャーナリストという個人を通して、女性蔑視が蔓延する宗教や社会の闇を描きだす。しかし、すでに私たちは、社会に問題があることなど十分に承知だ。だから本作も、闇を暴き出す気など、さらさらないようだ。当然のように問題があり、闇がある。暴かれることなど、どうということもないあっけらかんとした闇の存在。それらとどう対決していくかが、現代のクライム・サスペンスには問われているのかもしれない。

  • 文筆業

    八幡橙

    主題は共通するが「ボーダー 二つの世界」とは手触りが異なるのは、事実に基づいているゆえか。娼婦ばかりを狙う連続殺人を、事件を追う女性記者の姿と共に犯人を明かした上で描いてゆく中盤までの流れも非常にスリリングで興味深い。が、この映画の真の怖ろしさはその先。聖地における娼婦の殺害を“街の浄化”とし、神に捧げる善行であるとする狂った正義や信仰と、家族含めそこに賛同する特殊かつ強烈な価値観に言葉を失った。いまだ消せない差別の根深さと理不尽を改めて痛感。

1 - 3件表示/全3件