アレクサンドル・ソクーロフ

  • 出身地:旧ソ連シベリア地方、イルクーツクのポドルヴィハ村
  • 生年月日:1951/06/14

略歴 / Brief history

【発禁処分を経て、現代ロシアを代表する世界的な名匠に】旧ソ連シベリア地方、イルクーツクのポドルヴィハ村に生まれ、軍人だった父の転勤伴いポーランド、トルコ、トルキスタンで少年時代を過ごした。ゴーリキー大学で歴史学を学び、モスクワの国立映画学校監督コースへ進学。卒業制作の「孤独な声」(78)は大学からも政府当局からも拒絶され公開禁止処分を受けたが、アンドレイ・タルコフスキーの推薦でレン・フィルム撮影所に就職し、多くのドキュメンタリーを手がける。しかしソクーロフの作品はすべて発禁扱いされ、ペレストロイカ後の1987年まで一般公開されることはなかった。ソビエト崩壊後、この時期のドキュメンタリー「マリア」(78)、「痛ましき無関心」(83)から、「日陽はしづかに発酵し…」(88)をはじめとする新作劇映画が旺盛に発表され、90年代以降のロシア映画を代表する監督として認知される。そして2002年、エルミタージュ美術館で90分ワンカット撮影を敢行した「エルミタージュ幻想」で、ソクーロフの名は国際的なものとなった。日本への関心が深いことでも知られており、99年に『死の棘』の作家・島尾敏雄の妻、島尾ミホに密着したドキュメンタリー「ドルチェ・優しく」(99)を発表。また、昭和天皇を主人公にした「太陽」(05)は公開前から日本で大きな話題となり、単館公開にもかかわらず大ヒットを記録した。ドキュメンタリーと劇映画を交互に製作し続け、世界的チェリスト、ムスティスラフ・ロストロポーヴィチの記録映画「ロストロポーヴィチ・人生の祭典」(06)のあとに、ロストロポーヴィチ夫人のガリーナ・ヴィシネフスカヤを主演に据えた劇映画「チェチェンへ・アレクサンドラの旅」(07)を発表したりもしている。【タルコフスキー以降のロシア映画を牽引】映画監督として活動し始めた20代から30代半ばまでは、政府当局から一般公開を禁止され不遇の時を過ごした。映像と音、光を駆使した絵画のような画面構成、キリスト教的世界観、生と死のエロティシズムなどがソクーロフの特徴として挙げられ、その代表例が初期作の「日陽はしづかに発酵し…」である。これらの要素を組み合わせて壮大なスケールの映画空間を生み出すところには、しばしばタルコフスキーの影響が指摘されている“生と死の三部作”(「セカンド・サークル」「ストーン・クリミアの亡霊」「静かなる一頁」)、“人間関係に焦点を当てた三部作”(「マザー、サン」「ファザー、サン」、「ブラザー、シスター」)、“権力者の四部作”(「モレク神」「牡牛座・レーニンの肖像」「太陽」、「Faust」)といった、ある主題に沿ったシリーズを定期的に発表。職業俳優ではない人間を役者として起用することも多く、「日陽はしづかに発酵し…」「ファザー、サン」に見られるように美青年を好む傾向もある。

アレクサンドル・ソクーロフの関連作品 / Related Work

作品情報を見る

  • 独裁者たちのとき

    制作年: 2022
    「太陽」「エルミタージュ幻想」のアレクサンドル・ソクーロフ監督による驚異の映像詩。黄泉の国を思わせる廃墟のなか、第二次世界大戦時に世界を牛耳っていたヒトラー、スターリン、チャーチル、ムッソリーニといった4人の独裁者たちが、天国の門を目指し彷徨う。独裁者たちの姿は、膨大な量のアーカイヴ素材からのみで構築され、すべて彼らの存命中に撮影された実際の映像を使用。また、独裁者たちの語るセリフはいずれも過去の手記や実際の発言の引用である。第35回東京国際映画祭にて『フェアリーテイル』のタイトルで上映。
  • フランコフォニア ルーヴルの記憶

    制作年: 2015
    アレクサンドル・ソクーロフが、第二次世界大戦当時のナチス・ドイツのパリ侵攻を入り口に、ルーヴル美術館が見つめてきた美と戦争の歴史を辿る叙事詩。ルーヴルの館長ジョジャールとナチス将校メッテルニヒは、美術館を守るという使命で結ばれてゆく。撮影は実際にルーヴル美術館内で行われている。出演は「めぐりあう日」のルイ=ド・ドゥ・ラングサン。
    60
  • ファウスト(2012)

    制作年: 2011
    文豪ゲーテの名作を「太陽」のアレクサンドル・ソクーロフ監督が映画化。人生に迷い、生きる意味を探し求めていた学者が、愛を求めて悪魔と契約したことから翻弄されてゆく姿を描く。主演は、アカデミー賞外国語映画賞ノミネート作品「Revanche」にも出演のヨハネス・ツァイラー。ヴェネチア国際映画祭金獅子賞受賞。
    60
  • ボヴァリー夫人(2009)

    制作年: 2009
    19世紀にフローベールが発表し、風俗紊乱の罪に問われた仏文学の傑作を「チェチェンへ アレクサンドラの旅」のアレクサンドル・ソクーロフが映画化。夫に失望した町医者の妻が、他の男との情事と浪費の果てに破滅してゆく。主演は「La gare de...」のセシル・セルヴダギ。衣装デザインはクリスチャン・ディオール。
  • チェチェンへ アレクサンドラの旅

    制作年: 2007
    昭和天皇を主人公にした「太陽」で話題を呼んだアレクサンダー・ソクーロフ監督が、荒廃したチェチェン共和国のロシア軍駐屯地を舞台に、軍人の孫に会いに来た一人の老女の目を通して戦争の姿を描く。実在の駐屯地でロケを行い、出演者も素人を多数起用して製作された。主演は世界的なソプラノ歌手ガリーナ・ヴィシネフスカヤ。
  • ロストロポーヴィチ 人生の祭典

    制作年: 2006
    20世紀の最も偉大なチェリスト、ムスティフラフ・ロストロポーヴィチ。彼の妻でボリショイ劇場を席巻したソプラノ歌手、ガリーナ・ヴィシネフスカヤ。激動の20世紀を生き抜いてきた二人の、人生を通して紐解かれる人間愛と芸術の歴史を描いたドキュメンタリー。監督は、敗戦前後の昭和天皇の孤独と苦しみを描いた映画「太陽」や、驚異の90分ワンカット映像として話題となった「エルミタージュ幻想」などのアレクサンドル・ソクーロフ。