映画「メンドウな人々」にみる、地域活性と映画の良好な関係について
映画24区が《自治体》×《食》×《高校生》をコンセプトに手掛ける〈ぼくらのレシピ図鑑〉シリーズ。その第3弾として山梨放送とコラボし、片岡千之助と的場浩司の共演により、山梨県富士吉田市のうどんをテーマに描いたのがYBS特別ドラマ「メンドウな人々」だ。今年3月18日(土)に放送され、9月2日(土)〜9月8日(金)に新宿K's cinemaで公開される。
富士吉田市でのロケをサポートしたのは小林純さん。古くからの飲み屋街である西裏地区「新世界乾杯通り」の再生など、さまざまな地域活性化事業を展開する「合同会社新世界通り」の代表を務めている。そんな小林さんと本作の安田真奈監督が、街の魅力を語り合った。

安田 「メンドウな人々」の撮影では本当にお世話になり、有り難うございました。純さんがいなければ富士吉田市の撮影はスムーズに進められなかったと思います。純さんは、元々、録音部だったんですよね?
小林 はい。大学時代は、映画製作で録音を担当してました。映像業界で働きだしてからは、スタジオ勤務が多かったですが、たまに映画の撮影現場にも出てました。
安田 おかげで、撮影環境を踏まえてロケ地を探してくださるなど、とても心強かったです。富士吉田市で、地域活性化のお仕事をされてるんですよね。特に力を入れられたのが、撮影させていただいた「新世界乾杯通り」の再開発ですか?
小林 はい。富士吉田市は「機織り」が有名な産業で、昭和30年~40年代は非常に栄えました。それに伴って、下吉田の「西裏」というエリアが飲み屋街として賑わったんです。その中の「新世界通り」という細い通りには、20~30店舗の飲み屋があったそうです。でも、平成になってバブルが崩壊して、どんどんお店が減って…。そこで、新たな賑わいを作ろうということになり、2015年5月から、みんなで片づけてゴミを出したり、店舗の改修をはじめたりしたんです。イタリアンレストランやバーなど、新たなテナントにも入っていただいて、2016年2月23日「富士山の日」に「新世界乾杯通り」としてオープンしました。

安田 「2・23」で「ふじさん」なんですね! 「新世界乾杯通り」は、おしゃれなタイル壁があったり、レトロな看板が残っていたり、印象的な通りでした。昭和感があって、インスタグラムや記事でもよく取り上げられてますね。
小林 そうですね。富士吉田は今、外国人観光客の方に大人気なんです。商店街の奥に富士山がそびえたつ眺めが、海外で有名になったんで、たくさんの方が訪れて写真を撮られてます。
安田 そのアングルは「メンドウな人々」でも撮影しましたが、ちょっと怖いほどの迫力でした。外国の方には、新倉山浅間公園の展望デッキも人気なんですよね? 忠霊塔と富士山と桜、日本的な3つのアイテムがひとつのフレームにおさまるフォトスポット、ということで。純さんは、観光客の方に、富士吉田の街をどう楽しんでいただきたいですか?
小林 下吉田の「西裏」エリアは、チェーン店がなくて、個人店がたくさんあるんですよ。独特な人情味あふれる店や、個性豊かなオーナーさんがけっこう多くて(笑)。「メンドウな人々」のロケ地巡りをした後に、古き良き飲み屋街の文化も楽しんでいただきたいですね。

安田 良いですね! 下吉田は、商売で栄えただけあって、ウェルカムムードのある街だなと思いました。街の方々も気さくで。夜の飲み屋では、オーナーさんとの語らいや、隣り合った席の方との語らいが盛り上がりそうです。一方、金鳥居をはさんだ上吉田は、富士山の入口、という厳かな雰囲気がありますね。
小林 ええ。「吉田の火祭り」で有名な北口本宮冨士浅間神社も近いですしね。上吉田は、神聖な富士山に登る入り口となる、厳かな信仰の街。下吉田は、機織り産業とそれに付随して栄えた歓楽街がある、カジュアルな街。どちらのカラーも楽しめるので、富士吉田はバランスがいい観光地だと思います。
安田 上吉田には、富士山信仰にもとづいて富士山に登る方々が泊まる「御師宿坊」がたくさんあったそうですね。
小林 はい。最近では、若い方がゲストハウスとして営んでいる宿坊もあるんですよ。そこに泊まって、歴史を知っていただいた上で、夜は下吉田の西裏界隈で飲む…というプランもオススメです。
安田 コンパクトなエリアの中で、いろんなカラーが楽しめる街ですね。下吉田の小室浅間神社も、神馬が飼われていて、落ち着く空間でした。クランクイン前に安全祈願をしていただきました。
小林 今は外国人観光客が多いんですが、日本の方にももっと来ていただきたいです。遠方の方は、富士山を見たことない、という方も結構いらっしゃるんじゃないかなと。
安田 確かに。富士吉田市から見える富士山って、凹凸が少ない、シンメトリーの美しいフォルムが魅力ですよね。それが街のあちこちから見える。屋根と屋根の間に富士山がひょいと顔を出す。富士山に見守られている街、という印象でした。
小林 そうですね。
安田 「メンドウな人々」は、大半を「西裏」エリアで撮らせていただきました。レストラン鮮笑さん(閉店)、喫茶檸檬さん、月の江書店さん、新世界乾杯通り、提灯のある子の神通り、富士山が奥に見える商店街…。機材置き場や待機場所として中村会館を使わせていただいて、あちこち撮りにいきましたが、徒歩圏内が多かったですね。


小林 ええ、ロケ地巡りがコンパクトに楽しめますね。劇中に登場する郷土料理の「吉田のうどん」も食べてもらいたいです。
安田 「吉田のうどん」は、コシが固くて食べ応えがありますね! 薬味の「すりだね」が店ごとに違うので、食べ比べもいいかも。食べ物というと、富士山デザインのスイーツがすごく多いですよね。富士山型のシフォンケーキ「ふじフォン」(販売店:シフォン富士)と、「富士山羊羹」(販売店:金多留満)を小道具的に使わせていただきましたが、他に、純さんおすすめのスイーツはあります?
小林 富士吉田は、富士山からの水が美味しいと評判なんですが、水をゼリーにしたスイーツがあるんですよ。「富士山水ゼリー」(販売店:アーヴェント)です。珍しくて面白いなぁと。
安田 水のゼリー! 確かに珍しいですね。さて、今回は純さんはじめ地元の多くの方に大変なご尽力をいただきましたが、ロケに対する皆さんの反応はどんな感じでしたか?
小林 ほぼ毎日商店街で撮影していたので、キャスト・スタッフの皆さんと、近隣のお店や住民の方々が仲良くなってましたね。地元の皆さんは、日々ワクワクと楽しそうに見守っておられましたよ。
安田 それは本当に有り難いです。撮影って、穏やかな生活空間にお邪魔させていただいて、連日お騒がせしてしまうものなので…。
小林 映画を通して、富士吉田の普段見慣れた景色が、全く違う景色のように見えましたね。ストーリーとも相まって、街並みもなんだかホッコリあたたかく感じられました。

安田 有り難うございます、とても嬉しいコメントです。今後も、映画やドラマの撮影を受け入れていく方向ですか?
小林 はい、撮影は大歓迎です。富士吉田には、レトロな街並みも眺めのよい場所もいっぱいあります。それから、古い街の中に新しいお店も増えてきてるので、新旧入り混じった楽しさがあります。映像作品の一部として、富士吉田を使っていただければ嬉しいです。また撮影のお手伝いができたら、と思ってます。
安田 なんと心強い、嬉しいお言葉! 最後に、これを読んでくださってる方に、一言お願いします。
小林 「メンドウな人々」はとても面白い青春映画ですし、富士吉田の良い眺めが詰まってます。見たらきっと、「吉田のうどん」を食べたくなると思います。是非、遊びにいらしてください。西裏で会ったら、一緒に飲みましょう!
安田 素晴らしい! 皆さん、小林純さんを探してください(笑)。純さん、有り難うございました。
小林 有り難うございました。

「メンドウな人々」
出演:片岡千之助、藤嶋花音、柳明日菜、大迫一吹、翔、佐藤鯨、鳴海翔哉、瑚海みどり、坂本ちえ、西山宏幸、内山由香莉、上村健也、筒井真理子(特別出演)、的場浩司
監督・脚本:安田真奈
製作:山梨放送、映画24区
・公式サイト:https://www.ybs.jp/mendou/
・ぼくらのレシピ図鑑シリーズ公式サイト:http://bokureci.eiga24ku.jp/