制作年: 1969
ハヤブサと戯れることだけが生きがいの労働者階級の少年の姿を、叙情性と冷酷さが同居する鮮やかなタッチで描き出した一編。監督は「夜空に星のあるように」「リフ・ラフ」「レイニング・ストーンズ」のケン(ケネス)・ローチで、戦後イギリス映画で最も重要な映画作家と言われる彼の長編第2作。素人俳優の使用、徹底したロケーション主義など、禁欲的で知性あふれるスタイルが見どころで、監督自身が自らの最高傑作に挙げている。製作は『キャシー・カム・ホーム』(日本未公開)などローチとのコンビで知られるトニー・ガーネット、本作のためにローチとケストレル・フィルムズを興した。脚本はバリー・ハインズの未発表小説『Kestrel for Knave(少年の長元坊)』を基に、ハインズとローチが共同で執筆。望遠レンズの巧みな使用とロングショットの交錯が印象的な撮影は、のちに「キリング・フィールド」「ミッション」を手掛ける名手クリス・メンジス。出演は主人公ビリーに扮するデイヴィッド・ブラッドリーをはじめ、全員が実際に炭鉱町に住む労働者階級の人々である。ビリーに理解を示す教師を演ずるコリン・ウェランドのみが職業俳優で、後年「わらの犬」(出演)をへて、「炎のランナー」(81)で第54回アカデミー脚本賞を受賞した。ロケ地の炭鉱町は原作・脚本のハインズの生まれ故郷バーンズレイで、主要な舞台でもある学校では、彼が実際に教鞭を取っていたこともある。69年カルロヴィ・ヴァリ映画祭でグランプリを受賞。日本ではテレビ放映のほか、94年に川崎市民ミュージアムのケン・ローチ回顧特集でも上映。