なぎさ(2021)の映画専門家レビュー一覧

なぎさ(2021)

CMディレクターとして活躍しながら、各地の映画祭で注目を集める古川原壮志の長編デビュー作。親のない環境で育った文直と妹のなぎさ。やがて成長した文直は、なぎさを残して故郷を後にする。三年後、文直は心霊スポットのトンネルでなぎさの幽霊と出会う。出演は「グッバイ・クルエル・ワールド」の青木柚、これが映画初出演となる山崎七海。
  • 脚本家、映画監督

    井上淳一

    映画を観る力がないのか、全く話が分からなかった。チラシを読んではじめて妹が事故死したトンネルでその幽霊に出会う話だと知る。でも、それで何がどうなったのか。喪失なんて、そんな簡単に埋まらないから、どこにも着地する必要はないけど。わざと分からないようにしているアングル。これを作家っぽいと褒める人もきっといるだろう。僕には自己満足にしか見えなかったけど。ただ、前号の「サイド バイ サイド」よりは画面から喚起されるものがあった。あれ、★ひとつの間違いなので。

  • 日本経済新聞編集委員

    古賀重樹

    目を凝らすことを強いる映画だ。セリフは少なく、特に主人公の兄と妹はほとんどしゃべらない。妹が兄に会いにいく終盤のシークエンスでは兄妹ともに顔を映さない。蜜をかけた餃子、脱ぎ散らかした靴、性交の喘ぎ声と電話のバイブ音……。画面の中の事物が画面の外の人物の感情を強く想起させる。中華料理屋で嫌味な客が若い店員にねちねちと文句を言い続けるショットで、画面の外の調理場にいる主人公のふつふつとした怒りを表現する。この監督は自分の映像言語をもっている。

  • 映画評論家

    服部香穂里

    被写体が判別できぬほど仄暗く不明瞭で、台詞も喘ぎ囁き交じる聞き取りにくい場面が続き、集中力や想像力が試されるとともに、相当なストレスも強いられる。しかしその鬱屈が、ネグレクト気味の父子家庭で運命共同体として支え合い、ふたりきりで生きてきた妹を見捨ててしまった兄の、後悔と罪悪感に苛まれる心境とも重なり、怪我の功名たる効果を上げてもいる。実際に亡霊を映さず、なぎさの生前のみを鮮烈に焼きつける試みも、生ける屍と化す兄と対照を成し、余韻を悲痛に深める。

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