【特別座談会】大島新×ダースレイダー×プチ鹿島 「いまこそ必見! 現在の日本を捉える2本のドキュメンタリー映画『シン・ちむどんどん』と『国葬の日』」:前編
- シン・ちむどんどん , ダースレイダー , なぜ君は総理大臣になれないのか , ヒルカラナンデス(仮) , プチ鹿島 , 劇場版 センキョナンデス , 国葬の日 , 香川1区
- 2023年08月22日
人気YouTube番組『ヒルカラナンデス(仮)』の名タッグ、ラッパーのダースレイダーと時事芸人のプチ鹿島は今年、ドキュメンタリー映画界においてもフルスロットル状態だ。約半年前、出演と監督を務め、2月に封切られるやスマッシュヒットを飛ばした「劇場版 センキョナンデス」に続いて、早くも第2弾の「シン・ちむどんどん」を作り上げたのである(8月11日より那覇・桜坂劇場にて先行公開、あわせて全世界同時配信もスタート。8月19日からは東京・ポレポレ東中野、シネマ・チュプキ・タバタほか全国順次公開)。
「選挙はお祭り、参加できるフェス!」がモットーの二人は本土復帰50年の節目となった2022年9月の沖縄県知事選をその目で、カラダで確かめに行った。それは当然ながら、沖縄と日本との歴史──選挙戦の争点にもなった「基地問題」の本質や根深い「差別の構造」、さらにはネット社会が助長した悪質なヘイト、膨大なデマゴギーなどについて考え抜くことを意味した。
祭りには、政(まつりごと)は欠かせない。だから彼らは時事、政治から目を背けず、積極的に発言する。そんな二人をプロデューサーとしてバックアップしているのは、「なぜ君は総理大臣になれないのか」(20)、「香川1区」(21)、そしてもうすぐ監督最新作「国葬の日」が公開される大島新だ(「国葬の日」は9月16日から東京・ポレポレ東中野ほか全国順次)。
個々にスロットル全開!
3人のトークセッションをお届けする。
「シン・ちむどんどん」
沖縄知事選と基地問題と現在の日本の姿
プチ鹿島(以下、鹿島) 1作目の「センキョナンデス」のエンディングで、マーべル映画的な予告篇として沖縄で撮っていた素材をちらっと入れていたので、2作目への方向付けはできていたんですよ。あとは「いつ作れるのか」という時期の問題だけだったんですよね。
ダースレイダー(以下、ダース) そうそう。どのタイミングで大島さんに切りだそうかと。ただ、素人としては「センキョナンデス」の興行状態がどうなのか、正確には摑めず、なかなか言い出せなかった。
大島新(以下、大島) 最初から、手応えはかなりありましたよ。
鹿島 あれは今年の3月ぐらいでしたっけ。大阪のシネマート心斎橋に舞台挨拶で伺って、昼御飯を控え室で食べながら……。
ダース 漠然と展望を話しましたよね。
大島 上映が始まって一カ月も経っていない時期。好調だけれど、むろん最終的な数字はわからない。その大阪での舞台挨拶の控え室、お二人が沖縄の話でめちゃくちゃ盛り上がっていて、これはもう、やるしかないという気持ちになったんです。で、僕のほうから提案したのは、全世界配信のこと。劇場公開を前提に宣伝を重ねていくと、どうしても時間がかかってしまうので、「今度はいきなり配信メインにする考え方は採用できませんか」って。
鹿島 普段、週に1度、YouTubeで『ヒルカラナンデス(仮)』を配信しているので“僕ららしいな”とすぐに思いましたね。劇場が見つかれば、そちらでも上映してもらうという二段構えの案もありがたかったです。
ダース 発表の時期は「今年の夏頃」だと聞いて、それからは突貫作業でした。とにかくスピード感が大事。できるだけ沖縄県知事選の記憶があるうちに世に出したほうがいい。宣伝という映画の常識作業をすっ飛ばすことも、どうなるかはやってみないとわからないワクワク感がありました(笑)。
鹿島 まあ、そもそも観客層のマーケティングなんかは度外視していましたからね。自分たちの原動力は「格別にパワフルな沖縄の“お祭り選挙”を見たい」という野次馬精神でしたから。
ダース 好奇心ですよね。それで「こんなことがあったよ」と、YouTubeでも毎週時事ネタを話しているわけで。
大島 これね、面白いのはドキュメンタリーの作り手のタイプには共通事項があって、昨日あったことを友だちにうまく話せるんです。それってけっこうキモとなる要素で、そう考えるとダースさんも鹿島さんも“喋りとプレゼン”のプロですから見事に合致する。生々しい映像とお二人固有の言葉のマッチングがドキュメンタリー映画に新しさを生んでいる。「シン・ちむどんどん」の前半で言えば鹿島さんが候補者全員に、朝ドラ『ちむどんどん』(22)に関する質問で攻めていくところ。そういう切り口ができるのは、「お二人ならでは」です。
──昨年の沖縄県知事選は承知のとおり、現職の玉城デニー氏、自公政権が推した佐喜真淳氏、そして元日本維新の会で無所属の下地幹郎氏の三すくみで行われた。3人は皆、地元紙のアンケートで当時放送中だったNHKの連続テレビ小説『ちむどんどん』推しだったが、プチ鹿島は「本当に見ているのか? ひとつ嘘をついたら、他の公約、政策も信用できない」と各候補にアタックしてゆく。ここがとりわけ前半の「ちむ(胸)がどんどん(ドキドキ)する」ポイントだ。
「シン・ちむどんどん」は
本当にふざけたタイトルか
──ところでこのキーとなったドラマの、タイトルへの応用はどのようになされたのだろうか。
大島 提案したもう一点に、YouTube番組も含め、これまでの「〜ナンデス」風タイトルから離れてみる気はありますかと尋ねたんです。するとこれがまたお二人らしいんですけど「沖縄だから『ちむどんどん』かなあ」とダースさんが言ったら、鹿島さんがいきなりデカい声でそこに『シン・ちむどんどん』と被せてきた(笑)。僕はその叫び声を聞いて即座に「それで行きましょう!」と速攻で決めていました。タイトルには著作権がない、という冷静さも頭の片隅にありながら。
鹿島 僕はね、あの瞬間は、大喜利感覚で叫んでましたよ。
大島 まさに大喜利のノリでした。
鹿島 思い出したけど、あのとき差し入れでもらったタコ焼きを食べ、しかも大島さんの提言に「そうか、沖縄篇が作れるのか、いいぞ」と気分が盛り上がってしまったんですよ。まさか「それだ!」なんて声が返ってくるとは思わなかった。目を引くタイトルになったけれど、バカバカしいと感じる人もいるでしょうね。
ダース でもね、「こんなタイトルの作品は、ふざけていて価値なし」というリアクションは織り込み済みで、中身のほうは全く「ふざけたもの」ではないですから。要は映画を観た上でそれを言っているかがバレてしまうんです。
大島 なるほど。僕は今年の4月、お二人が桜坂劇場に前作「センキョナンデス」の舞台挨拶に行くことが決まり、そのタイミングでもう一度、沖縄取材を望まれたのが印象的で。本気で取り組んでいるのが伝わってきました。県知事選のルポに加え、その素材も入れ込んだ映画が公開できたら最高だなあって思いましたね。
基地問題や沖縄の歴史は
現地に行かないと何もわからない
──劇中には、名護市辺野古の米軍キャンプ・シュワブゲート前で抗議の座り込みを続ける一市民であり、「オール沖縄会議」共同代表の高里鈴代さんや沖縄平和運動センター顧問の山城博治さん、それから2004年、構内に米軍普天間基地所属の大型輸送ヘリが墜落した沖縄国際大学の前泊博盛教授、2019年の「辺野古沖の埋め立ての賛否」を問う住民投票を牽引した元山仁士郎さんらが登場、ウチナーンチュ(沖縄の人)に直接学び、対話をしてゆく。
大島 お二人は冗談で「今回はドキュメンタリーぽくなった」とおっしゃっていますが、後半の再取材のパートは本当にそうです。
鹿島 いやあ、ドキュメンタリーを作っちゃいましたね。再取材というのは初めての試みでした。
ダース あれは県知事選のあと、ひろゆき(西村博之)さんの“辺野古基地座り込み”への揶揄や冷笑に端を発する騒動というのがあって、あのことについて僕ら、現地で生の声を聞きたいと思ったんですよ。高里さんとは騒動前にもお会いしてお話を聞いていたので、騒動の直後に誰でも見られるようにインタビューを公開しました。ご本人も含めて座り込みを続けている方々は想像を絶するツラさだったはずなんだけど、ハートが強いんですよ。その姿勢がまた考えさせられるというか。
鹿島 僕ら二人とも沖縄について、それなりに知っているつもりだったんですけど、とにかく現地に行って話を聞こうって。「知らないこと」を知るべきだと。そこは徹底していましたよね。
ダース ええ。エンディング曲に《月桃》を使わせてもらった那覇生まれの伊舎堂百花さんが試写をご覧になり、「良かったです」と言ってくれて、何とか一歩目を踏み出せたと安堵しましたよ。
大島 今回、推薦コメントを多方面の方からいただきましたけど、実際暮らしてらっしゃる方々にどう受け止められるかが重要でしたよね。芸人のまーちゃん(小波津正光)さんと、沖縄に関する著書も出されている琉球大学教育学研究科教授の上間陽子さんがコメントを寄せてくださって、これはとても嬉しかった。
鹿島 まーちゃんは、もともとは東京でお笑いコンビ(=ぽってかすー)をやっていたんです。僕が若手時代、よく一緒にライブに出ていた仲で、拠点を故郷に戻し、基地問題など沖縄の現状をコントで繰り広げる『基地を笑え!お笑い米軍基地』を毎年主宰、上演しているのを新聞で知って。沖縄で時事ネタで勝負していてスゴいなとずっと思っていたんですよね。
ダース メディアのコメンテーターなんかはともすると、「座り込みと主張するならば、こうすべき」なんて軽々しく語りがちなんだけど、僕らは基地問題や沖縄の歴史について現地に実際に行ってみないと何もわからないという立場。鹿島さんの言うように、まず知ったようなことを言うのはやめようと。現地の皆さんは、本当に温かくて優しかったです。
沖縄と本土、アメリカ、そして民主主義……
辺野古ゲート前で披露するダースレイダーのラップの意味
──映画の後半の白眉は、辺野古ゲート前にて抗議の座り込みを続ける人々(と、ズラリと並んだ警備員)に向けたダースレイダーのフリースタイルラップだ。
鹿島 高里さんはスゴいチャーミングな方なんですが、あの突然の「ラップ、してもらえます?」は無茶ぶりでしたね。
ダース (笑)。映画には映ってませんが高里さんに1時間ほどお話を伺って、「これから座り込みをするので見ていってね」と言われて、連れていってもらったら開口一番に。けれども「ラッパー」と名乗っている身としては、あの状況でやらないという選択肢はなかったです。高里さんに沖縄のことや座り込みをしている方々の様々な思いを教えてもらったあとだけに、その人たちが聴いている場でラップをするのはすごくシビれる体験で。即興だから下手なことを言っちゃう可能性も含めて出たとこ勝負でした。やっているときは無我夢中でしたね。完成作を観てみると5分近くあるんですよ。そんなアカペラのラップが入っているのは映画として大丈夫なのかと感じたし……僕はあそこの評価は自分では難しい。自分から「ああだった、こうだった」とは言えなくて、だから観て、聴いてくれた方が何かを感じてくれればそれで十分です。
大島 ちなみに鹿島さんはダースさんのあと、お得意の自民党の重鎮、二階(俊博)さんの真似を披露されてましたよね。
鹿島 やりました。ややウケで、うすら笑いが広がった。だから監督としては思いっきってカットしました(笑)。これはやはり、ダースさんのインパクトと感動で終わらせたほうがいいと。
ダース そのあとに、僕のラップへのレスポンスとして高里さんたちがレジスタンスの歌を返してくれているんですが、エール交換みたいな形になっていて、その歌がまたいいんですよ。あのゲート前のシーンに関しては、「あっ、受け入れてもらえている」っていうのが自然発生的にわかるようになっている。
鹿島 歌の力っていうのはつくづく感じましたね、沖縄にとって特に大切な文化なんですよ。
大島 沖縄を描いた映画にはいろんな作品がありますが、私の父、大島渚は「夏の妹」(1972年)という劇映画を撮っていまして。返還された直後に現地でオールロケ撮影をした作品です。ヒロイン(栗田ひろみ)のひと夏の旅を追った、しかもどこかしらブラックユーモアに近い作風で、本土と沖縄、沖縄とアメリカ、それから日本とアメリカとの関係を暗示している。この構図は沖縄を題材とした映画は避けては通れず、そういう意味では「シン・ちむどんどん」にもその要素は入っており、つまり沖縄を扱った映画としてテーマ的には王道なんですね。しかしながらダースさんと鹿島さんなので表現が新しい。前半の「『ちむどんどん』を本当に観ていますか?」という質問、それは監督兼出演者の才能を機能させているからで、後半で言えばダースさんのラップですよね。あれがドキュメンタリー映画としても超新しく、圧巻のパフォーマンスであのラップも沖縄と本土、アメリカ、そして民主主義のことを表現していた。テーマ的には王道を歩んでいるけれども、めちゃくちゃ新しいなあって思っています。
取材・文=轟夕起夫 制作=キネマ旬報社
▶後編:「国葬の日」へ続く
「シン・ちむどんどん」
2023年/日本/98分
監督・出演:ダースレイダー、プチ鹿島 エグゼクティブプロデューサー:平野悠、加藤梅造 プロデューサー:大島新、前田亜紀 音楽:The Bassons(ベーソンズ) 監督補:宮原塁 撮影:LOFT PROJECT 編集:船木光 音響効果:中嶋尊史 配給:ネツゲン
■復帰50年の節目となった昨年9月の 沖縄県知事選を追いかけるダースレイダーとプチ鹿島。当時放送中だった沖縄を舞台にしているNHK連続テレビ小説『ちむどんどん』を推す全候補者に、その答えから人間性がわかると質問攻めにし、SNS 上に溢れる「沖縄と選挙」を取り巻く膨大なデマを問題視し候補者に直撃。そして二人は「基地問題」を知るべく、座り込み抗議がおよそ3000日続く辺野古の現場を訪れる──。
©「シン・ちむどんどん」製作委員会
◎8月11日(金)より那覇・桜坂劇場にて上映中 & 全世界同時配信中(配信チケット、トークライブ会場チケットは<ロフトプロジェクト>にて販売中)
8月19日(土)より東京・ポレポレ東中野、シネマ・チュプキ・タバタ、京都みなみ会館にて上映中、ほか全国順次公開
大島新(おおしま・あらた)ドキュメンタリー監督、プロデューサー
1969年生まれ、神奈川県出身。95年大学卒業後、フジテレビに入社し、ドキュメンタリー番組『NONFIX』『ザ・ノンフィクション』などのディレクターを務める。1999年フジテレビを退社、フリーランスでの活動を経て、2009年映像製作会社ネツゲンを設立。主な監督作品に、「シアトリカル 唐十郎と劇団唐組の記録」(07)、「園子温という生きもの」(16) 、「なぜ君は総理大臣になれないのか」(20/キネマ旬報ベスト・テン文化映画作品賞受賞)、「香川1区」(21)。プロデュース作品に「カレーライスを一から作る」(16)、「ぼけますから、よろしくお願いします。」(18)、「私のはなし 部落のはなし」(22)、「劇場版 センキョナンデス」(23)など。
ダースレイダー ラッパー/ミュージシャン (写真左)
1977年生まれ、フランス・パリに生まれ、イギリス・ロンドン育ち。幼少期をロンドンで過ごす。ジャーナリストの和田俊を父に、日活出身の映画プロデューサー大塚和を祖父に持つ。2000年にMICADELICのメンバーとして本格デビュー。現在はThe Bassonsのボーカルの他、司会業や執筆業など様々な分野で活動。2023年2月、監督・出演を務めた「劇場版 センキョナンデス」が公開。
ブチ鹿島(ぷち・かしま)時事芸人 (写真右)
1970年生まれ、長野県出身。新聞14紙を読み比べ、スポーツ、文化、政治と幅広いジャンルからニュースを読み解く。2019年に「ニュース時事能力検定」1級に合格。朝日新聞デジタル『コメントプラス』のコメンテーター、ラジオ『東京ポッド許可局』、『プチ鹿島の火曜キックス』、『プチ鹿島のラジオ19××』、などに出演。最新著書『ヤラセと情熱 -川口浩探検隊の「真実」-』。2023年2月、監督・出演を務めた「劇場版 センキョナンデス」が公開。