市子の映画専門家レビュー一覧

市子

戸田彬弘率いる劇団チーズtheaterの舞台『川辺市子のために』を原作に、戸田自ら監督し映画化。恋人の長谷川からプロポーズを受けた翌日に、突然失踪した市子。長谷川が行方を追うなか、彼女と関わりのあった人々から証言を得ていくと、衝撃的な事実が浮かび上がる。出演は「青くて痛くて脆い」の杉咲花、「窓辺にて」の若葉竜也。
  • ライター、編集

    岡本敦史

    杉咲花のボソボソ声は、いよいよ芸になりつつある……という感慨はさておき、「嫌われ松子の一生」みたいな話かと思ったら中盤からは宮部みゆき風の本格ミステリ展開になだれ込み、ぐっと面白さを増す。ただ、原作舞台では問題なかったのに映像では計算違いが生じたような場面もちらほら。特に序盤の子ども時代パートはその感が強い。また「見せずに想像させる」演出も場合によっては効果的だが、ある重要な登場人物に関しては、その人格や生活を省くべきではなかったと思う。

  • 映画評論家

    北川れい子

    衝撃的な面白さということで言えば、「市子」は、06年度のわが日本映画ベスト1の「嫌われ松子の一生」に勝るとも劣らない。ちなみに松子の姓は川尻で、市子の姓は川辺。どちらもありふれた姓名だが、姓名からして妙に似通っているのも衝撃度を倍増する。基は本作の監督・戸田彬弘が主宰する劇団の舞台劇だそうだ。突然姿を消した市子のそれまでの人生を、時間軸を何度も前後させながら手探りするように描いていくのだが、見えてくるのは、市子の行動だけ。すべてが別格の痛烈な秀作だ。

  • 映画評論家

    吉田伊知郎

    不意に人が姿を消し、身近な者が行方を追うと意外な過去や経歴が明らかになる。各時代に関わった人々の視点から不在の主人公を浮かび上がらせるというのは映画が繰り返し描いてきただけに新味は薄い。ロケセットを生かした撮影は際立つものの時代色はどの年代も薄く、コロナ時代を取り入れて空間的な広がりをもたらすような飛躍が欲しかった。市子を追うのは男ばかりで女性は脇にしかおらず、〈俺たちの市子〉が前面に出てしまう。誰が市子をこんな薄幸な目に遭わせるのか。作者だ。

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