ファースト・カウの映画専門家レビュー一覧

ファースト・カウ

「リバー・オブ・グラス」でデビュー以降、独自の視点を追求するケリー・ライカート監督がA24とタッグを組んだ日本初の劇場公開作。西部開拓時代のオレゴン州、アメリカン・ドリームを夢見る料理人クッキーと中国人移民キング・ルーはある計画を思いつく。原作・脚本は、ライカート作品の脚本を多数手がけてきたジョナサン・レイモンド。出演は、「ギャング・オブ・アメリカ」のジョン・マガロ、「やっぱり契約破棄していいですか!?」のオリオン・リー、「エンパイア・オブ・ライト」のトビー・ジョーンズ。第70回ベルリン国際映画祭金熊賞ノミネートのほか、世界中の映画祭で計157部門ノミネート、27部門受賞。
  • 映画監督

    清原惟

    ケリー・ライカート監督がA24と製作した本作は、A24のイメージを覆すほど渋い映画であり傑作だった。時はアメリカの開拓時代、集落の住人たちはぬかるみの上で暮らし、貧しさと不衛生の中で生きていた。人々に余裕はなくコミュニケーションは簡単なジョークだけ。主人公の二人はこの集落で出会った。彼らに芽生えた友情の美しさ。映画というものは、一つひとつの時間の積み重ねによって、風景の中に感情が生まれ、人々の間に血が通うことを見守るものなんだ、と強く思った。

  • 編集者、映画批評家

    高崎俊夫

    さまざまな人種が混在するオレゴンの辺境を舞台にした異形な西部劇という趣向は、R・アルトマンの「ギャンブラー」を想起させる。あのミセス・ミラーとマッケイブの奇妙な関係をこの映画の二人の男の友情に置き換えると腑に落ちるのではないか。とにかく時制を大胆に省略し、行き当たりばったりで、どこへ転がるのか不分明な語り口がユニークで、後半、L・グラッドストーンが登場するせいだろうか、M・スコセッシの血に塗れた新作の牧歌的な裏面史のようにも映ずるのは興味深い。

  • 映画批評・編集

    渡部幻

    ケリー・ライカートの傑作。21世紀の巨大な艀と19世紀前半の筏に乗る牛のイメージが結ばれる。1820年オレゴン。ラッコやビーバー狩猟に翳りの見えてきた森で、白人の料理人と中国人の男が出会い、最初の牛が連れられてくる。2人は牛の乳を盗み、作ったケーキドーナツが評判になるが……。「ギャンブラー」「さすらいのカウボーイ」「ビリー・ザ・キッド」「デッドマン」の時代色とリリシズムを思わせる。近年これほど自然で、飾り気がなく緊密な映画も珍しい。淡々として奥行きの深いアメリカ映画。

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