東京組曲2020の映画専門家レビュー一覧

東京組曲2020

「Red」の三島有紀子監督が新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言下の2020年4月22日に体験したことを元に20名の俳優たちが各自撮影、その映像をまとめたドキュメンタリー。街から人が消え先行きの見えないコロナ第1波の中を過ごす俳優たちの日常を切り取る。俳優たちの暮らしぶりや感じていることを三島監督が引き出す形で共に作ること、俳優たちが自分もしくは日常を共にする同居人が撮影すること、朝4時に女の泣き声がどこからか聞こえてくるというシチュエーションを全ての出演者共通の出来事として描くこと、の3つをポイントに撮影された映像を紡ぐ。作品のキーとなる女の泣き声を、「夜、鳥たちが啼く」の松本まりかが担当。
  • 脚本家、映画監督

    井上淳一

    ドキュメンタリーと銘打たれているが、敢えて脚本が上手いと言いたい。コロナ禍、一人暮らしも夫婦も子や猫持ちもみんな、孤独。バリエーション豊かな孤独。自然さ、あざとさ。虚と実。その連続が見事に映画になっている。ただあのオチは必要だったろうか。あの一言で逆算された計算が透けたような気がした。コロナであろうとなかろうと人は孤独で悩み多き生き物だと、敷衍できたテーマを小さくしてしまったような。あの人たちのコロナ後が見たい。そこで初めて組曲が生まれるのでは。

  • 日本経済新聞編集委員

    古賀重樹

    ステイホーム中の男優が台所でクリームチーズを作りだしたり、夫と子供を送り出してやっと一人になった女優が突然踊り出したり。緊急事態宣言下にたくさんのセルフドキュメンタリーが作られたが、シナリオに書けないような想定外の行動がやっぱり面白い。どこまでが現実でどこからが虚構かの線引きはできないけれど、頭で作っていない部分、予定調和からはみ出す部分が魅力だ。あのころの不安、孤独、失望、怒り、あせり、苛立ち。そんな感情が生々しくゴロンと転がっている。

  • 映画評論家

    服部香穂里

    コロナで飛躍の可能性さえ奪われ、くすぶる役者の自己憐憫にも似た映像を延々と見せられても、反応に窮する。不謹慎かもしれないが、限られた尺とはいえ自分だけにスポットが当たる好機を、大半の出演者が活かしきれていない歯がゆさが、作品のコンセプトの脆弱さをも露呈しているように感じる。主演作の公開延期で傷心の末に家出する“ミセス・ノイズィ”こと大高洋子と、夜道を懸命に捜し回る校正者の夫の熟年夫婦の愛の在りようは、両者の個性の面白みもあり、さすがのインパクト。

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