淪落の人の映画専門家レビュー一覧

淪落の人

香港を代表する俳優、アンソニー・ウォン主演によるヒューマンドラマ。事故で半身不随となった中年男チョンウィン。妻とは離婚、息子とも離れて暮らし、人生に希望を見いだせない日々のなか、若いフィリピン人女性エヴリンが、住み込み家政婦としてやって来る。共演は、新人のクリセル・コンサンジ、「ピンポン」のサム・リー。香港の女性監督オリヴァー・チャンによる長編デビュー作。第14回(2019)大阪アジアン映画祭にて「みじめな人」のタイトルで上映、観客賞を受賞した。
  • 非建築家、美術家、映画評論、ドラァグクイーン、アーティスト

    ヴィヴィアン佐藤

    限りなく透明。監督初の長篇作品だが、香港の移ろいゆく四季と小さな人間関係の機微を美しく切なく、堂々と描いてみせた。斬新なアイデアや驚愕な演出にはほど遠いからこそ、心の微妙な陰翳を映しだすことに成功した。法や慣習では掬いきれない人間の感情。日本に届けられる香港の社会混乱の報道では到底伝わらない、数多のドラマがあるはず。人間の情感や関係は、記号や一般と呼ばれるものでは決して置き換えられるものではない。全ての存在が固有でかけがえのない奇跡なのだ。

  • フリーライター

    藤木TDC

    香港ではゆるぎなき名優かもしれないが、私にとってA・ウォンは今も異常で凶暴な役をこなしてきた怪優で、その暴虐者のイメージと、肩より下が不随となった車椅子生活者の老いと無力のギャップがまさに「淪落」を感じさせ観賞の誘引剤になっており、内容も悪くはない。しかし物語は我々の周囲にある現実とはあまりに遠い聖人たちの美談だ。仲睦まじい登場人物男女に性欲をめぐる煩悶は皆無だったのか。A・ウォンを使うならもっと煩悩丸出しの生ぐさい人物像でもよかったのでは。

  • 映画評論家

    真魚八重子

    「最強のふたり」の主人公二人を男女に変えてみたような設定だが、本作で二人がするのは悪ふざけや冒険ではなく、互いの秘めた夢をかなえるというわかりやすく優しい行為だ。厭世家と貧乏な出身に悩む二人にちょっとしたトラブルが起き、絆を深める密室劇が大半を占めるが、狭さは気にならないし飽きはこない。アンソニー・ウォンもさすがに達者だ。ただ本当に良い話のダダ漏れといった印象はあって、わかりやすく感動したい人や泣きたい層が中心ターゲットなのだろうなと感じる。

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