映画専門家レビュー一覧

  • プリースト 悪魔を葬る者

    • 映画系文筆業

      奈々村久生

      アジア映画として、アジア人の登場人物で、悪魔祓いのジャンルに真剣に取り組んだ心意気をまず讃えたい。その上で、かなりよく頑張ったと思う。アジア系のホラーテイストと西洋のオカルト要素を織り交ぜながら、ファンタジーに傾きすぎず、だがいざというときには憑かれた者の振り切れた怪演で理屈を超越し場を圧倒する力もある。クリスチャンの多い韓国だからこそ成立したネタかもしれない。キム・ユンソクのエクソシストっぷりとカン・ドンウォンの司祭コスチュームプレイも悪くない。

    • TVプロデューサー

      山口剛

      悪魔祓いの映画は欧米のホラーに親しんでいる者にとっては珍しくないが、意外にも韓国ではこれが初めてだそうだ。明らかに「エクソシスト」韓国版を狙っているが、安直なコピーにするまいとシャーマンなど韓国独自の風俗を取り込み工夫を凝らしており、映像はスタイリッシュ、主演コンビもいいので面白く見られた。既視感を覚えるシーンが多いのはこの種のジャンル映画では仕方がないのかもしれないが、今ひとつオリジナリティが欲しい。話の鍵となる子豚はよく判らなかった。

  • ジェーン

    • 翻訳家

      篠儀直子

      この物語のなかでジェーンの存在は「解かれるべき謎」なのだから、ダンの行動と感情で映画を駆動させていくほうが理にかなっているのに、なぜかジェーンを主役然とさせることに汲々としているため、映画を豊かにする可能性のあった要素があらかじめ全部つぶされてしまう。どうしてもジェーンを主役にしたいなら、プロットの構造を根本的に見直すべきかと。とはいえ西部劇のアイコニックな風景は目に楽しく、家に立てこもって闘う大詰めの場面は、闇と火、音響の工夫がなかなか面白い。

    • 映画監督

      内藤誠

      ナタリー・ポートマンがみずから製作・主演した西部劇。ガンさばき、砂塵をあげて走る馬、南北戦争後の街の荒れ具合など、古いファンも満足する仕上がり。ジェーンといえばドリス・デイが演じた「カラミティ・ジェーン」を思い出すけれど、母になってから1作目のポートマンも、家族のために生きる西部の強い女を汗と泥にまみれて力演。軍隊帰りでアルコール依存症の元恋人を演じるジョエル・エドガートンのしぶい雰囲気に対して、ユアン・マクレガーが冷酷な悪役を楽しそうに怪演した。

    • ライター

      平田裕介

      女性が主人公の西部劇というと「華麗なる対決」や「バンディダス」みたいな艶っぽいタイプが多い。それはそれで良いのだが、こうしたストイックなタイプが出てくるとやはり嬉しいもの。しかも、なにかと耐えて逃げるしかなかったであろう当時の女たちの憤怒も描いていて◎。それでもかなりメロドラマしているし、予定調和な展開でもあるが、男がヒロイックに活躍してきた従来の西部劇もそうだったのだから問題なし。ドンパチは地味だが、釘入り火炎瓶を使った大殺戮絵図は素晴らしい。

  • 奇蹟がくれた数式

    • 翻訳家

      篠儀直子

      この物語ならこれを語らなければいけないだろう、これを見せなければいけないだろうというものが全部きちんと押さえられていて、あまり強い刺激のない、安心して見ていられる展開と演出。理数系エリート役での出演作の日本公開が続くジェレミー・アイアンズにあって、本作でのニュアンス豊かな演技は出色。個人的には元々興味のあった題材で、ケンブリッジでさえ戦争が始まるとこんな抑圧的な雰囲気になるのかと愕然とする。意外に出番の多いバートランド・ラッセルの洒脱さが楽しい。

    • 映画監督

      内藤誠

      決闘で夭折したガロアもそうだが、数学の天才といえども社会に生きている以上、ただ紙とペンを持って問題を解いていればいいというわけにはいかない。インドの天才数学者ラマヌジャンが彼を認めたケンブリッジ大学の教授に招かれて英国に渡る話だが、デヴ・パテルとジェレミー・アイアンズが好演。第一次大戦下、トリニティ・カレッジの重々しい雰囲気が実物撮影の効果で圧巻。ここがニュートンやB・ラッセルのいた所かと感慨に耽りはじめたとたん、民族的・階級的差別の嵐が吹く。

    • ライター

      平田裕介

      もともと数字に弱く、三十代なかばから九九の“七の段”がまごつくようになった身としては劇中に登場する数式や論理などは、まったく意味不明。そういうわけでドラマに注視するのだが、ただただラマヌジャンの不遇ぶりを強調しているだけで、そこから一越え二越えしないまま終わっている。それで彼は立派な数学者でありましたみたいなクレジットを出されてもなぁ……といったところ。ただし、ケンブリッジ大トリニティ・カレッジの荘厳な佇まいをたっぷりと拝ませてくれるのは◎。

  • 朝鮮魔術師

    • 翻訳家

      篠儀直子

      韓国映画には脚本にこりすぎて話がわかりにくくなってるものが時々あるけれど、この映画はそういうレベルではなくて、話はシンプルなのに、つなぎ間違いを疑いたくなるくらい場面が(ゴダール的にではなく、もっと単純な意味で)飛びまくる。「若い人はこういうのが好きなんでしょ?」と言いたげなシーンばかり並ぶのも何だかなあ。舞台下の仕掛けを前半で印象づけてくれていたら、クライマックスはもっと面白かったのに。脇役、特に王女を守る正使と、主人公の盲目の姉に魅力あり。

    • 映画監督

      内藤誠

      朝鮮王朝時代、平安道義州の遊郭の一帯が舞台で、心ならずも清朝の王室に嫁がされる王女コ・アラが街を通りかかり、天才魔術師ユ・スンホと出会う。伝奇ロマンや、マジックが好きな者には、色鮮やかな朝鮮魔術の仕掛けが楽しめ、それを作りだす芸能人仲間たちもおかしい。スンホは片目が青く、地続きのヨーロッパの血を感じさせるのは巧妙である。敵味方のキャラクターもキメがこまかく、スンホの盲目の姉は医学と占いで身を立てているのだが、彼女に愛されず、殺意を抱く男が怖い。

    • ライター

      平田裕介

      ただでさえ麗しいうえにオッド・アイ、それを隠すための長髪をなびかせるユ・スンホ。そんな彼の容姿を筆頭に、どこまでもロマンティックが止まらない。伏線になる小道具、魅力に溢れたサブキャラたち、人体切断マジックなどの舞台装置を使った悪玉とのバトルといった具合に、その他の要素もカチッとまとまっていてどこまでもウェルメイド。おかげで汚ッサンの俺もしっかり胸キュンできたし、ドキドキもできた。ヒロインを演じる女優のコ・アラなんて名も含め、すべてが愛おしい一本。

  • われらが背きし者

    • 映像演出、映画評論

      荻野洋一

      ロシアマフィアのマネーロンダリングをテーマに世界各地でロケしたスパイアクションだが、この映画は主人公夫婦の倦怠と不和が前提となっている点が興味深い。大スケールの亡命劇と一夫婦の問題が(等価とまでは言わないが)二重のサスペンスを織りなす、そのサイズの大小を無化する対称性こそ、映画というものの魅力ではないか。「ラッシュ」「白鯨との闘い」などロン・ハワード監督の近作で撮影を担当したアンソニー・ドッド・マントルが再び切れ味鋭いカメラワークを見せる。

    • 脚本家

      北里宇一郎

      ル・カレ映画に駄作なし。おまけに今回は原作者が製作も兼ねてというので期待したが。小説の方は現況のスパイ活動を反映してあまり意気があがらず、中程度の面白さ。それを脚本は、活劇的趣向を盛り込んだりして映画的にまとめ、結末など上手く納めている。が、巻き込まれ型サスペンスに徹すればもっとスッキリしたんじゃないかとも。演出に味がなく、雰囲気描写が弱いのが残念。お話のキー・パーソンとなるスカルスガルドが相変わらずの好演。マクレガー君に元気がないのが気になる。

    • 映画ライター

      中西愛子

      ジョン・ル・カレのスパイ小説を映画化したエンタテインメント。ごく普通のイギリス人大学教授と弁護士の妻。倦怠期夫婦が外国旅行先で危険な亡命劇に巻き込まれる。巻き込まれキャラとして申し分ないユアン・マクレガーが、期待通りに人のよさにつけこまれて翻弄される。そんなユアンと優秀な妻ナオミ・ハリスのバランスがよく、安定した出来栄えなのだけど、家族というテーマ性が強すぎて、スパイ映画としてはややぬるいような。それも現代的なのだととれば、ある意味、斬新。

  • スター・トレック BEYOND

    • 翻訳家

      篠儀直子

      もちろん大がかりなアクションシーンはあるし、デザインもスケールアップしているけれど、元々のTVシリーズ(『宇宙大作戦』と呼ぶべきか!)の面白さはこれだったのだと思い出させられて個人的に狂喜。おなじみのキャラクターたちが魅力を発揮、ユーモアが全篇にみなぎっているのも最高で、ろくな兵器もなしに敵の大編隊に立ち向かうところのアイディアは、見せ方ともどもめっちゃ笑った。L・ニモイ追悼の意をこめたシーンもあり、A・イェルチンの明るさにもあらためてしんみり。

    • 映画監督

      内藤誠

      現実に宇宙船に乗り込む人たちを見ていて気持ちがいいのは、異国の者どうしが一つの目的に向かって楽しそうにやっていることだが、このシリーズでは、人種の違いどころか、異星人どうしも団結しているのだ。今回は特殊メイクと衣裳のチームが頑張って、50種以上の異星人が登場している。未知の星に不時着した宇宙船救出ミッションに出発した主人公たちに、突然、謎の異星人たちが襲いかかる。おかしいのは宇宙においても空手風の武術とオートバイ・アクションでけりをつけることだ。

    • ライター

      平田裕介

      これまでのスタトレと比べると……みたいなことをウダウダ考える暇など与えぬ、尋常ならざるスピード感が妙味である新シリーズ。となると、J・リンの起用はドンピシャなわけで、ノリの良さは歴代最高といっていい。メンバー各自の活躍ぶりと連帯感の描き方もこれまた歴代最強で、彼が「ワイルド・スピード」シリーズで培った手腕が見事に花開く形に。ただ、“仲間は大事”的な空気が濃すぎて「ワンピース」を観ている気分にもなってくる。L・ニモイとA・イェルチンへの追悼には涙。

  • 何者

    • 評論家

      上野昻志

      これは、そのまま舞台にのせられる。というより、舞台でやったほうが生きるはずだ。ま、舞台だと、セリフが必要になるところを、映画では、俳優の表情の変化で見せることができる、というのが作り手にとっては魅力なのだろう。が、それが映画として見る者にとっての魅力にはならない。だいたい、いつも何か言いたげに人を見ながらスマホを弄っている男の顔を長々と見せられても、面白くも可笑しくもない。これが、原作者の見るいまの若者のリアルだとすると、ご愁傷様とでも言うしかない。

    • 映画評論家

      上島春彦

      就活大学生群像と見せかけつつ実は、演劇を諦めた台本作家健と彼の元の相棒(演出家で活動続行中)の葛藤がキー。相棒は顔も現れないがそれにより逆に、彼が健のオルターエゴであることを明示する。もう一つのキーはSNS。そこでの相棒の華々しい自己顕示に反発する健の発信する執拗なメールが「嫌~な」クライマックスの伏線となる。でもこの感じが実にいい! さらに監督の専門領域である舞台の趣向が映画に侵入する構成がトリッキーで物語よりもこのハイブリッド感覚が新機軸。

    • 映画評論家

      モルモット吉田

      演劇畑の監督だけあってリハーサルを重ねて若手俳優たちを磨き上げたのがうかがえる。静かに嫉妬する佐藤とベッキー風の雰囲気を放つ二階堂が出色。しかし台詞と演技へ比重がかかりすぎ、描写は薄まっている。SNSあるあるには笑うが細部の面白さに留まる。軽い言葉を浮遊させるツイッターの書き込みを深刻めいて表示した上に声も重ねるのは大げさ。表アカ、裏アカ、LINEを駆使して、同じタイムライン上で感情の表裏を同時に伝える映画ならではの文字表現も可能だったのでは。

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