最悪な子どもたちの映画専門家レビュー一覧

最悪な子どもたち

2022年第75回カンヌ国際映画祭『ある視点』部門グランプリに輝いた人間ドラマ。フランス北部の荒れた地区を舞台にした映画が企画され、オーディションで地元の4人の問題児たちが選ばれる。住民たちが訝しがる中、4人をモデルにした物語の撮影が始まり……。映画に参加することになる4人を演じるのは、実際に映画の舞台となる北フランスの撮影地近くの学校や児童養護施設でのオーディションにて選ばれた演技未経験の子どもたち。監督は、キャスティングディレクターや演技コーチとして数千人以上の若者と接してきたリーズ・アコカとロマーヌ・ゲレ。二人が監督した2016年の短編「シャス・ロワイヤル」でもキャスティングを題材にしている。
  • 映画監督

    清原惟

    なんといっても俳優たちの顔だった。この顔の素晴らしさは、揺らぐことがない。彼らは施設や学校で探した演技経験のない子どもたちで、そのキャスティング力にも驚く。映画製作の持つ暴力性がテーマの一つだと思うのだが、撮影における倫理観を問うようなシーンにも、今一つ批評性に欠けるような感じもした。映画に参加することで、子どもたちが得たものがなんだったのか。それは大人たちや社会に認められることだけではなかったはずで、彼ら自身の喜びをもう少し見てみたかった。

  • 編集者、映画批評家

    高崎俊夫

    冒頭、オーディション風景に登場するフランスの小都市の荒廃した地域に住む子供たちの貌は初期のダルデンヌ兄弟の作品の子供たちに似ている。しかしドキュメンタリーの手法を駆使し、さらに映画撮影というシチュエーションを介在させることで、幾重にも〈虚〉と〈実〉の境界を混交させるスタイルは両刃の剣ではないか。作り手たちの〈リアル〉を追求する姿勢が却って対象との関係を曖昧にさせているのだ。ここに欠けているのは大島?のテーゼ「カメラは加害者である」という視点だと思う。

  • 映画批評・編集

    渡部幻

    素人を起用した劇映画撮影を巡る自己言及的な劇映画。現実生活に問題を抱える子どもに彼ら自身と似た役を演じさせ、プロの役者が映画監督を演じ、劇中で監督は子役らの“リアル”を取り込もうと一線を越える。現実と虚構の境界線を現代の基準に照らして自己批評しているが、後味は優しい。80年代の「子供たちをよろしく」「ピショット」「クリスチーネ・F」が素人の生々しさで驚かせたが、束の間、映画撮影の非日常を生きた子供たちの日常はその後どうなったのだろうと、当時想像したことを思い出した。

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