ソフト クワイエットの映画専門家レビュー一覧
ソフト クワイエット
「ゲット・アウト」「セッション」の製作プロダクション・ブラムハウスが放つ、全編92分ワンショットの“体感型”極限クライム・スリラー。マイノリティへの偏見を持つ白人女性たちが、あるトラブルをきっかけに怪物化、平凡な日常が阿鼻叫喚の惨劇に変わる。物語を完全なるリアルタイム進行で描出し、アメリカで社会問題化しているヘイトクライム(憎悪犯罪)の狂気をえぐり出した。無名の実力俳優をキャスティングし、自らのオリジナル脚本で長編デビューを飾った女性監督ベス・デ・アラウージョの演出力も見逃せない。
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映画評論家
上島春彦
ワンショット映画の鑑というべき緻密な説話構造。妊娠検査薬の描写から始まり、黒人清掃員への難癖、それがさらに、と、一見無駄な寄り道と観客に思わせつつ、ちゃんとした起承転結あり。オチもおかしい。笑っちゃいけない。アジア系人種への差別の酷さは誇張じゃないだろう。ただ主人公集団をナチス信奉者やKKKメンバーに設定するのは分かりやすすぎる気もしないでもない。幼稚園の先生にこの手のマッチョな白人至上主義者が潜んでいてはアメリカがまともな国になるはずもないね。
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映画執筆家
児玉美月
会話劇、車の移動、夜間撮影など長回しが選択されているとは思えないような要素で構成されてゆく本作は、アクションの交差やカメラの臨場感の出し方など技術が巧みなあまりどうしても途中から主題以上に形式が気にかかってきてしまい、結果的に監督自身に強い思いがあるのであろうこの作品にあって、この作劇手法が奏功しているかはわからない。さりげなく「ブラック・ライヴズ・マター」を「オール・ライヴズ・マター」に言い換えてしまうような人間に対する観察力が高い脚本も秀逸。
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映画監督
宮崎大祐
2020年代ベスト胸糞映画の称号は満場一致で与えられるだろうし、ワンカットもどきで90分間持たせる高いサスペンス演出力も評価されるべきだ。しかしこれが本当に言いたかったことなのだろうか。アメリカの暗部を描こうとしてそのまま世界の闇に呑み込まれてしまっているというか。かくあるべしよりもかくありきを描くことにこそ芸術の存在意義はある。だからこそ、マイノリティ出身であろう本作監督にはかくありきを煮詰めた末に転がり出てくる何かを一瞬でも見せてほしかった。
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