ヘルメットワルツの映画専門家レビュー一覧

ヘルメットワルツ

工事現場で働く60歳目前の男の奮闘を描くヒューマンドラマ。オリンピック需要に沸く建築現場で働きながら、役者の仕事も続けているササキ。だが新型コロナウイルスの感染が世界中に拡大。作業員と役者の仕事ができなくなったササキはそんな状況の中、もがき続ける。出演はかつては役者として活動するも、現在は建築現場で働く佐々木和也、「岬の兄弟」の和田光沙、ピンク映画を中心に活躍する森羅万象。監督は、早川千絵、芦原健介作品のスタッフを務めてきた西村洋介。
  • 脚本家、映画監督

    井上淳一

    五輪会場の建設現場で働く売れない役者の苦闘記。コロナでさらに狂った社会を底辺から撃つ。不勉強で全く知らなかった役者さんがいい。彼らとオーディションで出会って、果たして選べるかと自分に問うた。だから選ばれるのなんて待たなくていい。どうせ大した映画じゃないんだから。貴方たちが作った映画の方がどれだけ素晴らしいか。若い人が作る映画よりどれだけ射程が長く広いか、現代を映しているか。青臭い主張、いいじゃないか。映画を観た。映画俳優を見た。また作って下さい。

  • 日本経済新聞編集委員

    古賀重樹

    東京五輪とコロナ禍の狂騒の中、時代の流れに違和感を覚える50?60代の男たちのふつふつとした怒りが伝わってくる自主映画。五輪施設の建設現場で働きながら、ささやかな役者の仕事を続けてきたという佐々木和也の実感が滲む。誰もが社会の目を忖度するばかりで、すぐ揚げ足をとりたがる。面倒なことは弱者に押し付けて、自分はわかっていると思い込む。この世代の怒りはなかなか商品にならない。予算がないのは一目瞭然だが、作り手の思いの強さがリアリティとなっている。

  • 映画評論家

    服部香穂里

    コロナ禍前後の社会の変容を、いささか愚痴っぽく冗舌に感じられる台詞に頼りすぎて映像で捉えきれていないためか、売れない役者の主人公が仕事を失い追いつめられる焦燥も、辛抱強い恋人にまで去られる切なさも、いまひとつ迫るものがない。その辺りをクリアできていれば、世知辛さの増す風潮に呑まれ、何かと要領が悪くひとの好さだけが取り柄の彼の心が荒んでいくのを、口は悪いが意外に優しい仕事仲間のおじさん軍団との他愛のないやり取りが救うドラマも、もっと響いたと思う。

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