ビニールハウスの映画専門家レビュー一覧

ビニールハウス

誤った選択によって負のスパイラルに陥ってゆく女性の運命を綴るサスペンス。少年院にいる息子と再び一緒に暮らすことを夢見ながら、ビニールハウスで生活する訪問介護士のムンジョン。だが、介護先の認知症の老婦人の死をきっかけに、ムンジョンの日常は一転する。出演はTV『SKYキャッスル~上流階級の妻たち~』のキム・ソヒョン、ドラマを中心に活躍するベテラン俳優ヤン・ジェソン。監督は本作が長編デビューとなるイ・ソルヒ。
  • 映画監督

    清原惟

    ビニールハウスに住むというのが、「半地下」のことを思い出したり、韓国の賃貸事情について思い巡らせられた。途中までは、主人公の女性のメンタルヘルスの問題や、盲目の認知症の老人との関わりなど、スリリングな心理描写に惹きこまれたが、人が死んでから、グロテスクで既視感のある映画的展開になっていき、もうこういうのはいいかなと思ってしまった。それまでの時間も、すべてこの展開のためのものに感じてしまう。人の不幸を見て喜ぶ感覚が、自分にはわからないからかもしれない。

  • 編集者、映画批評家

    高崎俊夫

    かつてイ・チャンドンの秀作「バーニング 劇場版」では荒涼たる田園地帯に点在するビニールハウスの光景が何とも形容しがたい寂寥を感じさせた。だが、本作ではさらに韓国の格差社会の暗喩としてのその存在が徹底化、象徴化されて描かれる。疲弊したヒロインに巣くう絶えざる自己懲罰の衝動と少年院にいる息子への溺愛、そして著しく根拠を欠いた彼女の夢想が無惨に打ち砕かれるさまを、映画は時には仮借なきまでにリアルに、時には詩的で幻想的なビジョンをもってあぶり出している。

  • 映画批評・編集

    渡部幻

    冒頭のビニールハウスでイ・チャンドン「バーニング 劇場版」を、続く母と息子の対話場面で黒沢清「CURE」を連想。いきなり今でも有名な別の何かに似ていたため、この新鋭の志に軽く失望したが、これから始まるドラマの悪夢的なトーンを予告する役割を担わせたのだろう。事実、訪問介護士と貧困を背景とする社会的孤立の物語は雪だるま式に悪化する。キム・ソヒョンの芝居に緊張感があり、イ・ソルヒは脚本と編集も兼ねることで重く憂鬱なリズムとテンポを維持している。少し硬いが意欲作だとは思う。

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