蛇の道(2024)の映画専門家レビュー一覧

蛇の道(2024)

愛娘を惨殺された男が精神科医の女の手を借りて復讐に乗り出すリベンジ・サスペンス。「岸辺の旅」(15)でカンヌ国際映画祭ある視点部門の監督賞を、「スパイの妻〈劇場版〉」(20)でヴェネツィア国際映画祭銀獅子賞(監督賞)を受賞した黒沢清が、26年前の監督作「蛇の道」(88)を日仏共同製作でセルフリメイク。オールフランスロケ、フランス語にて撮影が行われた。復讐に協力する謎の人物を前作の男性から女性に変更、その女医・小夜子を柴咲コウが鋭く妖しい眼差しと、「野獣のような身のこなし」で演じている。加えて、2019年第72回カンヌ国際映画祭審査員賞受賞作「レ・ミゼラブル」(19)のダミアン・ボナールが復讐に燃える男を熱演。共演はフランスの名優・映画監督のマチュー・アマルリック、「シンプルな情熱」のグレゴワール・コラン。日本からは西島秀俊、青木崇高が出演。
  • 映画監督

    清原惟

    1998年の原作映画は男性同士の二人組だったが、今回は男と女に設定が変わっていたのが、印象を大きく変えていた。前作を観たのがかなり前なのでぼんやりとした記憶だが、残酷でありながらもその過剰さに少し笑いを覚えた気がする。しかし、今作は笑いが微塵もないシリアスな映画になっていた。人を拷問するシーンがフィクションに見えず、世界で今も起きている現実として見えてしまう自分の受け取り方の変化かもしれないが……。柴咲コウの本心が分からない魅惑的な声に惹きこまれた。

  • 編集者、映画批評家

    高崎俊夫

    「勝手にしやがれ」シリーズを連打していた頃に見た「蛇の道」はその酷たらしいまでの暗さに驚いたが、いっぽうで、スラップスティックすれすれのガンアクションには黒沢清の真骨頂が窺えた。リメイク版もパリの市街を柴咲コウが律儀に自転車で移動する場面や廃屋のような寂れた工場での拷問シーンまでもが前作同様の低予算感覚に貫かれ妙に感心してしまった。ただし住宅街を車で周回するだけで〈不気味なもの〉を醸成させた不可知論的な恐怖をめぐっては前作に軍配が上がるのではないか。

  • 映画批評・編集

    渡部幻

    セルフリメイクといえば、ヒッチコックや市川崑らを例に出すまでもないが、黒沢清も挑戦した。しかも最も過激だった頃の異色作を、それもフランスで。哀川翔が演じた役を柴咲コウが演じたことによって“復讐の冷酷さ”に新しいニュアンスが加わっている。が、それ以前に驚いたのは、画面構成がオリジナルからあまり変わらないことで、しかも緊張感と恐怖感が減退していたこと。そして何よりも残念なのは、マチュー・アマルリックを含むフランスの俳優が揃って精彩を欠いており、退屈な存在に思えたことだ。

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