映画専門家レビュー一覧

  • おとなの事情

    • ライター

      平田裕介

      原題がスバリそのものとなっているが、なにもかも知っているつもりの親友も家族も結局のところは秘密を抱え込んだ“見知らぬ人”である。そうしたテーマとスマートフォンを使ったやりとりはさほど目新しいものとは思えないが、サスペンスフルな演出は冴えに冴えており、明らかにされる秘密もグサグサ刺さるものばかりで、ラストまで持っていかれっぱなし。さも軽妙な大人向けコメディのような日本題とキー・ビジュアルだが、それを鵜呑みにすると痛い目に遭う密室劇だと思う。

  • SING シング

    • 翻訳家

      篠儀直子

      バックステージものに弱いわたしのツボを突く題材。歌を通じてキャラクターがみな、自分の人生の問題を乗り越えていくストーリー。クライマックスの舞台シーンは構図やカット割りも見事で、1曲終わるごとに拍手したくなる間合いが取られており、ハリウッドの古典ミュージカルを作り手がちゃんとわかっているのだなと思える。背景美術もいちいち楽しく、きゃりーぱみゅぱみゅの歌に合わせて踊る「ジャパニーズ・カワイイ」的5匹組が、どことなく日本の女の子たちっぽいのも面白い。

    • 映画監督

      内藤誠

      最近のアニメはシブイことをする。見たばかりの「虐殺器官」ではカフカの墓参りが重要なシーンになっていたし、この作品も動物たちがキャラクターなのに、それぞれが奏でる懐かしさをともなう楽曲に感情移入。コアラの主人公は父が残してくれた劇場を守ろうと孤軍奮闘する。そこに登場するブタやゾウ、ゴリラなどの動きがおかしい。パンク・ロッカーのヤマアラシなど秀逸で、ハッピー・エンドだと分かっていながら、大団円の舞台をわくわくして待った。オールディーズのファンにはお薦め。

    • ライター

      平田裕介

      “いつだって人生は変えられます”的なもの以外に深遠なテーマやメッセージがあるわけではなく、華やかなシーンを繋ぎ合わせただけの印象。だが、そうした娯楽至上主義を掲げたイルミネーション・エンタテインメント制作の作品であるのだから文句を言うのは筋違い。実際、次々と飛び出す時代とジャンルをまたぎまくった名曲&ヒット曲には聴き入ってしまうし、ユーモラスとキュートを打ち出したキャラ群にも見入ってしまう。コアラ=マシュー・マコナヘイが繰り出す妙な日本語は必聴。

  • 哭声/コクソン

    • 翻訳家

      篠儀直子

      日本語通訳を務める若者が、神の言葉を媒介する存在(教会の助祭)でもあることや、画面や挿話に現われるいくつかのシンボリズムからして、これはキリスト教的な意味での「信じること」と「疑うこと」についての物語でもある。それをアジア的視点で論じた映画と言うべきか。撮影と編集が驚くべき的確さ。謎の男に、ほかのどの日本人俳優でもなく國村隼をキャスティングしたのが大正解。いつにもましてハンサムなファン・ジョンミンが、祈祷師をスタイリッシュに演じるのも見どころ。

    • 映画監督

      内藤誠

      祈祷師が活躍する韓国映画に國村隼の日本人が参入し、彼の居住する乱雑な部屋の飾りつけとともに人物像は最後まで謎のままながら、土着的な存在自体が怖い。洋泉社の新刊『ゾンビ論』を読後に見たせいか、ゾンビの始原の地ハイチとヴードゥーの呪術を巧みに韓国の過疎地に移しかえていると思った。「エクソシスト」など、他の映画からの引用はあるものの、2時間半をもたせるのは、撮影の細部がいいせいだろう。村に住み着いた日本人というだけで、怪しい人物とは、庶民感情の反映か。

    • ライター

      平田裕介

      よそ者、毒キノコ、謎の病、呪術に翻弄され、混乱していく町の者たちと観ている者をシンクロさせる『羅生門』的構成が実に巧み。かといって玉虫色のままで終わらせず、憤怒や恐怖に駆られて闇雲に敵を見出し、それを排除する間に真の敵が跋扈するという、いつの世にも絶えぬ悪しき摂理を明確に打ち出す。たしかに前二作とは違ったスタイルではあるが、ナ・ホンジンならではの“追いつ追われつ”なシーンはしっかりと用意、吹き出す血の量も色味の赤黒配合量もアップしている。

  • ヘッド・ショット

    • 翻訳家

      篠儀直子

      冒頭の脱獄シーンで「くどいよ……」と思ったのに、しまいにはそのくどさを受け流せるようになってしまっているのだから人間の順応力は恐ろしい(?)。画面に登場した途端にみなかたっぱしから死んでいくという勢いで、ある種の韓国映画を極端にした、またはある種のボリウッド映画からミュージカルシーンを省いてバイオレンスでびしょびしょにした、みたいな感じ。上手い演出と、異様に素人っぽい演出とが混在し、キッチュな場面がてんこ盛り。カルトな人気を獲得するタイプの映画。

    • 映画監督

      内藤誠

      いま、インドネシア映画に元気があるという評判通り、冒頭から派手なアクションが始まるや、最後まで監督のモー・ブラザーズも主演のイコ・ウワイスもやる気満々、手を抜かないので、娯楽映画ながら肩に力が入ってしまう。女優の格闘技も志穂美悦子ばりですごい。凶悪な暴力を構成する要員は子どもたちを誘拐してきて育て上げるという仕組みだが、記憶喪失したイコがそのことを思い出すという構成で、この国の地方の風景のなかで撮影されると実にリアリティがあり、恐ろしく見える。

    • ライター

      平田裕介

      取調室の机に鎖で繋がれたままでの立ち回りを筆頭に、イコ・ウワイスの体技はますます絶好調。モー・ブラザーズも彼の超人的体技に負けてたまるかと、口に手を突っ込んでのアゴ裂き、エンドレスなパンチを受けて凹む顔面といった具合に、容赦なく人体を破壊させる。物語とは別に繰り広げられるそんな両者の激突に、いやおうなくヒートアップ。銃や刃物を取り入れた見せ場を連続させておいて拳VS拳で締める“わかっている”感、敵役サニー・パンが醸す尋常ならざる存在感も◎。

  • チア・ダン 女子高生がチアダンスで全米制覇しちゃったホントの話

    • 評論家

      上野昻志

      事実に基づいた物語というと、それが成功談であるだけに、話の展開はあらかじめ想像できるのだが、それでも、笑顔だけがいい、と言われる広瀬すずをはじめ、優等生タイプの中条あやみ、笑顔が苦手な山崎紘菜、丸形体型の富田望生など、それぞれ違ったタイプの少女たちがチアダンスに挑む姿は悪くない。なかでも、夜の街のショーウインドウの前でひとり踊る山崎を見つけ、広瀬がそれに合わせて踊り出し、そこに中条が加わるシーンがいい。ダンスと映画は昔から相性がいいのだ。

    • 映画評論家

      上島春彦

      集団ダンスが良くソロも良く、踊れる人を集めているのだろうが感心しきり。それだけで見る価値あり。ただ実話の枠に縛られて話が重くなった。スポ根ドラマみたいなんだよね。そうならないように演出努力がなされてはいるのだが、それだったらもっと踊りばっかりにしてくれても良かった。特に主演陣の練習シーンを長々と見たかった。先生とコーチも本格的に踊らせたかったね。残念。極端に言えばこの映画に男は不要だ。あやみの決めの一言をすずが継承するという女の友情劇は上出来。

    • 映画評論家

      モルモット吉田

      青春映画の枠に沿いつつ催涙的な場面を避け、パターン通りの描写を外す演出が見事。授業中に広瀬らが足でリズムを取る練習を密かにしていると、次のカットでは昼休みの中庭に移り、カメラが引くとその場の全員が足踏みしているというミュージカル的な処理にも瞠目。『天海祐希にやりすぎはない』と竹中直人が最近書いていたが、本作を観れば納得。「北陸代理戦争」でおなじみ福井弁を活用し、世界に打って出る話だからこそミニマムに描くという映画のサイズを心得た職人技を堪能。

  • 話す犬を、放す

    • 評論家

      上野昻志

      84分という時間の中で、三人の女性の姿がくっきりと浮かび上がる。中心は、幻覚症状などが現れる認知症の母(田島礼子)と、演劇の指導をしながら、映画に出演する機会を得た娘(つみきみほ)との関係にあるが、母親が、スーパーで赤ん坊を抱くシーンも、監督の娘を遊ばせる場面と繋がって自然に見えながら、微妙なサスペンスを孕む。それを機に、映画の仕事を降りる娘の心情も素直に胸に落ちる。認知症が、娘が母を理解する契機になることをリアルかつユーモラスに描いて○。

    • 映画評論家

      上島春彦

      よく知っている人が「偽者」に見えてしまうカプグラ症候群というのは、映画的には幻覚より地味だがもっと興味深い。映画というメディアがそもそもそういうものだからなのか。或いは母と娘というのは本来同一個体の分離だからなのかも。娘の「偽者」というお母さん独自の感覚が、この企画の実は隠し味になっている。そこからの快復が重要で。つみき(娘)が情熱型で田島(母)が理性の人、という演技の方向性(のくい違い)がうまく機能しショッピングセンターの場面とか見応えあり。

    • 映画評論家

      モルモット吉田

      俳優ワークショップで指導するつみきみほは「櫻の園」の杉山紀子のその後を見ているようだ。自分が原因の喫煙事件で上演が危ぶまれた時のようにクールに突っ張る齢でもなくなり、母のレビー小体型認知症の発病で久々の映画出演に専念できなくなる。監督の母が同様の症状らしいが病をこれ見よがしに描かないのが良い。幻視という特徴も、ごく自然にそう見えるものとして即物的に映す。劇中の監督は子育てと映画を両立させているだけに、つみきにもう少し希望を与えてほしかったが。

  • 逆行

    • 映像演出、映画評論

      荻野洋一

      巻き込まれ型サスペンスだが、その道の巨匠ヒッチコックのように細部描写に工夫を施してはいない。手持ちカメラが主人公に延々と密着することで、擬似ドキュメント路線を狙っている。主人公のNGOボランティア医師のやや過剰な正義感が裏目に出て、「よせばいいのに」という状況が何度も反復する。愚直なまでの疑似体験の追求には好感が持てる一方、第三世界におけるアメリカ人の慇懃なる傲慢さも見え隠れする。カナダの新人監督がとらえたこの二面性こそ本作の鍵だろう。

    • 脚本家

      北里宇一郎

      ここの批評欄は評価が難しい作品が多くて、いつも四苦八苦。だもんで、こういうストレートな作品に出会うとホッとする。ラオスでNGO活動をしている医師が、休暇中に、地元の女の子のレイプ現場に遭遇。カッとなって加害者のオーストラリア人男性を殴殺。以下、逃亡劇のハラハラとなるわけだが、ヒッチコック的サスペンスとはまた違うリアルな感触がある。こういう映画は、ラストの落とし所をどうするかが決め手となるが、すごく納得がいく上手い幕切れだと思った。拾い物デス!

    • 映画ライター

      中西愛子

      東南アジアのラオスでNGOの医師をする米国人男性。リゾートでの休暇中、良かれと思いとった行動が災いし、激情に駆られ殺人を犯してしまう。こうして始まる彼の逃亡劇。この医師、最初の手術シーンなどから少し荒っぽい性質が見えて、どこか不穏。都合の悪いことから逃げ続ける姿にはイライラする。原題は“川”。ずっと流れに逆らってばかりいる主人公だが、邦題の真の意味は最後にわかる。ドキュメンタリー・タッチのロケ撮影が、彼の八方塞がりをうまく炙り出していた。

  • スレイブメン

    • 評論家

      上野昻志

      マンガ的な面白さはあるんだけどな。たとえば、スレイブヘッドというヘルメットをかぶると、ナビゲーターの声が聞こえて、スキャニングカメラの作動法を指示したり、スキャニングされそうな相手が、それから逃れようと金槌で顔を隠したりするようなところ。バカバカしいといえば、バカバカしいのだが、それを大真面目(?)にやっているところは買える。ただ、主人公やヒロインの妄想が反転して、この世界が現出するという話の骨格は、ありがちで、もっとぶっ飛ぶ手はなかったか。

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