やまぶきの映画専門家レビュー一覧

やまぶき

第75回カンヌ国際映画祭ACID部門に日本映画として初めて選出された、「新しき民」の山崎樹一郎監督による群像劇。陽のあたりにくい場所にしか咲かない野生の花“山吹”をモチーフに、現代日本社会と家族制度の構造の歪みに潜む悲劇と、その果てにある希望を映し出す。出演は、イギリスで演劇を学び、本作が映画初主演となる韓国人俳優カン・ユンス、「サマーフィルムにのって」の祷キララ、「激怒」の川瀬陽太。
  • 脚本家、映画監督

    井上淳一

    「資本主義と家父長制社会に潜む悲劇とその果てにある希望」を描いて成功していると思う。俵謙太による撮影もいいし、俳優への目配りもいい。しかし一点だけどうしても気になる。祷キララの両親は刑事と戦場ジャーナリスト。リベラルな母は警察となんか結婚するだろうか。敢えてそうするなら、その枷を活かさないと。戦場で死んだ妻に似てリベラルな娘にかける言葉はあれだろうか。結婚もまた闇というなら、あまりにご都合ではないか。海外の人は気にならないのだろうか。もったいない。

  • 日本経済新聞編集委員

    古賀重樹

    目線は低く、志は高く、を地で行くような山﨑樹一郎の力作。冒頭の採石場の爆破シーンからサイレントスタンディングの街角まで、岡山県真庭市という土地に根付いた監督が、自信をもってカメラの位置を決め、俳優を動かし、風景をとらえているのがわかる。どのショットにも借り物めいたところがないのだ。それでいて、この山間の町でささやかに暮らす二つの家族の物語は、韓国、中東、そして世界へと視界を広げていく。分断され、金に支配され、弱者が虐げられる非情の世界へと。

  • 映画評論家

    服部香穂里

    志の高い作品であるとは思う。ただ、主人公のひとりである女子高生が、名前からして象徴的な存在であるがゆえに、日本の不穏な気配漂う現状を反映させた、彼女の日常をめぐるさまざまな社会的・政治的トピックに対する考察や問いかけも、漠然たる啓発や警鐘に留まり、いまひとつ胸に迫ってこない。強引にふたりを結びつけるくらいなら、夢破れて日本に流れ着いた韓国人男性に焦点を絞り、周囲に翻弄され続ける彼の半生を掘り下げた方が、主題にも深く踏み込めたのではないか。

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