“ピランデッロがくれた贈り物”。「遺灰は語る」パオロ・タヴィアーニのインタビュー到着

 

名匠パオロ・タヴィアーニが、ノーベル文学賞作家ピランデッロの遺灰をローマからシチリアへ運ぶトラブル続きの旅を描き、2022年ベルリン国際映画祭で国際映画批評家連盟賞に輝いた「遺灰は語る」が、6月23日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほかで全国順次公開。監督の日本独占インタビューが到着、公開初日のオンラインQ&Aが決定した。

 

パオロ・タヴィアーニ監督

 

──本作のアイディアのきっかけを教えてください。

パオロ・タヴィアーニ監督 40年ほど前に『カオス・シチリア物語』を撮ったんですね。その時、実は「ピランデッロの灰」という物語を『カオス〜』の最後に加えるつもりでした。ところが、資金がなくなって、結局そのエピソードは撮れなかったんです。そのことがずっと心の中に残っていました。でも、なぜ今になってなのかは、よくわからないな。

──ノーベル賞作家ピランデッロの遺灰を運ぶ物語ですが、この遺灰のエピソードはイタリアでは有名なのですか?

監督 ピランデッロは、私たちが抱える多くの問いに答えてくれる偉大な作家です。亡くなってから10年間遺灰がローマにあったことも、それから10年、15年くらい経ってようやく故郷のシチリアに墓(モニュメント)ができたのも事実で、何人もの作家がその遺灰についての物語を書いています。ただ、この映画はピランデッロという人物、その遺灰の旅からインスピレーションを得て作られた、完全なる創作なんです。良い映画監督というのは嘘つきなんですよ(笑)。遺灰の壺が列車で旅するというのも私の創作ですよ。

──その列車のシーンで、素敵な愛のシーンがありました。戦後間もない、引き揚げの人たちをシチリアへ運ぶ列車なのに、ピアノを演奏したり、踊ったり、さらにはラブシーンまであって、なんて美しいんだろうと思いました。

監督 “愛のシーン”がありましたね。今、「素敵だった」と言ってくれましたが、実は「映画」だからこそ、さらに美しいんですよ。映画の撮影現場で起きたことによって、映画がもっと美しくなった。若い二人が愛を交わすシーン、あれは偶然の産物で、脚本に書かれていたわけじゃない。列車の中にレールを敷いて移動式のカメラを回して撮っていたら、あの二人が、本当に、愛を歌うような声やジェスチャーをしていたんです。それがすごく素晴らしいと思って、あのシーンを付け加えたんですよ。映画の現場から偶然生まれたシーンです。

──映像が本当に美しくて、艶やかに輝いているようでした。モノクロからカラーに変わる瞬間もとても感動的ですね。

監督 白黒のシーンは撮影監督によるところが多いんです。自分が監督だから言うのではなく、白黒の中でも素晴らしい効果、色彩を作り出してくれたと思っています。“過去”にまつわるから白黒、ということだけではなく、映像自体が艶やかで力がありましたね。今後もまた白黒作品を撮りたいと思えるくらいでしたね。
映画は白黒で始まって、遺灰がシチリアに戻って来た瞬間に色がつく。あの海は、ピランデッロが「アフリカの海」と呼んだ海なんですよ。海に光が差す、あの濃い青がスクリーンに現れる。あのシーンは、ピランデッロがくれた贈り物かもしれませんね。

──映画の最後にはピランデッロの短編がつくユニークな構成ですね。こちらは一転して鮮やかなカラーでした。

監督 色彩が爆発的にカラフルになりますよね。まるで色の奔流のような。その“色”というのが私たちが目にしている、“現実”なんです。私自身は、この映画は2つの全く違う作品が並べられているものだとは思ってはいなくて、同じフレームの中の第一章、第二章、と考えています。この短編「釘」はピランデッロが死の20日前に書いた小説で、だからこそ遺灰の旅と、この物語との間に強い結びつきが生まれるわけです。

──本作は、初めてお一人で発表した作品ですね。

監督 (兄の)ヴィットリオは、やはり常に私の映画の中にいるんですよ。初めて一人で映画を撮影しましたが、私はシーンを撮り終えるたびに、「カット!いいね」と言って、ヴィットリオの確認を得るために振り返っていたそうですよ。兄はもうそこにはいないのにね。

──ニコラ・ピオヴァーニさんの音楽も素晴らしいです。

監督 彼との仕事は、ヴィットリオと仕事をするのと同じような感覚なんですよ。私たちの映画にずっと寄り添ってくれた音楽家ですからね。『サン★ロレンツォの夜』から、途切れることなく関係が続いています。彼は偉大な音楽家だが、それはアカデミー賞を獲ったからではなく、それ以上の存在なんです。(*ピオヴァーニはロベルト・ベニーニ監督の『ライフ・イズ・ビューティフル』でアカデミー作曲賞を受賞している)

──この映画にはロッセリーニ監督の『戦火のかなた』はじめ様々な映画の引用によって、戦後のイタリアが描かれますが、日本の若い映画ファンに、これは絶対見るべき、と思うイタリア映画の名作を3本あげていただくことはできますか?

監督 ロッセリーニ『無防備都市』、デ・シーカ『自転車泥棒』、ヴィスコンティ『山猫』です。
私たちが映画監督になりたいと思ったきっかけは、ロッセリーニ監督の『戦火のかなた』を見たことでした。ただ、残念ながら、ロッセリーニ監督とは生前そんなにお会いする機会はありませんでした。けれど、私たちがカンヌのパルムドールを受賞した時、授与をしてくれたのはロッセリーニ監督だったんですよ!(*『父/パードレ・パドローネ』で1977年カンヌ国際映画祭の最高賞パルムドールを受賞している)

──今後、映画にしたい題材やアイデアはまだたくさんおありなのでしょうか?

監督 新作をいま準備中なんですが、それについては内緒です(笑)。なんとか撮影までこぎつけるといいなと思っていますよ。

 

パオロ・タヴィアーニ監督 オンラインQ&A

日時:6月23日(金)18:30の回上映後
会場:新宿武蔵野館
座席のオンライン予約は劇場HPで6/15(木)昼12:00より
※やむを得ない事情で、時間や登壇者が変更される場合あり

 

 

© Umberto Montiroli
配給:ムヴィオラ

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