映画専門家レビュー一覧

  • 彼岸島 デラックス

    • 映画評論家

      北川れい子

      急げ、走れ、逃げろ! 急げ、走れ、逃げろ! でも結局、主人公たちは、かつて人間だった吸血鬼と闘う羽目になり、が、一難去ってまだ一難、急げ、走れ、逃げろ! で、フト思った。彼岸島を現代の日本に置き換え、ウイルスを持つ吸血鬼やモンスターを原……、おっと、考えすぎか。ともあれ、この呪われた島で人間が生き延びるには、走って逃げるしかなさそうなのが不気味で、それができないある集団のエピソードが苦い。どこか愛嬌があるモンスターの造型たちが面白い。

    • 映画文筆系フリーライター、退役映写技師

      千浦僚

      ソードアクション、ワイヤーアクション、VFXはすごいかもだけど、こりゃおかしくないか。ちゃんと始まらないし終わりもしない。見せ場のようなものが全体に撒き散らされてとっちらかったまま。原作漫画はもちろん、ワーナー・ブラザースによる2010年の映画化にも負けているのではないか。えーと、良いところを探すならば、良いところを探すならば……、あ、『ウルトラファイト』っぽい、ということか。それと、“地獄にいちばん近い島”というコピーはちょっと面白かった。

    • 映画評論家

      松崎健夫

      刀一本で吸血鬼を斬って斬って斬りまくる本作は、本来であれば時代劇のジャンルとしても成立するのだが、現代のバンパイア物(ゾンビ物のようでもある)の文脈で語れるという側面がある。『仮面の忍者 赤影』の第3部・第4部に登場した怪獣の如き巨大な〈鬼〉は、その代表格。また孤島を舞台にすることで、“生き残り”というゲーム的要素も加わり、さらに“カインとアベル”的な兄弟同士の確執も盛り込むなど、そのてんこ盛りっぷりが「デラックス」のタイトルに適っている。

  • お元気ですか?

    • 評論家

      上野昻志

      次々と電話をかけるヒロイン。かける彼女と受けた相手が交互に画面に現れる。その間に、徐々にヒロインの過去が挿入される。だから、3人目ぐらいで、もう、その先の展開が読めてしまう。あとは、結末をどうつけるのか、その興味だけになってしまうのが、なんとも勿体ない(!?)。途中で、車に乗った親切な医大生のカップルと出会うから、彼らが、最後にきっと関わってくるはず、と思うとその通りで……イヤ、ここまで律儀に予想通りの展開を見せてくれた映画の悪口など言えません。

    • 映画評論家

      上島春彦

      良い話である。構成もしっかりしているし。でも見終わると映画じゃなくてもいいんじゃないか、と思ってしまうのが難。ただし星が伸びなかったのはそのせいではなく、どう考えても長いからだ。このネタならば一時間で語るべきだろう。またオチもありそうな類のものである。もう一つ何か仕掛けが欲しかったというのはあるが、展開自体はきびきびして飽きさせない。交通事故シーンの念入りさはさすが室賀厚、などと書いてもあまり褒めたことにはならないだろうヒューマンドラマだった。

    • 映画評論家

      モルモット吉田

      ××前の十人への電話という設定は小品によく合う。主人公の一挙手一投足から思い出が甦る作りだけに展開が遅いが、潤沢には見えない製作条件を演出のサボりの言い訳にはせず、飽きさせない作りになっているので好感を持って観ていられる。室賀の「ザ・ワイルドビート」「SCORE」世代としては「デス・プルーフ」前半の有名シーンを何の捻りもなくパクる室賀イズムに呆れつつも拍手喝采。初期作から付き合ってきた菅田俊の顔出しといい、室賀作品の痕跡はしかと刻まれている。

  • ダゲレオタイプの女

    • 批評家。音楽レーベルHEADZ主宰

      佐々木敦

      現在絶好調と言ってよい黒沢清監督、初の「外国映画」。空虚な工事現場、奇妙な構造の屋敷、幽霊たち、狂気にも近い妄執などなど、過去の黒沢作品を想起させるさまざま要素が全篇にちりばめられ、さながら集大成の趣き。被写体の長時間の拘束を必要とするダゲレオタイプというアイデア自体がユニークだが、実は「拘束」されているのはモデルの女性たちではない。男たちの心である。タハール・ラヒムが素晴らしい。まさかクロキヨ映画のラストシーンで泣かされるとは! 文句なしの傑作。

    • 映画系文筆業

      奈々村久生

      フランスで撮られたことを含めて「顔のない眼」(59)のような世界観を彷彿とさせるが、どこで撮ろうとも廃墟や工事現場、ゴミ置場などその光景には黒沢印が刻まれている。そこに生きるのはほとんど常軌を逸した男たち。死んだ妻の気配にとらわれた写真家と、生きているのかどうかもわからない娘を思い続ける青年。恐怖というより滑稽ですらある二人の言動からうかがえる黒沢監督の恋愛観は巨匠のそれとは信じられないほどピュアで可愛らしく、若者には到底真似できない大人の純愛映画だ。

    • TVプロデューサー

      山口剛

      最古の写真、銀板写真には死の匂いがするという。被写体を長時間拘束するため作品にサディズム、マゾヒズムの影が映るのだろうか。映画の原風景を感じる。銀板写真家の助手の青年が経験する異常な世界の死と愛の物語だ。猟奇的世界を描きながらも、確実な技術に基づいた映像は格調と趣味の良さを失なわない。黒沢清のすべてが込められた映画のような気がした。先日の映画「ヒッチコック/トリュフォー」では黒沢の喋りが少なく不満を覚えたが、それを補う回答のようにも思えた。

  • 永い言い訳

    • 映画評論家

      北川れい子

      人間のある種のずるさやエコイズムを描いて西川美和監督が突出した作家であることは周知の事実。が、今回は、是枝裕和監督「そして父になる」の西川監督版の印象も。2組の夫婦の事故死した妻たちのことは別にして、本木雅弘のキャラクターは「そして父に…」の福山雅治に近いし、竹原ピストルの役はリリー・フランキーに似ている。つまりインテリと庶民にキャラ分けされ、その間を子どもがつなぎ……。本木も竹原の演技も申し分ないし、子役2人もみごとだが、既視感は否めない。

    • 映画文筆系フリーライター、退役映写技師

      千浦僚

      これは、実は主人公の作家が、反省つうか変化できず、映画の始まりに直面した自己の偽装を、映画の終わりまでに一層強固にし、その厭らしさを?みしめ味わいながらもそうするしかない話であって、それは安直ないいお話をつくっていなくて良かった。だって妻が死んで、夫が泣こうが泣くまいがどうでもよく、本気でそこだけにこだわるのはくだらないことだもの。そこはわかっている作品。あと、子役、子どもの登場人物の存在感と破壊力はすごい。彼らこそ主役のようにも感じられた。

    • 映画評論家

      松崎健夫

      人は目の前から突然いなくなることがある。その喪失感だけでなく、そのことをどこか絵空事、或いは、非現実的なことでしか受け入れられない、という真理のようなものが本作にはある。日常生活の中で、他人を受け入れることも、誰かの死を受け入れることも、同じような“時間”の経過が必要であると描きながら、実のところ「本人次第である」とも描いている。“人それぞれである”ことを暗喩させるように、車中のラジオで流れている番組が『東京ポッド許可局』の鼎談である点も一興。

  • 少女(2016)

    • 評論家

      上野昻志

      十字架を背に古風な制服を纏った少女たちが、声を揃えて語るシーンが、物語の幕開けとしてインパクトがあると考えたのかもしれないが、それが逆に、手垢にまみれた「心の闇」という観念で拵えあげた積み木細工という印象を招く。そんなものを取っ払って、フラットに進めたほうが、少女たちの暗さをリアルに浮かび上がらせたのではないかね。後半、病気の子どもたちが登場するあたりから、画面も連鎖的に動き出すのだから、端から、そのような作り方をすればよかったのに、と思う。

    • 映画評論家

      上島春彦

      ゴシックホラー風予告篇からは想像もできないが、私の偏愛するジャンル、夏休み青春映画の逸品である。女子高の単位取得科目(ボランティア)に施設での介護活動を選んだ二人の少女。一人は作家志願。仲たがいしてしまった彼女達それぞれが夏を終えると、一つ大人になり、また誤解も解ける。バラバラな素材が最後には緊密に全てつながり合う感じ、これは原作由来なのだろう。何もそこまで、という気もするが仕方がない。小説執筆も中二病みたいなもんだが誰にもそういう時代はある。

    • 映画評論家

      モルモット吉田

      これほど信じ難い行動の数々を偶然と因縁で片付ける映画も珍しい。教師に盗まれた本田の書いた小説が新人賞を受賞するが、手書きでもコピーや第三者が読んでいる可能性があるだろうに教師の悪びれない振る舞いが分からない。痴漢冤罪で全てを失って他人を寄せ付けない稲垣のアパートへ夜、無理矢理押しかけて部屋に居座る山本の無神経ぶりも酷い。同じ月永雄太撮影でも「零~ゼロ~」の様なゴシックな雰囲気で学校を観たかったが。本田の悪い種子ぶりが実年齢差はともかく悪くない。

  • 淵に立つ

    • 評論家

      上野昻志

      一見、平凡な家庭に異物が入ってきたことで、それまで抑え込まれていた家族の裸形が露呈していくという構図は、深田自身の「歓待」以前に、「テオレマ」のような見事な例があるが、本作の見所は、そのような関係図を生きる俳優の演技にあるだろう。とりわけ、妻の章江役の筒井真理子に。存在において異人ぶりを発揮する浅野忠信と、演技を殺す技でみせる古舘寬治の二人を相手に、彼女は、妻=女としての微妙な変化から、決定的な変化に到る振幅を見事に表現している。

    • 映画評論家

      上島春彦

      これまでの監督の作風から「テオレマ」的な物語を予想したのだが違っており、もっと怖い。この怖さは訪問者の存在が形而上的な謎ではなく、むしろ身に覚えのある訪問だったせいだ。夫が彼を歓待したのは寛大さからではなく、実は卑屈さ故であり、その感じを出すのに訪問者浅野と古い友人古舘というコンビはうってつけ。とはいえ浅野の役柄の振れ幅の大きさはそれ自体謎。よくよく考えると彼は何を思い一家を訪ねたのか結局分からないまま時間がぽーんと飛ぶ。この展開も素晴らしい。

    • 映画評論家

      モルモット吉田

      平凡な家庭に侵入した異物が夫婦の内面を露わにする。古舘と筒井の夫婦が素晴らしいが、円熟を増した浅野が闖入することで時として演劇的な言語が占める空間を、映画言語でかき乱してくれる。印象的な背中越しの移動ショット、オルガン、歌、浅野の寝る時まで同じ端正な服装など、終始画面に緊張と異物感を漂わす演出に瞠目。筒井が主演女優賞級の演技。8年後の後半は破れ目が用意され、口当たり良く終わらせまいとする足掻きが魅力となるが食い足りなさも残る。あと1時間あれば。

  • お父さんと伊藤さん

    • 映画評論家

      北川れい子

      ちょっとしたドラマ付きの環境映像並の作品だ。観ていて邪魔にはならないが、残るものもない。やたらに細部やモノにこだわり、それがその人の人間性でもあるように描いているが、ウスターソースをウースターと言ったからって、ただのクセ、それをいちいち特別であるかのように演出するタナダ節にこっちが飽きたか。そういう意味では出演者たちが喜ぶ映画かも。じっくり、ゆったり、そしてどこかトボケた演技がほとんどで、さしずめスローライフ芝居ごっこ。上野樹里は食べてばかり。

    • 映画文筆系フリーライター、退役映写技師

      千浦僚

      観始めたとき、イヤなものを見せられるのではと身構えたが、そんなことはなかった。三十過ぎのヒロインがそれなりに成熟していて(そうでない面もあるが)二十歳年上彼氏にも七十代父親にも依存も萎縮もしてなくて。上野樹里素敵。いまの邦画におけるリリー・フランキーのウザくない助言者ナンバーワンとしての無敵さも再確認。そこにダスティン・ホフマンばりの作り込んだキャラをぶっこんでくる藤竜也。映像にも力がある。生活に関する発見や提案を孕む映画となってもいる。良い。

10181 - 10200件表示/全11455件