J005311の映画専門家レビュー一覧

J005311

第44回ぴあフィルムフェスティバルのグランプリ受賞作を劇場公開。思い詰めた表情で街へ出た神崎は、ひったくりをしていた山本と出会い、100万円渡す代わりに、ある場所へ送ってほしいと依頼する。こうして始まった二人の奇妙な旅の行き着く先は……。製作も兼任した野村一瑛が主演を務め、カナザワ映画祭2022 で期待の新人俳優賞を受賞。独学で映画制作を学んだ河野宏紀が初監督を務め、出演・脚本・編集・整音・製作を兼任して野村と共に本作を作り上げた。
  • 映画・音楽ジャーナリスト

    宇野維正

    東京の街(具体的には上野)をちゃんとカメラで捉えている。そんな当たり前のことが、撮影許可を取るのが容易な地方都市の匿名的な街並みばかりでロケ撮影をしている現代の日本映画を見慣れてきた目には新鮮に映る。そうしたインディペンデントであることの強みを生かした荒々しさだけでなく、役者2人(片方は監督自身)の動きの周到さや表情の繊細なニュアンスからは、作り手の映画への真摯さが伝わってきた。残念なのは、物語の助走段階から結末の予想がついてしまったこと。

  • 映画評論家

    北川れい子

    注釈が必要なタイトルだが、限りなく寡黙で限りなくシンプルなこのロードムービーの、一途な展開と微かなぬくもりに粛然とする。静かに思い詰めた正体不明の青年に焦点を当てた手持ちカメラの長回しは、当初かなり戸惑うが、その青年・神崎がひったくりの山本に声をかけてのレンタカーによる道中が、さらに無愛想で沈黙が続く。いくつかのエピソードを経ての終盤は雪が森の中、そのエンディングが心憎いほど余韻が残る。一途な手法で本作を完成させた監督とすべての関係者に乾杯!

  • 映画文筆系フリーライター。退役映写技師

    千浦僚

    著名俳優、多くの登場人物、あれこれ盛り込みひねった筋立て、凝った撮影などなどを張り倒す一撃。筆圧の強い単純な線で映画をやりきったことに感銘を受けた。だが、と注文をつけたいのは、無造作で無形式でドキュメンタリー的な撮影、という形式に囚われて、ATMから出てくる100万円や置き去りにされるスマホなど、割ってアップにするか、しっかり見せるかすべきものを捉えそこなってないかということ。とはいえその撮影の人物への張り付き、エモーションの掘り出しは見事。

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