イオセリアーニ映画祭で劇場初公開の「唯一、ゲオルギア」、本編映像や専門家の解説が到着
- オタール・イオセリアーニ , 唯一、ゲオルギア
- 2023年02月13日
名匠オタール・イオセリアーニの全監督作21本をデジタルリマスター版で上映する〈オタール・イオセリアーニ映画祭 〜ジョージア、そしてパリ〜〉が、2月17日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、シアター・イメージフォーラムで開催。日本で劇場初公開となるドキュメンタリー三部作「唯一、ゲオルギア」(94)の本編映像と場面写真、コーカサス史研究を専門とする東京都立大学人文社会学部教授・前田弘毅氏の解説が到着した。
ソ連が崩壊に向かう中で政治的混迷を深め、内戦が勃発したゲオルギア(ジョージア)を目の当たりにしたイオセリアーニが、祖国がなくなるかもしれないという思いから製作を決意した「唯一、ゲオルギア」。歴史と文化を振り返りながら今を検証した、4時間におよぶ大作だ。
映像は、1991年に勃発したトビリシ内戦を映し出す。森林から街中まで至るところで銃撃や爆発が起こり、戦車も登場、建物には無数の弾痕が残る。そして「この光景はロシア近隣国の日常でもある。大国の政治家が力と領土に固執した結果だ」というナレーションが流れる。
前田弘毅氏の解説(パンフレットより抜粋)
『唯一、ゲオルギア』は希有な映像作品である。歴史を題材にし、時にショッキングな戦火の映像も織り交ぜた名作ドキュメンタリーは少なくない。しかし、中世の吟遊詩人さながらに叙情を讃えた映像と音楽の魔術師が、ジョージア(グルジア)の至宝ともいうべき20世紀ジョージア映画の名作の数々をコラージュして、故国の歴史を一つの歴史記録映画をまとめ上げた。そして、編集が修了した1994年1月に向けて、いつものユーモアに溢れる語り口は影を潜めて、映像は悲壮感を増し、まさに滅亡の縁に瀕した祖国の惨状に怒りをぶつけつつ、故国の美しさと芸術文化に救いを求めようとする。そこには普段のイオセリアーニ映画では控えめな、ジョージアの知識人階層に育まれたオタール・イオセリアーニのまさしく「国士」としての矜恃と責任感が見て取れる。そこには強烈な政治的メッセージも込められていた。ここにはフィクションとノンフィクションを超えた、そして過酷な現実を捉えたまさに奇蹟ともいえる(セミ)ドキュメンタリー映画である。ソ連崩壊から30年を経て、やはり旧ソ連のウクライナで凄惨な戦闘が継続している今、当時の歴史を識るためにも必見の映画である。
この映画が撮影された当時、誰もジョージアのいかなる将来も描くことはできなかっただろう。
映画の制作から30年を経て、ジョージア社会は大きく変貌した。それは白黒映画から鮮やかなカラーフィルムへの変化に等しい。しかし、この映画を見て、はじめてトビリシを訪れた1995年9月の戦争直後の荒寥とした同国の佇まいを鮮明に思い出し、楽土ジョージアの地の底に吸い込まれるような暗い情景もまた想い起こした。文明の十字路としてのジョージアは常に大帝国の征服に遭い、周辺国からの難民で溢れた。持ち前の豊かさと明るさで乗り切るも、日本では考えられないような悲劇的な歴史を繰り返してきたことをあらためて噛みしめる。「真のジョージア」を探すには複雑で時には辛い旅路を経なければならない。
皮肉屋で少し怒りっぽく、時にはコミカルで少し暴力的なイオセリアーニ、常に絶望せずに不思議に生きる力に溢れている。常に楽観的な彼はジョージアを救わなければヨーロッパの未来はないと訴えているようだ。ウクライナにロシアが侵攻して約1年、これほど響くメッセージはない。この映画の映し出す現実は実は現在進行形でアクチュアリティを失っていない。
ウクライナが戦火に包まれている2023年現在、この映画を刮目して見なければならない。
なお映画祭パンフレットには、豪華著名人が寄稿する。対象作品と執筆者は以下の通り(敬称略)。
「四月」中野翠
「落葉」月永理絵
「歌うつぐみがおりました」山崎まどか
「田園詩」金子遊
「月の寵児たち」今祥枝
「そして光ありき」宇田川幸洋
「蝶採り」宮代大嗣
「群盗、第七章」滝本誠
「素敵な歌と舟はゆく」向井康介
「月曜日に乾杯!」久保玲子
「ここに幸あり」三宅唱
「汽車はふたたび故郷へ」はらだたけひで
「皆さま、ごきげんよう」秦早穂子
「唯一、ゲオルギア」前田弘毅
配給:ビターズ・エンド
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