脳天パラダイスの映画専門家レビュー一覧

脳天パラダイス

「水の声を聞く」の山本政志監督が5年ぶりにメガホンを取った、ミュージカルやSFなど様々な要素が入り混じるコメディ。破産し豪邸から引っ越すことになった笹谷一家。娘のあかねがヤケクソ気分でSNSでパーティーを呼びかけたところ、次々に珍客が訪れ……。脚本には劇団コンプソンズの主宰・金子鈴幸も参加。破産した家長の修次を作家・クリエーターのいとうせいこうが、数年前に家を出ていった奔放な元妻・昭子を「オー・ルーシー!」の南果歩が、謎のホームレス老人を「ある船頭の話」の柄本明が演じる。2020年、スイスの映画祭ローザンヌ・アンダーグラウンド・フィルム・アンド・ミュージック・フェスティバルにてオープニング上映。
  • 映画評論家

    北川れい子

    ヤケッパチの美学。デタラメの祝祭性。パターンの背負い投げ。究極の千客万来――。そう、こういう映画が観たかった。こういう映画に飢えていた。何より素晴らしいのは、山本監督が、舞台となる豪邸を、大袈裟に言えば地球規模(!!)で開放していること。ここには分断も境界も差別も偏見もなく、人類みな仲間、歌って踊れば気持ちは一つ。いくつかのエピソードに現実を取り込んではいるが、あくまでも踏み台で、あとはイッちゃえ、ヤッちゃえの楽天性、こちらももうノリノリ。

  • 編集者、ライター

    佐野亨

    この種のハチャメチャお祭り映画は、たとえば近年では福田雄一や英勉の監督作品がまさにそうした路線を志向しているとおぼしいが、山本政志の場合は、閉じた楽屋落ち的くすぐりやTVバラエティ的な仕掛けに頼らず、どこまでも映画というメディアそれじたいの祝祭性に立脚している点がすがすがしい。一見するとアンモラルな要素も、すべてを均等に異化し、笑い飛ばす「アニマル・ハウス」的な徹底ぶりによって厭味のない多様性讃歌に昇華されている。ダンス含め小川未祐がうまい。

  • 詩人、映画監督

    福間健二

    共同脚本の金子鈴幸の力も大きいと思うが、山本ワールドの集大成と言える量感たっぷりの迫力がうれしい。パーティーで出し入れ自由にした広い豪邸に異色の人物と空間を次々に呼び込むという着想。ヒロインあかねを演じる小川未祐が歌って踊れるように、ショー的展開を見込んだキャスティング。そのショーはいくつもの境界をとびこえる。どの人物の心理もヤケクソ感と承認要求が似ているのは惜しいが、上品さとは無縁のこういうノリでしか突破できない壁がこの国にはあるのだ。

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