瞳をとじて(2023)の映画専門家レビュー一覧

瞳をとじて(2023)

「ミツバチのささやき」のビクトル・エリセ監督の「マルメロの陽光」以来31年ぶりの長編劇映画となるヒューマンミステリー。22年前に姿を消した俳優フリオを取り上げるTV番組の取材の中で、当時の映画監督でフリオの親友だったミゲルは自身の半生を追想する。「静かなる復讐」のマノロ・ソロがミゲルを、「ミツバチのささやき」で撮影当時5歳にして主役のアナを演じたアナ・トレントが失踪したフリオの一人娘アナを演じる。2023年第76回カンヌ国際映画祭カンヌ・プレミア部門上映作品。
  • 映画監督

    清原惟

    31年ぶりのビクトル・エリセの新作は、映画をとりまく状況の変化と、映画というメディアについて描く映画だった。はじめは、どこに向かっていくのか全くわからない、長い旅に出ているような感覚だったのが、最後で急に腑に落ち、深く感動した。「ミツバチのささやき」の小さなアナ・トレントが、大人の女性になっている。それでも、すぐに彼女だとわかった。人物たちの顔がすべてを物語っている。この映画をフィルムではなくデジタルで撮影したことに、監督がもつ未来への希望を感じた。

  • 編集者、映画批評家

    高崎俊夫

    かつてビクトル・エリセは「ミツバチのささやき」のドキュメントの中で6歳のアナ・トレントが怪奇映画を見ながら思わず声を上げたときの表情、まなざしをとらえ「私が映画を発見した最高の瞬間だった」と語った。「瞳をとじて」に半世紀ぶりにアナに出演を乞うたのは、エリセがそんな奇蹟にも似たエピファニーの瞬間を再び見出したかったからにほかなるまい。50代後半のアナは目尻の小皺さえ美しい。父と再会した際「ソイ・アナ(私はアナよ)」と呟くアナ・トレントを観ていて私は崩壊した。

  • 映画批評・編集

    渡部幻

    エリセの老境を偲ばせる私的な瞑想。映画表現は常に時間と場所に帰属するが、今ここにある我々の現在もまた個々の記憶=過去の集合体にほかならないからこそ、人はスクリーンの幻に現実の似姿を見出すことができるのだろう。その意味でこの映画が比喩するのは人生の旅、それも終点にほど近い者が見た夢としての映画であり、一種ミステリ的な興味とともに上映時間は過ぎていく。その様は美しく悲しい。しかし“My Rifle, My Pony and Me”の歌詞がこんなに沁みるとは思わなかった。

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