生きる LIVINGの映画専門家レビュー一覧

生きる LIVING

黒澤明が1952年に監督し、キネマ旬報ベスト・テン1位に輝いた「生きる」を原作に、ノーベル賞作家カズオ・イシグロが、舞台を第二次世界大戦後のイギリスに移して新たに脚本を書いたヒューマン・ムービー。監督には2011年に「Beauty」(原題)でカンヌ国際映画祭のクィア・パルムを受賞したオリヴァー・ハーマナスが抜擢された。志村喬が演じた死期迫る市民課長の渡辺は、イギリスの名優ビル・ナイによって折り目正しい英国紳士のウィリアムズとなった。その抑制された演技は高く評価され、第95回アカデミー賞の主演男優賞にノミネートされている。
  • 映画評論家

    上島春彦

    官僚制の本場(?)英国が黒澤をリメイクしたら基本さらに傲岸かつ陰湿な(これは悪口ではない)映画になった。さすが。主人公を称してミスター・ゾンビというのも上手い。キャラクター全般にオリジナルのような愛嬌はない。しかし、その分、部下の女性と新人で補い、温かさを出す。また〈アローン・トゥゲザー〉や〈黒い瞳〉等の懐メロの使い方に味がある。オリジナルのように理詰めで落ちまで持っていくのではない(せっかくの帽子の使い方が上手くない)が、ここまでやれれば納得だ。

  • 映画執筆家

    児玉美月

    書類が積み上げられたデスクが並ぶ室内の圧迫感のあるフレーミングによる画の再現などをはじめオリジナル版である黒澤明の「生きる」に忠実でありつつ、抑制の利いた演出ではありながらも、本作はよりオーセンティックな雰囲気で感情的な仕上がりになっている。主人公の男とマーガレットとの関わり方も本作では現代にあわせて描かれていたように思う。黒澤版ではブランコに乗る主人公を捉えた映像がとりわけ印象深いが、本作でブランコは無人と化しラストショットへと配されている。

  • 映画監督

    宮崎大祐

    リメイクが成功する原作というのは、誰がどう見てもそれなりに良い作品ではなく、語る主体によって評価が真逆になるような作品だ。それは、この原作にはこんな可能性もあったのかという驚きこそが観客を熱狂させるからであって、「やっぱりよかったね」という安全な反応を引き出すため制作するには映画はリスクが高すぎる。本作も俳優は良い。絵も美しい。だが、驚きは何ひとつなく、これでもかとナレーションで泣かせにかかる後半の蛇足に次ぐ蛇足の展開にはさすがに鼻白んだ。

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