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公民権運動に火をつけた母親の愛と正義。黒人少年殺害の実話に基づく「ティル」
2023年8月23日1955年8月28日にミシシッピ州で、黒人少年が惨殺される。母親は悲痛を胸に、黒人の生活を脅かすアメリカ社会に立ち向かう──。黒人の公民権運動を大きく前進させるきっかけとなった《エメット・ティル殺害事件》を映画化した「ティル」が、12月15日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほかで全国公開。本ポスターと場面写真が到着した。 1955年のイリノイ州シカゴ。夫が戦死して以来、空軍で唯一の黒人女性職員として働くメイミー・ティル(ダニエル・デッドワイラー)は、14歳の一人息子エメット(ジェイリン・ホール)と平穏に暮らしていた。 しかし、エメットが初めて故郷を離れ、ミシシッピ州マネーの親戚宅を訪れた際に悲劇は起きる。飲食雑貨店で白人女性キャロリン(ヘイリー・ベネット)に向けて「口笛を吹いた」ことで、エメットは白人たちの怒りを買い、リンチの末に殺されて川に投げ捨てられた。 変わり果てた息子と対面したメイミーは、この陰惨な事件を世に知らしめるため、ある大胆な行動に出る。その姿は多くの黒人に勇気を与え、社会変革の原動力となっていく──。 製作をウーピー・ゴールドバーグや「007」シリーズのバーバラ・ブロッコリらが担当(ウーピーは出演もしている)。60の映画祭で21部門受賞、86部門ノミネートを果たし、主演ダニエル・デッドワイラーはゴッサム・インディペンデント映画賞、ナショナル・ボード・オブ・レビュー、サテライト賞などで女優賞に輝いた。 2022年3月には、人種差別によるリンチを連邦法の憎悪犯罪(ヘイトクライム)とする〈エメット・ティル反リンチ法〉が成立している。愛情深い母親であり、勇気ある改革者。その魂に触れる実録劇に注目したい。 「ティル」 製作:ウーピー・ゴールドバーグ、バーバラ・ブロッコリ 監督・脚本:シノニエ・チュクウ 出演:ダニエル・デッドワイラー、ウーピー・ゴールドバーグ、ジェイリン・ホール、ショーン・パトリック・トーマス、ジョン・ダグラス・トンプソン、ヘイリー・ベネット 2022年/アメリカ/シネマスコープ/130分/カラー/英語/5.1ch/原題『TILL』/字幕翻訳:風間綾平/PG-12/配給:パルコ、ユニバーサル映画 © 2022 Orion Releasing LLC. All rights reserved. -
禁じられた美の世界に迫り、“性” と “生” を発見する。「春の画 SHUNGA」
2023年8月23日葛飾北斎、喜多川歌麿をはじめとする江戸の浮世絵師たちが、並々ならぬ情熱を注いだ《春画》。数多の一級作品が生まれたが、明治時代になると “猥褻画” として取り締まられ、日本文化から姿を消した。出版物や展覧会を通し、アートとして再評価の機運が高まったのは、つい最近のことだ。10月13日(金)には劇映画「春画先生」が封切られる。 そしてこのたび、春画の世界に迫ったドキュメンタリー「春の画 SHUNGA(はるのえ しゅんが)」を11月よりシネスイッチ銀座ほかで全国公開することが決定。ポスタービジュアルが到着した。 映し出されるのは、北斎の有名な “蛸と海女” の絵、歌麿の『歌まくら』、鳥居清長の『袖の巻』、鈴木春信のユーモラスな『風流艶色真似ゑもん』、大名家への嫁入り道具と伝えられる華麗な肉筆巻物、ヨーロッパのコレクター秘蔵の春画幽霊図などバラエティに富んだ傑作の数々。さらに、贅を尽くした源氏物語のパロディ『正写相生源氏』(歌川国貞)の絢爛豪華な “極初摺り” も登場。金・銀などを惜しみなく使い、超絶技巧を駆使した立体的な表現は、現代では再現不可能とまで言われている。 春画に描かれた性愛のかたちは驚くほど多彩。そこに歓喜と興奮、情熱と悲哀、嫉妬、駆け引きなど人間味あふれるドラマが浮上し、《笑い絵》と称される春画ならではのユーモアも滲み、まさに生命そのものの魅力となって観る者を引き込む。復刻やデジタル化などのプロジェクト紹介、春画のアニメ化も見どころだ。 監督は数々のドキュメンタリー番組を手掛けてきた平田潤子。約150年間にわたって禁じられ、忘れられた《春画》のドラマチックさに惹かれ、北海道から九州、さらに海外まで取材し、美術コレクターや浮世絵研究家、美術史家、彫師、画家などを取材した。アニメパートでは、森山未來と吉田羊がボイスキャストを務める。 〈コメント〉 平田潤子監督 なぜ日本にはこんなにもエロなアートがあるんだろう?この圧倒的なクオリティと成熟はなぜ?そんな好奇心から春画をめぐる旅をはじめました。ご先祖さまたちの性に対する飽くなき探求心に、感心したりあきれたり…でも撮影を通して感じたのは、生そのものの持つ官能性と、美しさでした。 めくるめく春画の世界に描かれた、ちょっとおかしくて愛おしい人間たち。今と変わらぬ彼らの姿を、ぜひのぞき見てください。 小室直子(企画・プロデュース) 本作は2019年の夏ごろから企画をはじめました。本年10月13日公開の劇映画『春画先生』(塩田明彦監督、ハピネット・ファントムスタジオ配給)を制作する中で、あまりに春画世界が奥深くしかも、書籍でしか知ることのできない興味深いエピソードや作品にあふれていることを知りました。テレビでは放送できないけれど、映画館であれば映像で春画世界をもっと多くの皆様に紹介できると制作を決意しました。今まで春画について聞いたことがあるけど、良く知る機会がなかった皆様に楽しんでいただけると思います。 橋本佳子(プロデューサー) 5年前、日米国際共同制作の番組「江戸あばんぎゃるど」を制作しNHKで放送した。浮世絵をテーマにしながらもテレビという性質上、春画には触れることが出来ず、今回ついにその素晴らしさを描くことが叶えられた。期せずして出演者、スタッフに女性が多く集まった本作。その視点からタブーの存在として秘匿されてきた春画の豊穣な世界を紐解き、軽やかに令和の時代に解き放した。 「春の画 SHUNGA」 出演:横尾忠則、会田誠、木村了子、石上阿希、早川聞多、浦上満、アンドリュー・ガーストル、ミカエル・フォーニッツ、橋本麻里、朝吹真理子、春画ール、ヴィヴィアン佐藤、樋口一貴、高橋由貴子、山川良一 朗読:森山未來、吉田羊 監督:平田潤子 製作:中西一雄、小林敏之 企画・プロデュース:小室直子 プロデューサー:橋本佳子 音楽:原摩利彦 撮影:山崎裕、髙野大樹 録音:森英司、阿斯汗 編集:鈴尾啓太 構成:檀乃歩也 製作:『春の画 SHUNGA』製作委員会(カルチュア・エンタテインメント、TCエンタテインメント) 企画・製作:カルチュア・エンタテインメント 制作:ドキュメンタリージャパン 配給:カルチュア・パブリッシャーズ 2023/日本/カラー/ビスタサイズ/5.1ch/121分/デジタル/レーティング:R18+ ©2023『春の画 SHUNGA』製作委員会 ※一部劇場では4K上映 文化庁文化芸術振興費補助金(映画創造活動支援事業)独立行政法人日本芸術文化振興会 公式サイト:www.culture-pub.jp/harunoe/ -
家族と平穏に暮らすことだけが生きがいの “普通のお父さん” 鳥栖哲雄は、娘の暴力的な彼氏を殺してしまう。その先に待つのは、半グレ組織だった……。2017年よりヤングマガジンで連載中、今年4月にはTVアニメ化された漫画『マイホームヒーロー』(原作:山川直輝/漫画:朝基まさし)が、佐々木蔵之介、高橋恭平(なにわ男子)、齋藤飛鳥、木村多江らの共演により、ドラマ化および映画化されることが決定。ドラマは10月24日(火)よりMBS/TBSドラマイズム枠で放送、映画は2024年春に全国公開される。ドラマポスタービジュアルと超特報映像が解禁された。 監督は『ドラゴン桜』『グランメゾン東京』『ユニコーンに乗って』などのドラマを演出してきた青山貴洋で、今回が初の劇場長編映画となる。 “娘を守るため” 殺人犯になった鳥栖哲雄は、家族のヒーローか、それともただの犯罪者か? 半グレ組織に追い込まれたサラリーマンが、趣味の推理小説で培った知恵と家族愛を武器に闘うノンストップファミリーサスペンスだ。 〈ドラマ『マイホームヒーロー』登場人物紹介&演者コメント〉 鳥栖哲雄 (演:佐々木蔵之介) おもちゃメーカーで営業を務める平凡なサラリーマン。趣味は推理小説を読むことと書くこと。小説投稿サイトで10年前から執筆作を公開し、日頃からミステリーに使えそうなトリックをメモしている。大学生の一人娘・鳥栖零花には煙たがられているが、零花と妻・歌仙を誰よりも愛している。 佐々木蔵之介コメント 娘の彼氏を殺してしまった事から物語は始まります。 罪を犯し後戻り出来ず、警察から追われ、組織から狙われ…それでも、男は逃げない。 知恵と勇気と家族への愛が、いつしか鳥栖哲雄をヒーローに仕立てます。 登場シーンの9割がピンチ、撮影中は毎日血塗れでボコボコ。 その最悪が、最高でした。 超最高の原作に敬意を表し、スタッフキャスト一丸で没入し挑んだ「マイホームヒーロー」、 ご期待ください。 間島恭一(演:高橋恭平/なにわ男子) 半グレ組織のメンバー。盗聴やピッキングなど犯罪知識が豊富で、判断力と行動力に優れ、若いながらも組織のリーダー格。 高橋恭平コメント 僕が演じる間島恭一は半グレで悪い事を当たり前のように行っていますが、本当の思いだったり芯がしっかりあって、根はいいやつなんです!今回オファーを頂いた時、嬉しさと不安が半々でした。どう演じようか、間島恭一の全てが僕の初めてでした! 原作を読み、研究しつつ自分なりにどうすればいいかを考えて、監督と話し合いながら、そしてキャストの皆さん、スタッフの皆さんに支えてもらいながら自分にできる精一杯の事はできたかなと思います!原作もちょー面白いですから実写版もちょー面白く仕上がってると思います! 是非、楽しみにしててください!! 鳥栖零花(演:齋藤飛鳥) 鳥栖哲雄と歌仙の一人娘。大学一年生になって一人暮らしを始めた。初めての彼氏ができたが、父には内緒にしている。 齋藤飛鳥コメント あたたかな家族、穏やかな毎日、 それらが守られているのがなぜなのかを知ることは、大人になることと同じなのかなあと思いました。 不安もありましたが、私のやれることはそもそも少ししかないと考えたら、 あとは周りのキャストのみなさん、スタッフのみなさんが引き上げてくださいました。 みなさんのおかげです。 正義や悪で区別するには難しい、愛のある物語だと思います。 最高の原作、映像になるとどんな化学反応が起こるのか、とっても楽しみです。 鳥栖歌仙(演:木村多江) 鳥栖哲雄の妻であり良き理解者。実家は裕福な呉服屋。哲雄と零花を守るため、常識では考えられない大胆な行動に出てしまうことも。 木村多江コメント 私の役は、少しずれていますが、家族を守ろうとする、時に大胆な人です。 原作があり、それをリスペクトしつつ、初めて見る方々にも楽しんでいただくには、 役をどう作るか、、非常に悩みました。 でも、キツイ撮影をみんなで乗り越え、今は楽しんでいただきたいという思いでいっぱいです。 原作のファンの方も、初めてご覧になる方も、私たちと同じジェットコースターに乗ってしまったつもりで、ドラマから映画まで、是非一緒に、スリルを楽しんでいただけたら嬉しいです! 麻取義辰(演:吉田栄作) 麻取延人の父親。電話で複数の人物を演じ分け、言葉巧みに金を騙し取る詐欺師であり、半グレ組織の重要人物。延人に異常な執着を持つ。 吉田栄作コメント 僕は今回主演の佐々木蔵之介さんが演じる、鳥栖哲雄と、深い訳あって大きく敵対する人物、麻取義辰を演じさせていただきました。原作である漫画を読ませていただいたかぎりでは、この難解な人物像をどの様に演じるか、自分自身の内でかなり模索しました。ある時ふと気づいたのは「麻取の思いは、哲雄の思いと同じ」ということでした。 そして原作という素晴らしい絵コンテがあるじゃないか!ということ。 劇中では、哲雄と麻取の距離が少しずつスリリングに近付いて行きます。そして最後は…。 僕自身もテレビシリーズ、そして映画の完成を楽しみにしています。 窪(演:音尾琢真) 半グレ組織の中心人物で、間島恭一や竹田らを束ねている。体術や武器の扱いに優れ、殺しをはじめとする犯罪の痕跡は一切残さない。 音尾琢真コメント のめり込む様に読んだマイホームヒーローの一員になる事ができて、とても光栄に思います。 窪は、主人公に対して常に圧をかけていく役柄になりますが、原作では、後々新たな魅力を発揮してファンの方も多いキャラクターだと思います。私自身もファンなので、演じるのが私ですみませんという気持ちはありつつも、今回ドラマ化された範囲でマイホームヒーロー全体の世界観が垣間見えるようにできていると幸いです。蔵之介さんをはじめ出演者の皆様もスタッフも一丸となって、試行錯誤の連続で作り上げました。 ご覧になる皆様に、美しい家族の絆が届きますよう願っております。 竹田(演:淵上泰史) 半グレ組織の中堅メンバーで、恭一とは犬猿の仲。 淵上泰史コメント 半グレ組織のメンバーで、組織で中でも最古参の1人でもあります。 歳の離れた恭一とはいつも対立しあう仲ですが、心のどこかで認めていたり、後輩思いなところもある実は優しい人なんじゃないかなと思います。でも今回、佐々木蔵之介さんにはほとんど酷い事ばかり…申し訳ないなぁと思いつつ、酷い事を振り切って思いっきり楽しみながらやり切りました。すいません。笑 とにかく原作ファン並びに初めての方にも、ドキドキする内容になっていますので、ぜひ楽しんで観て頂けたらと思っております。 麻取延人(演:内藤秀一郎) 鳥栖零花の彼氏で、麻取義辰の一人息子。気性が荒くて感情を抑えられず、暴力を振るうこともしばしば。 内藤秀一郎コメント 麻取延人を演じさせていただきました内藤秀一郎です。 鳥栖零花の彼氏で、暴力を振るったり、過去に殺人を犯してたりという極悪人を演じました。 自分が経験したことのない役柄だったので、この役を演じ切れるかとても不安でした。 そのために体重を数キロ落とし、狂気的に見えるよう、そして延人の雰囲気に近づけるように役作りを頑張りました。いつもと違う自分の演技をみていただければ嬉しいです! 皆様是非ご覧ください。 青山貴洋監督コメント 原作を見たのは5年前―。「マイホームヒーロー」というタイトルに、ホームドラマの様な、ほっこりとした物語を想像していたら、全く違うドキドキ、ハラハラのサスペンスでした。でも、とてつもなく面白い。今回、映像化するにあたり、嬉しいより緊張感の方が強かったです。しかし、やるならば、「自分が感じた原作の空気感をどう演出するか?」漫画はクライムサスペンスでありながら、コメディ要素もあるし、何より自分の中では究極のホームドラマ。この良さを抽出しようと四苦八苦しました。その結果、抽象的な表現ではありますが、あんまり見たことのないエンタテインメントの連続ドラマ、そして心が伝わる映画が出来たと思っています。それは、全ての関わった役者部、スタッフの力であり、何より撮影時に面白いものにするぞ、という現場の気概が映像に表れていると信じています。佐々木蔵之介さんをはじめとした、役者の皆さんの演技が本当に素晴らしく、今まで見たことないような表情をしています。全員一丸となって作った「マイホームヒーロー」ドラマも映画も、楽しみにしてください。 原作・山川直輝コメント とても有り難いことに、“マイホームヒーロー” を心から愛してくれている人たちによる実写化が決まりました。撮影見学に行かせていただいた際にも、スタッフのみなさまだけじゃなく、佐々木蔵之介さんや木村多江さんをはじめとした出演者の方々に「読んでます。本当に面白いです!」などと言っていただき、「作品を読んでくださっているあの俳優さんたちが演じてくれるんだなあ」と不思議で、そしてうれしい気持ちになりました。ぜひ御覧ください。 漫画・朝基まさしコメント 読者の方々が想像していた「実写化ならこの役者さん!」にいつも佐々木蔵之介さんのお名前が挙がっていました。 そして、その方に実際に演じてもらえるこの喜び!家族を守るために人を殺してしまった主人公‥‥。 きっと漫画やアニメとはまた違った、よりリアルな緊張感を持った作品に仕上げていただけるスタッフ、キャストであると、僕も今から楽しみにしています! [caption id="attachment_28850" align="aligncenter" width="1024"] 漫画:朝基まさし先生のお祝いイラスト ©山川直輝・朝基まさし/講談社[/caption] ドラマイズム「マイホームヒーロー」 原作・漫画:山川直輝・朝基まさし『マイホームヒーロー』(講談社「ヤングマガジン」連載) 出演:佐々木蔵之介、高橋恭平(なにわ男子)、齋藤飛鳥、淵上泰史、内藤秀一郎、音尾琢真、吉田栄作(特別出演)、木村多江 監督:青山貴洋、棚澤孝義、山本大輔、森裕史 脚本:櫻井剛、船橋勧 音楽:堤博明 制作プロダクション:TBSスパークル、C&Iエンタテインメント 製作:ドラマ「マイホームヒーロー」製作委員会・MBS 「映画 マイホームヒーロー」 配給:ワーナー・ブラザース映画 ©山川直輝・朝基まさし/講談社/ドラマ「マイホームヒーロー」製作委員会・MBS
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さて、大島新監督が世に問う新作は「国葬の日」。安倍晋三元首相の国葬が東京・日本武道館で執り行われたあの日、「2022年9月27日、私たちは何を見たのか」というキャッチコピーのもと、全国10都市(東京、山口、京都、福島、沖縄、北海道、奈良、広島、静岡、長崎)にてカメラを回したドキュメントだ。安倍氏の地元の山口、震災の傷跡がなお残る福島、新基地の埋め立て工事が進む沖縄、銃撃事件のあった奈良など、各地での人の営みを記録、“日本の現在地”が見えてくる。 ▶【特別座談会】大島新×ダースレイダー×プチ鹿島 「いまこそ必見! 現在の日本を捉える2本のドキュメンタリー映画『シン・ちむどんどん』と『国葬の日』」:前編はこちら 「国葬の日」 2022年9月27日の1日で 日本の現状を浮き彫りにする 大島 こちらのタイトルは何のひねりもないですね(笑)。その2022年9月27日、たったの1日だけで構成していることを強調したかった、というのはあります。ドキュメンタリーもまた劇映画同様、多様な手法があって、完成するまで17年間かかった「なぜ君は総理大臣になれないのか」のようなものとは裏腹に、撮影日を“1日”に限定し、アーカイブ映像を使わず、どこからも素材も借りずに表現する──このタイトルはそういう決意表明でもあったんです。 ダース 試写を観た感想を端的に述べるならば、僕らが「劇場版 センキョナンデス」や「シン・ちむどんどん」を作ったところで社会的には無意味なのでは……と脱力させる、それぐらいのパンチ力があり、観終わってからもボディブローのように効いてきて、げんなりしましたよ(笑)。一日の記録だけれど、間違いなく日本論、日本人論になっている。それって今はどう展開してもいい話が出てこないテーマなんですが、その煮こごりみたいな様相が映し出されていました。 鹿島 亡き首相のセレモニーでしたけど、公文書をだいぶ疎かにしていた安倍さんの国葬をこうやってちゃんと公文書ならぬ公的映像として記録に残している。これだけで批評性がありますし、記録として50年後、100年後の人がこれをどう観るのか想像すると、「ああ、スゴいものに挑まれたなあ」と感じ入りましたね。そして「なるほど、この手があったか!」とも。 大島 たかだか日本全国10カ所、限られた人員で撮影に行ったので、我々がやったことがその日の日本すべてを表したなどとは到底考えてはいないのですけど、「公文映像を残した」というのはそうかもしれません。まあ、NHKが総力をあげて臨んだら、また全然違うものができるのでしょうが。 鹿島 ホントはね、「2020東京五輪」の公式記録映画を総監督された河瀬直美さんみたいな人が撮るべきなんですけどね(笑)。 ダース できれば「SIDE:A」「SIDE:B」に分けて! いや、先ほど「煮こごりみたいな様相」と言いましたが、今後、日本がどんどん分断が進んでいき、合意できるものがほとんどなくなっていきそうな中、台風による大規模な浸水被害に遭った静岡の清水で、地元の高校のサッカー部の若者たちが見せてくれた行動、あのボランティア行為に対しては、NOを突きつける人はいないんじゃないか。どんな立場の人であっても「これはいい話だよね」と言える、みんなが共有できる希望の光景だと思いました……思いましたけれども! もう少し考えると、まさにそこに岸田政権は行政の手を伸ばしていないわけです。国民みんなが合意できそうなことなのにないがしろにして国葬をやっている。だから、一番ダメな部分が露呈してもいるんですよね。あとはインタビューに応え、フワッとしたことを返している方が多い。国葬に反対している人には明確な理由があるんだけど、賛成の方々はけっこうなフンワリなんですよね。その印象は強かったかな。 鹿島 そうですねえ。言葉がフワフワしていたのは、そもそも国葬なのか国葬儀なのか、はたまた国民葬なのか、政府もまた議論とは呼べない議論を空中に漂わせたまま、あの日を迎えたような気がするんです。日本各地の市井の人々に話を聞いていき、当たり前ですけど僕らがいないときでも辺野古ゲート前では座り込みをし、中には国葬を批判する山城さんがいらして、今年4月の再取材で会うことになる。一方ではダースさんが指摘したみたいに、「偉大な功績があったから賛成」という、なかなかのフンワリ感がクローズアップされちゃうんですよね。何だか日本って広いなあと改めて思いましたよ。 大島 いろんな言葉が私の中に残り、予想をしていたことではあったのですが、ある種の衝撃も受けました。例えば奈良のタクシー運転手の方の「デモやっても、もう遅いでしょう、国が決めたことなんやから」というコメント。偉い人の葬儀なんだから賛成すべきだと。ダースさん、鹿島さんが感じられた通りに、国葬に反対している人には明確な理由があるけれども、それ以外の方はけっこうフンワリしているのが日本人らしさだなあって。意図的にそういう並びに編集したのではなく、撮影素材のほぼ7〜8割は使っています。あまりに重複している内容のコメントは外したのですが、基本的には撮れたものをゴロリとまんま見せたら、前々から私が気になっている日本人の“個の弱さ”がたくさん撮れてしまいました。そこが何ともモヤる……私自身が大いにモヤモヤする作品になりましたね。 リベラルの言葉が届くべき人に届いていない この大問題をずっと引きずっている ──この2本を観ると、別アングルで捉えた日本の現実が目の前に屹立してくる。そして、様々な局面で進んでいる分断に頭がクラクラする。第一に、ややもすればこういったドキュメンタリーを作ると、イデオロギー的にレッテルを貼られがちだ。では3人の“立ち位置”はどうなのか。 鹿島 自分のことを左派と思ったことはないですね。右派でもないけど。保守かリベラルかと強引に分けるならば、保守側なのかな。でも僕が、正統派保守と認識している政治学者の中島岳志さんを左派と呼んでディスっている人もいますから、もはや尺度がわかりません(笑)。 ダース 鹿島さんは真っ当な保守ですよ! 僕もSNS上で左派とか左巻きだと言われることが多い。けれども、改革で制度を作ることにそんなに信頼をおいてなくて、人であったりコミュニティを重視しているという意味では保守的です。とにかく、整合性のない穴の空いた言説、行為にはツッコむ。今はもうそこら中、穴だらけじゃないですか(笑)。それから芸人もラッパーも「王様は裸だ」と、強権的なものに抗うのは基本スタンスですよね。 鹿島 ええ。当然、今の野党が与党の立場になったら、そういう目線で接していきます。最終的には、軸となるのは思想的な立ち位置ではないんじゃないかなあ、人の話をちゃんと聞いているか。もとより話していて心地いいか。その立ち居振る舞いですよね。 ダース そうそう。人を単純にイデオロギーで分けたりすることには意味がないです。 大島 私は長年、自分のことを“中道やや左”と認識してきました。なおかつ、国家や権力が個人を虐げたり、抑圧したりすることに関しては強く反対したいし、抵抗を示したいと考えています。そういう意味では左派に分類されてもおかしくはないのですが、ただ一方で左派リベラルの言葉が届くべき人に届いていない問題をずっと引きずっていて、今やそのことが大問題だと捉えています。SNS上での極右の人たちの汚い言葉は全く受け入れられないですけど、左派の方々の上から目線な、人を馬鹿にしたような言動にはとても違和感があり、ここ数年、あまりにおかしなことばかりが続いているのに自民党が政権を任せられている現状にはリベラルサイドにも責任があるはず。このことをこれからも自分なりに視野に入れていきたいですし、何らかの形で作品にもしたいですね。今回の「国葬の日」も、どんな方が観てもちょっとずつ何となく嫌な気持ちがするドキュメンタリーを目指しましたし、であるがゆえに、私自身もモヤっているのですが、まずは先入観なくフラットに、多くの観客に触れてもらいたいですね。 *お三方のお話をさらに深く展開するバージョンは、『キネマ旬報10月号』(9月20日発売)に掲載いたします。 取材・文=轟夕起夫 制作=キネマ旬報社 「国葬の日」 2023 年/日本/88 分 監督:大島新 取材・撮影 東京=大島新、三好保彦/下関=田渕慶/京都=石飛篤史、浜崎務/福島=船木光/沖縄=前田亜紀/札幌=越美絵/奈良=石飛篤史、浜崎務/広島=中村裕/静岡=込山正徳/長崎=高澤俊太郎 プロデューサー:前田亜紀 編集:宮島亜紀 整音・効果:高木創 監督補:船木光 制作:中村有理沙 制作:ネツゲン 配給:東風 ©「国葬の日」製作委員会 ■安倍晋三元首相の国葬が東京・日本武道館で執り行われた2022年9月27日の一日に、日本全国の10都市(東京、山口、京都、福島、沖縄、北海道、奈良、広島、静岡、長崎)で何かが起こったのかをカメラで切り取った先に、見えてくるものは……。 ◎9月16日(土)より東京・ポレポレ東中野、9月23日(土)より大阪・第七藝術劇場、愛知・シネマスコーレほか全国順次公開 大島新(おおしま・あらた)ドキュメンタリー監督、プロデューサー 1969年生まれ、神奈川県出身。95年大学卒業後、フジテレビに入社し、ドキュメンタリー番組『NONFIX』『ザ・ノンフィクション』などのディレクターを務める。1999年フジテレビを退社、フリーランスでの活動を経て、2009年映像製作会社ネツゲンを設立。主な監督作品に、「シアトリカル 唐十郎と劇団唐組の記録」(07)、「園子温という生きもの」(16) 、「なぜ君は総理大臣になれないのか」(20/キネマ旬報ベスト・テン文化映画作品賞受賞)、「香川1区」(21)。プロデュース作品に「カレーライスを一から作る」(16)、「ぼけますから、よろしくお願いします。」(18)、「私のはなし 部落のはなし」(22)、「劇場版 センキョナンデス」(23)など。 ダースレイダー ラッパー/ミュージシャン (写真左) 1977年生まれ、フランス・パリに生まれ、イギリス・ロンドン育ち。幼少期をロンドンで過ごす。ジャーナリストの和田俊を父に、日活出身の映画プロデューサー大塚和を祖父に持つ。2000年にMICADELICのメンバーとして本格デビュー。現在はThe Bassonsのボーカルの他、司会業や執筆業など様々な分野で活動。2023年2月、監督・出演を務めた「劇場版 センキョナンデス」が公開。 ブチ鹿島(ぷち・かしま)時事芸人 (写真右) 1970年生まれ、長野県出身。新聞14紙を読み比べ、スポーツ、文化、政治と幅広いジャンルからニュースを読み解く。2019年に「ニュース時事能力検定」1級に合格。朝日新聞デジタル『コメントプラス』のコメンテーター、ラジオ『東京ポッド許可局』、『プチ鹿島の火曜キックス』、『プチ鹿島のラジオ19××』、などに出演。最新著書『ヤラセと情熱 -川口浩探検隊の「真実」-』。2023年2月、監督・出演を務めた「劇場版 センキョナンデス」が公開。
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人気YouTube番組『ヒルカラナンデス(仮)』の名タッグ、ラッパーのダースレイダーと時事芸人のプチ鹿島は今年、ドキュメンタリー映画界においてもフルスロットル状態だ。約半年前、出演と監督を務め、2月に封切られるやスマッシュヒットを飛ばした「劇場版 センキョナンデス」に続いて、早くも第2弾の「シン・ちむどんどん」を作り上げたのである(8月11日より那覇・桜坂劇場にて先行公開、あわせて全世界同時配信もスタート。8月19日からは東京・ポレポレ東中野、シネマ・チュプキ・タバタほか全国順次公開)。 「選挙はお祭り、参加できるフェス!」がモットーの二人は本土復帰50年の節目となった2022年9月の沖縄県知事選をその目で、カラダで確かめに行った。それは当然ながら、沖縄と日本との歴史──選挙戦の争点にもなった「基地問題」の本質や根深い「差別の構造」、さらにはネット社会が助長した悪質なヘイト、膨大なデマゴギーなどについて考え抜くことを意味した。 祭りには、政(まつりごと)は欠かせない。だから彼らは時事、政治から目を背けず、積極的に発言する。そんな二人をプロデューサーとしてバックアップしているのは、「なぜ君は総理大臣になれないのか」(20)、「香川1区」(21)、そしてもうすぐ監督最新作「国葬の日」が公開される大島新だ(「国葬の日」は9月16日から東京・ポレポレ東中野ほか全国順次)。 個々にスロットル全開! 3人のトークセッションをお届けする。 「シン・ちむどんどん」 沖縄知事選と基地問題と現在の日本の姿 プチ鹿島(以下、鹿島) 1作目の「センキョナンデス」のエンディングで、マーべル映画的な予告篇として沖縄で撮っていた素材をちらっと入れていたので、2作目への方向付けはできていたんですよ。あとは「いつ作れるのか」という時期の問題だけだったんですよね。 ダースレイダー(以下、ダース) そうそう。どのタイミングで大島さんに切りだそうかと。ただ、素人としては「センキョナンデス」の興行状態がどうなのか、正確には摑めず、なかなか言い出せなかった。 大島新(以下、大島) 最初から、手応えはかなりありましたよ。 鹿島 あれは今年の3月ぐらいでしたっけ。大阪のシネマート心斎橋に舞台挨拶で伺って、昼御飯を控え室で食べながら……。 ダース 漠然と展望を話しましたよね。 大島 上映が始まって一カ月も経っていない時期。好調だけれど、むろん最終的な数字はわからない。その大阪での舞台挨拶の控え室、お二人が沖縄の話でめちゃくちゃ盛り上がっていて、これはもう、やるしかないという気持ちになったんです。で、僕のほうから提案したのは、全世界配信のこと。劇場公開を前提に宣伝を重ねていくと、どうしても時間がかかってしまうので、「今度はいきなり配信メインにする考え方は採用できませんか」って。 鹿島 普段、週に1度、YouTubeで『ヒルカラナンデス(仮)』を配信しているので“僕ららしいな”とすぐに思いましたね。劇場が見つかれば、そちらでも上映してもらうという二段構えの案もありがたかったです。 ダース 発表の時期は「今年の夏頃」だと聞いて、それからは突貫作業でした。とにかくスピード感が大事。できるだけ沖縄県知事選の記憶があるうちに世に出したほうがいい。宣伝という映画の常識作業をすっ飛ばすことも、どうなるかはやってみないとわからないワクワク感がありました(笑)。 鹿島 まあ、そもそも観客層のマーケティングなんかは度外視していましたからね。自分たちの原動力は「格別にパワフルな沖縄の“お祭り選挙”を見たい」という野次馬精神でしたから。 ダース 好奇心ですよね。それで「こんなことがあったよ」と、YouTubeでも毎週時事ネタを話しているわけで。 大島 これね、面白いのはドキュメンタリーの作り手のタイプには共通事項があって、昨日あったことを友だちにうまく話せるんです。それってけっこうキモとなる要素で、そう考えるとダースさんも鹿島さんも“喋りとプレゼン”のプロですから見事に合致する。生々しい映像とお二人固有の言葉のマッチングがドキュメンタリー映画に新しさを生んでいる。「シン・ちむどんどん」の前半で言えば鹿島さんが候補者全員に、朝ドラ『ちむどんどん』(22)に関する質問で攻めていくところ。そういう切り口ができるのは、「お二人ならでは」です。 ──昨年の沖縄県知事選は承知のとおり、現職の玉城デニー氏、自公政権が推した佐喜真淳氏、そして元日本維新の会で無所属の下地幹郎氏の三すくみで行われた。3人は皆、地元紙のアンケートで当時放送中だったNHKの連続テレビ小説『ちむどんどん』推しだったが、プチ鹿島は「本当に見ているのか? ひとつ嘘をついたら、他の公約、政策も信用できない」と各候補にアタックしてゆく。ここがとりわけ前半の「ちむ(胸)がどんどん(ドキドキ)する」ポイントだ。 「シン・ちむどんどん」は 本当にふざけたタイトルか ──ところでこのキーとなったドラマの、タイトルへの応用はどのようになされたのだろうか。 大島 提案したもう一点に、YouTube番組も含め、これまでの「〜ナンデス」風タイトルから離れてみる気はありますかと尋ねたんです。するとこれがまたお二人らしいんですけど「沖縄だから『ちむどんどん』かなあ」とダースさんが言ったら、鹿島さんがいきなりデカい声でそこに『シン・ちむどんどん』と被せてきた(笑)。僕はその叫び声を聞いて即座に「それで行きましょう!」と速攻で決めていました。タイトルには著作権がない、という冷静さも頭の片隅にありながら。 鹿島 僕はね、あの瞬間は、大喜利感覚で叫んでましたよ。 大島 まさに大喜利のノリでした。 鹿島 思い出したけど、あのとき差し入れでもらったタコ焼きを食べ、しかも大島さんの提言に「そうか、沖縄篇が作れるのか、いいぞ」と気分が盛り上がってしまったんですよ。まさか「それだ!」なんて声が返ってくるとは思わなかった。目を引くタイトルになったけれど、バカバカしいと感じる人もいるでしょうね。 ダース でもね、「こんなタイトルの作品は、ふざけていて価値なし」というリアクションは織り込み済みで、中身のほうは全く「ふざけたもの」ではないですから。要は映画を観た上でそれを言っているかがバレてしまうんです。 大島 なるほど。僕は今年の4月、お二人が桜坂劇場に前作「センキョナンデス」の舞台挨拶に行くことが決まり、そのタイミングでもう一度、沖縄取材を望まれたのが印象的で。本気で取り組んでいるのが伝わってきました。県知事選のルポに加え、その素材も入れ込んだ映画が公開できたら最高だなあって思いましたね。 基地問題や沖縄の歴史は 現地に行かないと何もわからない ──劇中には、名護市辺野古の米軍キャンプ・シュワブゲート前で抗議の座り込みを続ける一市民であり、「オール沖縄会議」共同代表の高里鈴代さんや沖縄平和運動センター顧問の山城博治さん、それから2004年、構内に米軍普天間基地所属の大型輸送ヘリが墜落した沖縄国際大学の前泊博盛教授、2019年の「辺野古沖の埋め立ての賛否」を問う住民投票を牽引した元山仁士郎さんらが登場、ウチナーンチュ(沖縄の人)に直接学び、対話をしてゆく。 大島 お二人は冗談で「今回はドキュメンタリーぽくなった」とおっしゃっていますが、後半の再取材のパートは本当にそうです。 鹿島 いやあ、ドキュメンタリーを作っちゃいましたね。再取材というのは初めての試みでした。 ダース あれは県知事選のあと、ひろゆき(西村博之)さんの“辺野古基地座り込み”への揶揄や冷笑に端を発する騒動というのがあって、あのことについて僕ら、現地で生の声を聞きたいと思ったんですよ。高里さんとは騒動前にもお会いしてお話を聞いていたので、騒動の直後に誰でも見られるようにインタビューを公開しました。ご本人も含めて座り込みを続けている方々は想像を絶するツラさだったはずなんだけど、ハートが強いんですよ。その姿勢がまた考えさせられるというか。 鹿島 僕ら二人とも沖縄について、それなりに知っているつもりだったんですけど、とにかく現地に行って話を聞こうって。「知らないこと」を知るべきだと。そこは徹底していましたよね。 ダース ええ。エンディング曲に《月桃》を使わせてもらった那覇生まれの伊舎堂百花さんが試写をご覧になり、「良かったです」と言ってくれて、何とか一歩目を踏み出せたと安堵しましたよ。 大島 今回、推薦コメントを多方面の方からいただきましたけど、実際暮らしてらっしゃる方々にどう受け止められるかが重要でしたよね。芸人のまーちゃん(小波津正光)さんと、沖縄に関する著書も出されている琉球大学教育学研究科教授の上間陽子さんがコメントを寄せてくださって、これはとても嬉しかった。 鹿島 まーちゃんは、もともとは東京でお笑いコンビ(=ぽってかすー)をやっていたんです。僕が若手時代、よく一緒にライブに出ていた仲で、拠点を故郷に戻し、基地問題など沖縄の現状をコントで繰り広げる『基地を笑え!お笑い米軍基地』を毎年主宰、上演しているのを新聞で知って。沖縄で時事ネタで勝負していてスゴいなとずっと思っていたんですよね。 ダース メディアのコメンテーターなんかはともすると、「座り込みと主張するならば、こうすべき」なんて軽々しく語りがちなんだけど、僕らは基地問題や沖縄の歴史について現地に実際に行ってみないと何もわからないという立場。鹿島さんの言うように、まず知ったようなことを言うのはやめようと。現地の皆さんは、本当に温かくて優しかったです。 沖縄と本土、アメリカ、そして民主主義…… 辺野古ゲート前で披露するダースレイダーのラップの意味 ──映画の後半の白眉は、辺野古ゲート前にて抗議の座り込みを続ける人々(と、ズラリと並んだ警備員)に向けたダースレイダーのフリースタイルラップだ。 鹿島 高里さんはスゴいチャーミングな方なんですが、あの突然の「ラップ、してもらえます?」は無茶ぶりでしたね。 ダース (笑)。映画には映ってませんが高里さんに1時間ほどお話を伺って、「これから座り込みをするので見ていってね」と言われて、連れていってもらったら開口一番に。けれども「ラッパー」と名乗っている身としては、あの状況でやらないという選択肢はなかったです。高里さんに沖縄のことや座り込みをしている方々の様々な思いを教えてもらったあとだけに、その人たちが聴いている場でラップをするのはすごくシビれる体験で。即興だから下手なことを言っちゃう可能性も含めて出たとこ勝負でした。やっているときは無我夢中でしたね。完成作を観てみると5分近くあるんですよ。そんなアカペラのラップが入っているのは映画として大丈夫なのかと感じたし……僕はあそこの評価は自分では難しい。自分から「ああだった、こうだった」とは言えなくて、だから観て、聴いてくれた方が何かを感じてくれればそれで十分です。 大島 ちなみに鹿島さんはダースさんのあと、お得意の自民党の重鎮、二階(俊博)さんの真似を披露されてましたよね。 鹿島 やりました。ややウケで、うすら笑いが広がった。だから監督としては思いっきってカットしました(笑)。これはやはり、ダースさんのインパクトと感動で終わらせたほうがいいと。 ダース そのあとに、僕のラップへのレスポンスとして高里さんたちがレジスタンスの歌を返してくれているんですが、エール交換みたいな形になっていて、その歌がまたいいんですよ。あのゲート前のシーンに関しては、「あっ、受け入れてもらえている」っていうのが自然発生的にわかるようになっている。 鹿島 歌の力っていうのはつくづく感じましたね、沖縄にとって特に大切な文化なんですよ。 大島 沖縄を描いた映画にはいろんな作品がありますが、私の父、大島渚は「夏の妹」(1972年)という劇映画を撮っていまして。返還された直後に現地でオールロケ撮影をした作品です。ヒロイン(栗田ひろみ)のひと夏の旅を追った、しかもどこかしらブラックユーモアに近い作風で、本土と沖縄、沖縄とアメリカ、それから日本とアメリカとの関係を暗示している。この構図は沖縄を題材とした映画は避けては通れず、そういう意味では「シン・ちむどんどん」にもその要素は入っており、つまり沖縄を扱った映画としてテーマ的には王道なんですね。しかしながらダースさんと鹿島さんなので表現が新しい。前半の「『ちむどんどん』を本当に観ていますか?」という質問、それは監督兼出演者の才能を機能させているからで、後半で言えばダースさんのラップですよね。あれがドキュメンタリー映画としても超新しく、圧巻のパフォーマンスであのラップも沖縄と本土、アメリカ、そして民主主義のことを表現していた。テーマ的には王道を歩んでいるけれども、めちゃくちゃ新しいなあって思っています。 取材・文=轟夕起夫 制作=キネマ旬報社 ▶後編:「国葬の日」へ続く 「シン・ちむどんどん」 2023年/日本/98分 監督・出演:ダースレイダー、プチ鹿島 エグゼクティブプロデューサー:平野悠、加藤梅造 プロデューサー:大島新、前田亜紀 音楽:The Bassons(ベーソンズ) 監督補:宮原塁 撮影:LOFT PROJECT 編集:船木光 音響効果:中嶋尊史 配給:ネツゲン ■復帰50年の節目となった昨年9月の 沖縄県知事選を追いかけるダースレイダーとプチ鹿島。当時放送中だった沖縄を舞台にしているNHK連続テレビ小説『ちむどんどん』を推す全候補者に、その答えから人間性がわかると質問攻めにし、SNS 上に溢れる「沖縄と選挙」を取り巻く膨大なデマを問題視し候補者に直撃。そして二人は「基地問題」を知るべく、座り込み抗議がおよそ3000日続く辺野古の現場を訪れる──。 ©「シン・ちむどんどん」製作委員会 ◎8月11日(金)より那覇・桜坂劇場にて上映中 & 全世界同時配信中(配信チケット、トークライブ会場チケットは<ロフトプロジェクト>にて販売中) 8月19日(土)より東京・ポレポレ東中野、シネマ・チュプキ・タバタ、京都みなみ会館にて上映中、ほか全国順次公開 大島新(おおしま・あらた)ドキュメンタリー監督、プロデューサー 1969年生まれ、神奈川県出身。95年大学卒業後、フジテレビに入社し、ドキュメンタリー番組『NONFIX』『ザ・ノンフィクション』などのディレクターを務める。1999年フジテレビを退社、フリーランスでの活動を経て、2009年映像製作会社ネツゲンを設立。主な監督作品に、「シアトリカル 唐十郎と劇団唐組の記録」(07)、「園子温という生きもの」(16) 、「なぜ君は総理大臣になれないのか」(20/キネマ旬報ベスト・テン文化映画作品賞受賞)、「香川1区」(21)。プロデュース作品に「カレーライスを一から作る」(16)、「ぼけますから、よろしくお願いします。」(18)、「私のはなし 部落のはなし」(22)、「劇場版 センキョナンデス」(23)など。 ダースレイダー ラッパー/ミュージシャン (写真左) 1977年生まれ、フランス・パリに生まれ、イギリス・ロンドン育ち。幼少期をロンドンで過ごす。ジャーナリストの和田俊を父に、日活出身の映画プロデューサー大塚和を祖父に持つ。2000年にMICADELICのメンバーとして本格デビュー。現在はThe Bassonsのボーカルの他、司会業や執筆業など様々な分野で活動。2023年2月、監督・出演を務めた「劇場版 センキョナンデス」が公開。 ブチ鹿島(ぷち・かしま)時事芸人 (写真右) 1970年生まれ、長野県出身。新聞14紙を読み比べ、スポーツ、文化、政治と幅広いジャンルからニュースを読み解く。2019年に「ニュース時事能力検定」1級に合格。朝日新聞デジタル『コメントプラス』のコメンテーター、ラジオ『東京ポッド許可局』、『プチ鹿島の火曜キックス』、『プチ鹿島のラジオ19××』、などに出演。最新著書『ヤラセと情熱 -川口浩探検隊の「真実」-』。2023年2月、監督・出演を務めた「劇場版 センキョナンデス」が公開。