アラビアンナイト 三千年の願いの映画専門家レビュー一覧

アラビアンナイト 三千年の願い

「マッドマックス 怒りのデス・ロード」のジョージ・ミラー監督の長篇10作目となる壮大なファンタジー。3000年もの間、幽閉されていた孤独な魔人と、見果てぬ夢を追い求める女性学者とがイスタンブールで出会い、時空を超えた魂の旅に出る。イスラムの説話集『アラビアンナイト』をモチーフに、圧倒的な造形美と絢爛たる色彩美のアラベスクが、愛の神秘、狂気と欲望の世界へと観る者を誘う。女性とのおしゃべりが大好きな優しい魔人〈ジン〉役に「ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結」「ビースト」のイドリス・エルバ。理性の塊のような学者アリシア役には「サスペリア」「MEMORIA メモリア」のティルダ・スウィントン。時にユーモラス、時にシリアスな演技で、名優二人が火花を散らす。
  • 米文学・文化研究

    冨塚亮平

    古来より存在する物語の定型を用いつつも、そこにフェミニズムを経由した新たな語りの方法を重ね書きしようとする、前監督作同様の意欲作。恋愛をめぐるおとぎ話の構造を残し、目眩く神話世界を美しい映像で表現しながら、同時に孤独を愛するアリシアの主体的な選択をも同時に肯定する離れ業を実現する奇抜な設定だけでも見事だが、それ以上に、あえて最小限しか説明せず余白を残すことで、単なる優等生的なアップデートとは一線を画した多義性を作品に付与する演出が何とも心憎い。

  • 日本未公開映画上映・配給団体Gucchi's Free School主宰

    降矢聡

    かつて物語は混乱を鎮める唯一の方法だった。昔は未知の力に人は名称をつけて神話を語った。神話とは遠い昔知り得たことで、科学とは今知り得ることである。そして遠からず創造の物語は科学の語りに取って代わられるだろうと、この映画の物語論の専門家は言う。しかし愛は科学で語ることができるだろうか。いまだかつて解き明かされておらず、そして今後も解き明かすことができない愛という未知の力を知るためには、いつまでもラブストーリーが必要なのだと、本作は語っている。

  • 文筆業

    八幡橙

    ジョージ・ミラー待望の新作。にしては思いの外地味で単調で退屈だ、と感じる向きもあるだろう。とはいえ、個人的にはこの物語、なぜか無性に心惹かれた。シェヘラザードの時代から、人はなぜフィクションを、物語を欲するのか。その原点に真正面から向き合わんとする、覚悟にも似た思いがひしひしと伝わるゆえか。これはある意味、暦が還るほど年を重ねた大人が縋るイマジナリー・フレンドの物語。マスクをして一人、ロンドンの地下鉄に揺られる主人公の孤独に、コロナ禍の寂寞を見た。

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