映画専門家レビュー一覧

  • もしも徳川家康が総理大臣になったら

    • ライター、編集

      岡本敦史

      原作は「ビジネス小説」に分類されるそうだが、特に新味のある内容ではない。永田町が火の海になる愉快な展開とか、「シン・ゴジラ」ばりの国家改造シミュレーションとかいった見どころもなく、あるのはCM的なギャグの羅列のみ。また、劇中でフィーチャーされるのは一緒に蘇った秀吉や信長の政策で、家康はそれっぽい長広舌を披露するだけなので、タイトルの答えも見当たらない。国民の投票率アップを促すエクスキューズ的展開も、むしろ逆効果の感もあり、はなはだ迷惑である。

    • 映画評論家

      北川れい子

      監督の武内英樹と脚本の徳永友一は「翔んで埼玉」シリーズのコンビ、しかもGACKTまで出演するということで、「翔んで埼玉」級の人騒がせな笑いと展開を期待したのだが、賑々しいわりには芝居のド派手な絵看板でも観ているようで、かなりがっかり。それでも話の導入部には身を乗り出し、現実の不甲斐ない政治家たちも、いっそAIで信頼できる人物に、と思ったりしたが、偉人内閣の面々は、通り一遍のイメージに収まったままで格別な活躍はなし。にしても家康のラストの大演説はお節介にもほどがある!

    • 映画評論家

      吉田伊知郎

      偉人たちはAIで復活したホログラムで、時代変化も学習済、歴史上の禍根も抱かないようになっている懇切丁寧な設定が面白さを削ぐ。上杉謙信が瞬く間に自衛隊の装備を扱えるようになっていた「戦国自衛隊」よろしく、タイムスリップで偉人たちを強制連行してきても現代に順応したはず。ホログラムだから斬っても撃っても効果なしであることも生かされていないし、最後に現代人へ向けて偉人たちが説教臭い話を長々とするのも閉口。何より浜辺美波を輝かせていないのは許しがたい。

  • 逃走中 THE MOVIE

    • ライター、編集

      岡本敦史

      人気ゲームバラエティ番組の劇映画化という趣向自体にはなんの異論もない。面白ければ全然OKだが、結局なんの驚きも興奮もないまま終わった。反撃も対決もせず逃げ続けるだけのアクション映画がいかに成立し難いか思い知らされる内容だが、それ以前に、親友同士という設定にまるで実感が伴わない主人公たちのドラマが空虚すぎて震えた。現実世界を異世界のルールが侵食するという設定が映画版「クレヨンしんちゃん」そっくりで、敵キャラのドラァグクイーン3人組もすごい既視感。

    • 映画評論家

      北川れい子

      テレビのバラエティ番組をドラマ化した映画だそうだが、ごめん、始まって5分ほどでスクリーンの前から“逃走”したくなった。友情と絆をベースにしたゲーム仕立ての青春アクション? 最後まで逃げきれれば賞金がドサッ!? が、設定もキャラも実に雑で、口裂け男まで登場、逃げて逃げての逃走シーンもただそういう場面があるだけ。彼らを追うハンターたちのナリフリが、サングラスに黒服、ネクタイで、以前の“NO MORE 映画泥棒”のキャラそっくり。まぁ勝手にやってれば。映画を観るのも忍耐なのだった。

    • 映画評論家

      吉田伊知郎

      ひたすら追われて逃げるだけの映画の根源的な面白さに満ちた設定なのに、サスペンスの欠片もない。若者たちの古臭い青春回顧物語も邪魔。中途半端にテレビと連動させ、タレントの顔出しが多いのも興を削ぐ。それなら、「ミンナのウタ」のGENERATIONSのように、本作のJO1もFANTASTICSも本人役にした方が良かったのでは? 「もし徳」に暴れん坊将軍役で出なくて正解だった松平健という俳優のスケールを生かせていないのも無念。長井短のヒールぶりが見どころ。

  • 化け猫あんずちゃん

    • ライター、編集

      岡本敦史

      実写をトレスするロトスコープという作画技法は、現実を解剖するような生々しさと異化をアニメーションにもたらす。本作のもっさりした妖怪キャラたちはその効果を台無しにしそうに見えて、見たことのないリアリティと愛らしさをしっかり兼ね備え、そこに才人・久野遥子監督のセンスと巧さが光る。実写担当・山下敦弘監督のアニメ的定型から離れた構図も新鮮な化学反応を生み、のどかなのに終始ゾクゾクした。原作には登場しない、ちょいワルな主役の女の子も抜群にかわいい。

    • 映画評論家

      北川れい子

      猫漫画、猫アニメに外れなし! いえ、ネコ好きの独りごとです。それにしてもアニメ化された大島弓子の傑作漫画『綿の国星』の猫同様、等身大に擬人化された茶猫・あんずちゃんのキャラと言動の愉快なこと。お寺の住職に拾われて37年、バイクで出張マッサージもする町の人気者。ただかなり皮肉屋。そんな猫人間が、住職の孫娘の世話をする羽目になって化け猫ぶりを発揮、リアルとファンタジーを巧みに融合させた展開は、絵も色も軽やか。ロトスコープなるアニメ手法が効果的で、そして森山未來の声!

    • 映画評論家

      吉田伊知郎

      船頭が多くとも順路が一致すれば、こんな快適な旅が待っている。原作への愛着が迸る久野・山下両監督に、これまで河童に蛙、さらに神も地獄も平然と自作に登場させてきた、いまおかしんじの濃厚な脚本を理想的な形でアニメーションへ昇華。「お引越し」「つぐみ」から触発されたという映画オリジナルのヒロインの異分子ぶりも良く、終始不機嫌な少女と、あんずちゃんのドライでシニカルな描写の数々が素晴らしい。死を描きつつ安易な感動に利用しない作劇に、じんわりと涙が滲む。

  • フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン

    • 俳優

      小川あん

      人類の歴史的偉業「アポロ11号」の題材にひねりをくわえ、その裏側に存在したメディアの嘘を描いた壮大なブラックユーモア。それに留まらず、たくさんの夢と希望が詰まっている。95年に製作された「アポロ13」から、語りのアプローチがここまで飛躍するとは。NASAの当時の貴重映像とともにさまざまなギミックを駆使したオープニングから一気に心を掴まれる。後はもう映画のリズムに乗るだけ。やっと、バーランティ監督の実力が明らかになった。これからどんどん映画を撮ってほしい!

    • 翻訳者、映画批評

      篠儀直子

      捏造映像を保険として撮影しておくことにしたのがやがてサスペンスを生み出すという、根強い都市伝説を逆手に取った着想がなかなか面白く、NASAを支えていた女性たちを讃える側面を備えているのもイマの映画らしくてよい。ところで作品の評価とは全然関係ないが、テイタムがチームメンバーを奮起させる演説シーンを見つつ、こういうのつい最近も見た気がするけど何だっけと考えてみたら「オッペンハイマー」だった。両プロジェクトの本質的類似性やら、表象行為の危うさやらを再度思い知らされた気分。

    • 編集者/東北芸術工科大学教授

      菅付雅信

      1969年の人類初の月面着陸に関わる陰謀をめぐるコメディ。切れ者のPRウーマンをジョハンソン、NASAの発射責任者をテイタムが演じ、二人の掛け合いの楽しさは50〜60年代のハリウッド映画的。全体に往年ハリウッド映画的かつ、古き良きアメリカ的なテイストが濃厚で、最終的に誰も悪役ではなく、見事にハッピーエンドとなる。しかし、その後の世界を生きる我々としては「古き良きハッピーエンド」で映画を終わらせていいのかと。たとえコメディにするとしても月面着陸に対する批評的視点が必要はなずでは。

  • 墓泥棒と失われた女神

    • 文筆業

      奈々村久生

      現時点の自分は、多くのロルヴァケル支持者に比べて、その美しい映像叙情詩を愛していない。ダウジングの能力を持つ主人公は「エル・スール」(83)を思い出させるが、あの父親もやはり喪失に囚われた男であった。失われた過去を幻想化して神聖視することは目の前の現実を容易に下に見ておろそかにする。ジョシュ・オコナー演じる男性のナイーブさは村上春樹的でもあり、幻想を取り戻すことがゴールではあまりに救いがない。その中で圧倒的な現在と現実を担う女性・イタリアの存在が希望だ。

    • アダルトビデオ監督

      二村ヒトシ

      導入部で「幸せの黄色いハンカチ」みたいな人情話かと思ったら全然ちがった。超能力というものがあるとしたら(あるのだと思うが)それは正義のためや戦いのためには使われず、日々こういうことに使われているのだろう。もう死んでいる人から盗む泥棒は何を盗んでいるのか。泥棒にならざるをえない人々は誰から何を盗まれているのか。死んでいる人に恋し続けることは美しいことなのか。美術館や写真や一瞬の夢の中で見る過去の遺跡や過去の恋人は、どこから掘りだされてきたものなのか。

    • 映画評論家

      真魚八重子

      撮影は35ミリ、16ミリ、スーパー16を使っていて、時折左右にぼやけた黒味が出る。特に使い分けに法則は感じず、適当な割り振り方に好感が持てた。そもそも主人公のアーサーがダウジングで古代の墓を探り当てる時点で、マジックリアリズムのような映画だ。昔の墓に入っていくシーンの供えられた動物の人形の魅力。アーサーはこの世とあの世の狭間にいる人間だが、失ってしまった恋人、魅了される古代の遺物と、過去に引っ張られているようだ。それゆえのラストシーンがまばゆかった。

  • HOW TO HAVE SEX

    • 映画監督

      清原惟

      友人と旅行に出かけた少女が、旅先で初体験をしようと意気込むが思わぬ方向へ行ってしまうという、デートレイプの問題を扱った作品。突然訪れる残酷な出来事に、自分でも自覚しないままに傷ついてしまうさまは、主人公を演じた俳優によって生々しく表現されていた。少女らしい見栄の張り方、妬みや苦しみが、簡単に割り切れない複雑なもののまま存在していた。ただ、最後に突然訪れるシスターフッド感と、無理やりにでも元気を出そうとする結び方は、少し乱暴な感じがしてしまった。

    • 編集者、映画批評家

      高崎俊夫

      見終えたあとで、ジェーン・カンピオンの絶賛や性加害のモチーフを潜在的に忍ばせさせた果敢な問題提起作という高評価に触れてやや意外だった。リゾート地に卒業旅行でやってきてお酒とダンスに興じる3人のティーンエイジャーの空騒ぎが延々と無造作に点描される。そのうちの一人がヴァージンであることに引け目を感じてひと夏の冒険を試みるという過去に無数に変奏されてきた〈初体験ヴァカンスもの〉のバリエーションであり、それ以上でも以下でもない。それとも私は全く別な映画を見ていたのだろうか。

    • 映画批評・編集

      渡部幻

      宣伝の通り“直感的で感覚的な体験”であると同時に“感情的な経験の追体験”を探求した青春映画。物語としては何度も見てきたありきたりな青春の通過儀礼だが、描き方が違う。10代の少女のセックスへの憧れとプレッシャー、同意なき経験の痛みに皮膚感覚で寄り添いながら、前向きで、非感傷的である。全ての映画は人間の経験を扱っている。人の経験には個人差があるが、どこかで似通ってもいる。だからこそ私たちは経験の物語を共有できる。そんな映画の可能性を拡げる試みであり、この新鋭監督の才能だろう。

  • キングダム 大将軍の帰還

    • ライター、編集

      岡本敦史

      吉川晃司無双と大沢たかお歌舞伎が火花を散らす場面はずっと面白い。両者が戦場のド真ん中で繰り広げる一対一のバトルと、馬陽の戦いに決着がつくまでの一大スペクタクルは、確かに入場料の元は取れる見応えだ。とはいえ、そこに至るまでが長い。冒頭はツイ・ハーク作品も思わせる吉川アクションで魅了するも、中盤はファンフレンドリーに徹するがゆえ省略できない部分が多く、かなりの忍耐を強いられる。主役の影の薄さもシリーズ随一だが、見せ場は最高という評者泣かせの一篇だ。

    • 映画評論家

      北川れい子

      今回もスペクタクルな戦闘シーンに因縁のある人物やそのエピソードを絡ませて進行するが、際立って魅力的なのは、大沢たかおが演じる大将軍・王騎の冷静かつ圧倒的なリーダーシップ。「キングダム2 遥かなる大地へ」の終盤に登場したときも、不敵な笑みを浮かべて大合戦を俯瞰していたが、その王騎が中華統一を目指す秦国軍を率いて戦う本作は、です、ます調の台詞といい、小事に拘らない大局的な戦術といい、実に鮮烈で、さしずめ大沢たかおのワンマンショー! あっ、吉川晃司の怪演にも拍手。

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