偏屈な中年男のささやかで 遅すぎる成長譚
- Amazon プライム・ビデオ , ウィルソン
- 2020年05月20日
配信ムービー・ピックアップ・レビューその6
「ウィルソン」
数ある配信ムービーのなかから、選りすぐりの作品のレビューをお届け。映画ライター・村山章氏によるオススメ第2弾は、「ゴーストワールド」(01)の原作者が放つ毒っ気たっぷりのドラマ!
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偏屈な中年男のささやかで 遅すぎる成長譚
「ゴーストワールド」(01)の原作者としても知られる人気コミック作家ダニエル・クロウズは、自作が映画化される際には必ず脚本も手がけている。 本作は「ゴーストワールド」、「アートスクール・コ ンフィデンシャル」(06)に続く3作目の映画化作品で、日本では劇場公開されずネット配信で観られるようになった。
主人公はウィルソン(ウディ・ハレルソン)という独り暮らしの偏屈な中年男。 働きもせず毒ばかり吐いているロクデナシだが、疎遠だった父の死を契機に、自分がいかに孤独なのかに気づいてしまう。 そこで16年前に出て行った元妻(ローラ・ ダーン)を探し出し、里子に出された娘がいることを知ると、今度は父親として失われた関係を取り戻そうとするのだ。
涙ぐましいメロドラマにもなりそうな展開だが、クロウズの毒気は手軽なヒューマニズムで観客を気持ちよくさせてはくれない。またウィルソンの身勝手さは当人も周囲もさらなる苦境に陥れるのだが、そんな彼をジャッジするような目線もない。ただただ身勝手なダメ人間なりに、世知辛い人生を達観することを学んでいく 。ささやかで遅すぎる成長物語とも言える。
アクサンダー・ペインも本作の映画化に興味 を示していたが、最終的に監督を務めたのは「スケルトン・ツインズ 幸せな人生のはじめ方」(14)のクレイグ・ジョンソン。テリー・ツワイゴフ監督が原作のイメージに近い世界観を構築 した「ゴーストワールド」と違って、原作よりもトーンは明るく、オーソドックスなコメディのルックスに近い仕上がりだ。
原作本は2005年に日本でも刊行されているので、「思っていた『ウィルソン』とは違う」と感じる人もいるかも知れない。そもそも風采の上がらない原作のウィルソンに寄せるなら、ハレルソンよりもポール・ジアマッティ辺りがキャスティングされるのが順当だろう。
しかしクロウズは原作のイメージにこだわらず、ハレルソンとローラ・ダーンが主演に決まると彼らに合わせて脚本をリライト。 また監督のジョンソンが自由に采配を振るえるように、ビジュアルを指定するようなト書きは極力避けたという。さらに原作には収録しなかったエピソードも復活させるなど、原作者が積極的に改変に関わ る形で、「ウィルソン」はパラレルワールドのような別物に生まれ変わった。
日本の映画ファンの間では「ゴーストワールド」の知名度ばかりが先行しているからこそ、本作でクロウズの別の顔を知って欲しい。そして願わくは原作とも見較べて、両者の味わいの違いを楽しんでいただきたい。
文・村山章
2017年製作・アメリカ・1時間34分
監督:グレイグ・ジョンソン
出演:ウディ・ハレルソン、ローラ・ダーン
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