映画専門家レビュー一覧

  • リボルバー・リリー

    • 映画評論家

      北川れい子

      ずいぶんと話が強引、乱暴、いや荒唐無稽な設定のアクションサスペンスだが、それでも楽しめるのは、リリー役・綾瀬はるかの素早いガンさばきと、ブルース・リー張り!の、殴る蹴る、投げてぶつかり、倒して取っ組み合い、といったアクションが、しっかりサマになっているからだ。しかも彼女はどこでもリボルバーをぶっぱなし、誰が相手でも、退かない、諦めない。二丁拳銃で敵に立ち向かう場面も。大正時代のファッション、風俗も話の種になる、綾瀬はるか限界超えの娯楽活劇。

    • 映画評論家

      吉田伊知郎

      綾瀬、長谷川ら虚構性に耐えうる俳優陣に加え、セットとVFXを織り交ぜて大正を再現した美術の見事さも相まって最後まで飽きさせず。埼玉→東京で進行する無理のない移動距離も良い(やっと玉の井まで連れてきた少年から目を離し、直ぐに拉致されるのは無警戒すぎるが)。アクションをドラマになじませて悪目立ちさせない趣旨は良いとしても、形を演じている感が強く、肉体の痛みは伝わらず。濃霧の銃撃戦も距離感が喪失。映画的なカタルシスよりも、非戦を少年に貫かせたのは見識。

  • アウシュヴィッツの生還者

    • 編集者/東北芸術工科大学教授

      菅付雅信

      アウシュヴィッツ収容所にて賭けボクシングで勝ち続けることで生き延びたユダヤ人青年が戦後もある目的のためにボクシングを続けた実話という題材は極めて魅力的なのだが、ボクシング映画は名作の宝庫。他のボクシングものと比較すると、本作は肝心のボクシング・シーンの描写が凡庸。ユダヤ人収容所映画もこれまた傑作が多いため、本作の収容所シーンも際立つものがない。悲劇的な実話をいかに映画的にツイストするか、そのクリエイティヴな跳躍が足りない。

    • 俳優、映画監督、プロデューサー

      杉野希妃

      無数の死闘を乗り越えてホロコーストを生き延びたハリー・ハフトの実話を映画化。影、のぞき穴、花火、浴槽……至る所にトリガーが潜み、次々とフラッシュバックする過去があまりに凄惨で言葉を失う。言葉では何も伝えられないと嘆いていた彼が、息子に過去を語るラストに目頭が熱くなった。そこで終わるかと思いきや、移民を受け入れたアメリカへの賛美で締めくくられるのがもどかしい。語り継ぐことの難しさを骨身に染みて感じるからこそ、もう少し親子の対話が聞きたかった。

    • 翻訳者、映画批評

      篠儀直子

      強制収容所での主人公の体験は、生き延びた者の罪悪感を強烈に凝縮して表現するための創作のようにすら見えかねないけれど、恐ろしいことにこれは実話なのだ。主人公にボクシングを教えるナチ将校はもちろんのこと、すべての登場人物に厚みがある。非常にシリアスな題材である一方、B・レヴィンソンの演出は、たとえば湖畔の合宿など、何気ないシーンにしみじみとした味わいがあり、彼の80年代の代表作群がそうであったように、いいアメリカ映画を観たなあという気持ちにもさせられる。

  • バービー(2023)

    • 文筆業

      奈々村久生

      「フランシス・ハ」(12)でガーウィグを観たとき、監督としてハリウッドの第一線に躍り出るとは思いもしなかったが、インディーズシーン出身かつ女性である彼女が、“理想の女性像”を世に刷り込んできたバービーのフォーマットを使って、#MeTooの先にある女性のあり方を提示する試みは、それ自体が変革だ。新しい価値観を語るには説明が不可欠だが、それらを「言語化することで洗脳を解く」というメタ的な演出に重ね、男性の生きづらさにまで言及した手腕はさすがの一言。

    • アダルトビデオ監督

      二村ヒトシ

      「トイ・ストーリー」じゃなく、この物語のパターンで「トランスフォーマー」や「G.I.ジョー」も撮って欲しい(あ、よく考えたら、それ「レゴ・ムービー」か……)。マーゴット・ロビーって自分の顔や体型がキモいってわかってる人なんだな。ライアン・ゴズリングって、ものすごい芸人なんだな。バービー人形の発売ってパラダイムシフトだったんだな。多様性のことを言えば、すべての女児が人形を好むわけではないとは思うが、まあいいか。理屈で作られた映画だけど、僕は理屈が好きなので気に入りました。

    • 映画評論家

      真魚八重子

      フェミニズム問題の最前線にいるマーゴット。本作でのバービーランドも、すべての職業をバービーたちが担っている。しかし人間界からの負の逆流が、完璧なはずのバービーを侵食し始め、解決法を見出すためにバービーは人間界へ向かう。しかし勝手に同伴したケンが、現実の「男らしさ」に憧れを見出し、バービーランドは人間界に汚染されてしまう。中絶反対が起こる世で少女らが赤ん坊人形を叩き壊し、バービーを手にする描写も必然であろう。だが全般に騒々しい演出のみが続くため逆に平坦に感じる。

  • ソウルに帰る

    • 映画監督

      清原惟

      冒頭、主人公フレディとゲストハウスの女性のささやかなやりとりのカットバックで、すぐにこの映画のリズムに惹き込まれた。生まれた国である韓国を異邦人として旅するフレディと、旅に同行し彼女をサポートするゲストハウスの女性のシスターフッドに着目していたのに、唐突に終わりがきてそこから全然違う映画のようになって戸惑う。しかしそれは突然自分の立つ場所がわからなくなり、直感を頼りにそのときそのときの判断を持って人生に立ち向かう彼女の感覚でもあったのかもしれない。

    • 編集者、映画批評家

      高崎俊夫

      国際養子縁組をめぐるドラマは、畢竟、自分はどこに帰属するのかというアイデンティティの探求に帰着する。風貌は典型的な韓国人でありながら韓国語は碌に話せず、中身はフランス人であるフレディは肉親を探す旅に出る。その過程で彼女は否応なく自己同一性の激しい揺らぎに直面し、プライドは打ち破られ深く傷つく。冒頭、彼女が初見で楽譜を見て演奏することの醍醐味を得々と語る場面がある。そんな彼女の地獄めぐりの果てに、バッハの旋律が流れてくるラストには不思議な感銘を覚える。

    • 映画批評・編集

      渡部幻

      カンボジア人の両親とフランスで育った監督は、韓国からフランスに養子に出された知人女性の経験に触発されたという。まずこの前提の個人性が現代的である。映画はフランス育ちの若く自由で大胆な韓国系女性を登場させる。彼女は今、韓国にいる。なぜなら、この国に「生物学的な母親」がいるはずだからだ。異なる言語と文化の翻訳、自己同一性の問題を通して普遍性をもったが、演出は生熟れである。時折、別の映画のイメージ(ソフィア・コッポラ等)を借りてきてしまい、他の誰でもない作品独自の力を弱めてしまうのだ。

  • ミンナのウタ(2023)

    • ライター、編集

      岡本敦史

      GENERATIONSファンに心霊ホラーの洗礼を受けてもらうという企画自体がまず秀逸。メンバーそれぞれに個性や特性を持たせたキャラ作りも気が利いていて、その他の登場人物や舞台設定は極力シンプルに削ぎ落す作りも効果的(ちなみに怖がり顔は関口メンディーがベスト)。巧みな視線誘導を駆使した清水崇監督の恐怖演出も冴えており、「呪怨」シリーズを思わせる要素や「ザ・ショック」の名場面再現まで盛り込む豊富な手数に、若い世代へのホラー文化の継承意欲も感じられた。

    • 映画評論家

      北川れい子

      清水監督の前作「忌怪島」はくたびれ儲けのホラー映画だったが、この作品は脚本に仕掛けがあり、映像にもドキッとする。やはり恐怖は理屈ではなく、得体の知れない不条理さが不可欠なんだと納得したり。そういえばイーストウッドの監督デビュー作は自ら主演したサイコサスペンス「恐怖のメロディ」。あの作品とは設定も感触も違うが、ウタを恐怖の小道具にした展開ということで、つい連想を。実名で登場するGENERATIONSの面々の演技も各々見せ場があり、演出も思い切りがいい。

    • 映画評論家

      吉田伊知郎

      GENERATIONSが本人役で出演する古典的なアイドル映画風味に、清水崇のホラー演出技倆が程よく混在することで絶妙の均衡を見せる。映画における恐怖が〈声〉にあることは、「呪怨」のエッジボイスを発案した監督だけに当然熟知しており、かぐや姫解散コンサートの有名な心霊テープをモチーフにとり入れ、カセットテープと録音を効果的に活用。死の瞬間を鮮明な映像で残す自殺配信が増えた今、声によって死を想起させる本作は、想像する余地を残すことで恐怖を増幅させる。

  • トランスフォーマー ビースト覚醒

    • 編集者/東北芸術工科大学教授

      菅付雅信

      「トランスフォーマー」最新作はスタッフ&キャストを一新。マイケル・ベイ、マーク・ウォールバーグのような高額ギャラの監督&スターがいない分、以前よりもダウンサイジングした印象。話は相変わらずの変形ロボットプロレス状態。VFXは変わらず見事だが、もはや驚きはない。そしてプロレスのような終わり方とプロレス興行のような継続の匂わせ方。いかんせん俳優陣と脚本が弱すぎて、映画というよりロボット玩具の長尺PR映像と捉えたほうがいいのかも。

    • 俳優、映画監督、プロデューサー

      杉野希妃

      変形ロボットにあまり興味を持てず、スルーし続けてきたトランスフォーマーシリーズ。初見でもその変形ぶりに目を奪われたが、ロボットが多すぎて各々の活躍があまり目立たず、誰がどこにいるのか分かりにくい。予定調和の展開に、前時代的な善悪の対立構造。なぞることが正義だとしてもビジュアル以外で新しい何かを感じ取りたかった。ヒロイン・エレーナが怖がりの考古学オタクという魅力的なキャラなのに、深掘りされないので彼女の後日談にいまいち盛り上がれないのも残念。

    • 翻訳者、映画批評

      篠儀直子

      このシリーズを観るのが久しぶりすぎて設定をかなり忘れてしまっていたが、「クリード 炎の宿敵」を手掛けたスティーヴン・ケイブル・Jrは、各キャラ(オートボットとビーストも含む)の個性を立てながら、インディ・ジョーンズっぽいくだりまで交えて軽快に話を展開。立体的なアクションのスペクタクルに息をのむ。エンドクレジット除いて2時間足らずで話が終わるのと、人死にがないのがファミリー映画として優秀。この映画を入り口に映画好きになるお子さんがいてもいいなと思う。

  • 炎上する君

    • ライター、編集

      岡本敦史

      主人公の女性2人が腋毛を見せながら踊り狂う冒頭、韓国の女性活動家団体を追ったドキュメンタリー「バウンダリー:火花フェミ・アクション」を思い出すが、あそこまでのパワーや鋭さは感じられない中篇コメディ。世にはびこる性的蔑視や偏見、抑圧に対する怒りをパフォーマンスとして表明する親友コンビが、高潔な思想とわびしい現実の狭間でもがくドラマには、確かに胸を打つ場面もある。が、悪ふざけのような演出、粗いコント風の芝居づけが、真に迫る瞬間をたびたびフイにする。

    • 映画評論家

      北川れい子

      42分、いささか食い足りないのは否めないが、世間の風潮にたいする二人の女性の不満と落とし前のセンスの良さに拍手を送りたい。現実が変えられないなら、現実など無視して自分たちは好きに生きよう。説明を極力排した演出も痛快で、何よりキャスティングが大金星。親友同士役のうらじぬのとファーストサマーウイカの表情と演技と妙ちきりんなダンスは、いつまでも観ていたくなる。足下が燃えている“炎上男”については突っ込みを入れたくなるが、ふくだ監督、この作品の続篇を!

    • 映画評論家

      吉田伊知郎

      たどたどしさを残しつつ、それが独自の魅力だった長篇第1作「おいしい家族」から瞬く間に間然するところがない商業映画の担い手となった監督が、原点回帰を見せる。「極私的エロス」の武田美由紀的な雰囲気を持つ主演の2人はウーマンリブの時代からやって来たかのようだが、高円寺で撮影されたことで時空間を超越した寓話的な世界が生まれ、抑圧された女性たちへの憤りも炎上男も包み込む。予想外のウイカのハマりぶりにも瞠目。中篇だけに問題の提起に留まったが、賽は投げられた。

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