映画専門家レビュー一覧

  • キングダム2 遥かなる大地へ

    • 映画・音楽ジャーナリスト

      宇野維正

      説明台詞の洪水と、高音がキンキン鳴りっぱなしの忙しない劇伴。まさに「『鬼滅の刃』時代の実写ヒット・フランチャイズ」な趣の本作だが、想像以上にエクストリームな構成に驚いた(前作は未見で、観るつもりもない)。なにしろプロローグ&エピローグ(ちなみに二番目と三番目にクレジットされている吉沢亮と橋本環奈はそこにしか出ない)を除いた本篇の大半が屋外での合戦シーンなのだ。ストラテジーと戦闘本能を対比させたクライマックスの決闘はなかなかの見応え。

    • 映画評論家

      北川れい子

      冒頭近くで前作のいきさつをザックリおさらいしてスタートするが、本篇の半分以上は広大な平原 (ほとんど砂地)での合戦場面と、歩兵たちのエピソード。さまざまな仕掛けとアクションはそれなりに頑張っていて、西部劇ふうの趣向も。血腥い演出より集団活劇のノリ。でふと角川春樹監督のド派手な戦闘絵巻「天と地と」を連想したりしたのだが、なんとなんと、終盤に登場する王騎役の大沢たかおが不敵な笑みでその合戦を一蹴、大沢たかおの色気と貫祿に、集団活劇も完敗の図!?

    • 映画文筆系フリーライター。退役映写技師

      千浦僚

      「遥かなる大地へ」ってロン・ハワード監督、トム・クルーズと二コール・キッドマンの19世紀末アイルランドからアメリカへの駆け落ちを描いた映画の題名と同じでどうも困る。だが中国戦乱古代史劇がトムクル映画にスケール負けした(個人の)印象。ストーリーが途中すぎてアクション以外が薄く感じられてよくない。渋川清彦が演じた千人将縛虎申が危険だが魅力的だった。だがその特攻、滅私礼賛に抗するような、濱津隆之伍長による弱者の生存哲学をもっと見たかった気がする。

  • さよなら、バンドアパート

    • 映画・音楽ジャーナリスト

      宇野維正

      私小説的フォークソングを8ビートにのせただけの音楽を「ロック」とするこの界隈のドメスティックなバンド音楽にまったく関心がないので重い気持ちで観始めたのだが、画面の構図が冴えていて、撮影、照明、編集など映画としての骨格は引き締まっている。とはいえ、やはり題材そのものの閉鎖性からは最後まで逃れられず。それと、30年近くレコード会社と仕事をしているが、こんな輩のような態度のスタッフにはお目にかかったことがない。これが実話ベースならば、運も悪かった?

    • 映画評論家

      北川れい子

      1人のミュージシャンの、なんとも緩くて薄味の、ボクの来た道である。ビジネス先行の音楽業界に対する異論、反論なども描かれているが、そもそも主人公がどこまで本気でミュージシャンを目指したいのか曖昧のまま、出会った女性たちに背中を押されてギターを手に弾き語り。演じている清家ゆきちもミュージシャンだそうだが、劇中の歌とギターは言ってはワルいが、とても人を惹き付けるパワーは感じられず、がなぜかプロデビュー。彼が関わる女性たちの昭和的なキャラにも?然。

    • 映画文筆系フリーライター。退役映写技師

      千浦僚

      ミュージシャンってもっと練習ばっかり作曲ばっかり実験ばっかりしてるんじゃないだろうか。しかしそれを映画でやると相当変なことになる、ずっとそれを見てられないから人生的、青春的側面ばかりをやっているのだと思ってる。漫画の『BECK』『BLUE GIANT』とか映画にしづらそう。映画「ワン・プラス・ワン」とか「南瓜とマヨネーズ」はそういう点がよかった。本作は割りとオーソドックスにライブシーンや若き日々を。それに異論はない。音楽、音が全般的に楽しかった。

  • キャメラを止めるな!

    • 映画評論家

      上島春彦

      オリジナル版も本欄で私が担当。両方を逐一比較したわけではないがコンセプトは一緒。もっと変えても良かった。とはいえ人物名の件のリメイクならではの趣向がグッド。また劇伴(サントラ)も有能な音楽家が即興的に付ける。ここの劇伴ギャグも定石だが利いている。こういう作品を見ると映画は低予算の方が面白いと確信する。ただしそこは30分ワンカットという技術革新あってだから、安けりゃいいということではない。車椅子移動車とか肩車リフトとかの涙ぐましい工夫を愛でたい。

    • 映画執筆家

      児玉美月

      アザナヴィシウスの過去作である「アーティスト」や「グッバイ・ゴダール」など、まったく煮えきらないオマージュとしか感じられなかったが、本作に関しても同じ印象が否めない。ただし単にフランスでリメイクするだけではなく、日本でヒットしたゾンビ映画をリメイクする製作過程を見せるというメタ的な構造にしたのは英断だった。オリジナル版とほぼ大枠は同じでありながらも楽しめてしまうが、それは上田慎一郎の「カメラを止めるな!」の功績であって決してこの作品のではない。

    • 映画監督

      宮崎大祐

      良く出来てはいたものの、ゾンビ自体にはさしたる愛着もなく、映画業界の労働搾取を美談にまとめあげてしまった原作を、子供ですら騙されないエセ白黒映画で名を成したミシェル・アザナヴィシウスがリメイクするということで、なんとも嫌な予感がしていたが、画質が原作よりも若干良くなったという点以外はやはり厳しい。作劇や人間描写における、「日本的幼児性」を西洋人が再現すると何十倍もの耐え難さとなって回帰してくるという事実を白日の下にさらしてくれたのは収穫。

  • 戦争と女の顔

    • 映画評論家

      上島春彦

      物量作戦で再現された終戦直後のソ連邦の光景に目がくらむ。またこれまでにも映画で見た記憶のある共同アパートメントのごった返しぶりも凄い。その一方で優雅なお城住まいの上流階級もいる。このギャップがテーマの一つ。そこのお坊っちゃんの思惑が今一つ不分明だが、だからこそ残酷なクライマックスを醸成するとも言える。祝福を期待した主人公が被る仕打ちが痛ましい。そこまでの彼女の行動規範に観客の共感を拒否するところもあるが映画最大のテーマがそこに潜んでいる。

    • 映画執筆家

      児玉美月

      緑と赤の美しい色彩設計に、「キャロル」や「燃ゆる女の肖像」に連なる女性同士による傑出したクィア映画の系譜を看取する。原案となった『戦争は女の顔をしていない』がこれまで語られなかった戦時下の女たちの語りを女が聞き書きしている物語にあって、男性ジェンダーである監督が語ることのアポリアがそこには立ちはだかる。監督が何より自身の「女性性の発見」を目論んだという発言、入浴場や性交時の女の身体の描かれ方がそれに対する一つの解になりえるかもしれない。

    • 映画監督

      宮崎大祐

      大戦ですべてをうしなってしまった女性ふたりによる、「その後」をめぐる物語である。好き嫌いは分かれるだろうが、「奇跡の海」を想起させる倫理的ジレンマと「サウルの息子」のごとく被写体の背後に貼りつくカメラが次第に人間を人間から引き離していき、人間ではない新しくも古い何かへと変身させていく。主人公たちがあまたの女性たちと入浴するシーンなどは、絶滅を運命づけられた未知の生物たちによる最後の晩餐のようで、その圧倒的な虚無感と時代性には寒気がした。

  • 魂のまなざし

    • 映画評論家

      上島春彦

      撮影がずば抜けている。監督とカメラマンは明らかにヴィルヘルム・ハンマースホイの窓際の女性像とか、ジョルジュ・ド・ラトゥールのマグダラのマリアを参照しつつ画面を構成しており、見応えたっぷり。どうせなら主人公画家の絵のスタイルの変遷も網羅的に見たかった。ただし物語の時空間は彼女の第二の青春みたいな8年間中心に絞られるので、そういった美術史ドキュメンタリー風にはする気もなかっただろう。問題は彼女の生涯の友人となる男が大したキャラクターじゃないことか。

    • 映画執筆家

      児玉美月

      本作で白眉なのは、随所に差し込まれる無人の風景ショットではないか。そこではスタティックな画が志向され、映画と絵画という決定的に異なる芸術形式が限りなく溶け合う。戦争や貧困を描くのは「女流画家」に相応わしくないのでは、と問われるヘレン・シャルフベックは「レッテルを貼られたくない」とひとりの画家であることを主張する。であるならば、そこを描きたい作品とはいえど彼女が女性である側面を強調するようなラブロマンスにやや比重が置かれすぎているような気もする。

    • 映画監督

      宮崎大祐

      絵画と現実の違いとはなんだろう。恐らく違いはないのだろう。本作の主人公である画家・シャルフベックが展示会で自らの作品に当たる光に執拗にこだわっている様子を見ていてそんなことを思った。彼女を演じるラウラ・ビルンの顔に落ちる陰翳は絵画のような深みをたたえた現実であり、絵画をそのまま再現したいくつかのカットは現実のような絵画である。その往復は、そりゃ伝記映画よりも彼女自身の作品の方が良いに決まっているでしょうよという声を打ち消せるほどに刺激的だ。

  • ボイリング・ポイント 沸騰

    • 米文学・文化研究

      冨塚亮平

      編集なしのワンカット撮影と、現代英国の食文化や労働環境、付随する人種差別やドラッグやアルコールをめぐる問題をこれでもかとばかりに詰め込んだ物語は、いずれもドキュメンタリーさながらの迫真性を作品に付与する上で一定の役割を果たしているだろう。しかし、あらゆる場面に何らかの意味を持たせようとするかのような構成からは、狙いとする緊迫感以上に、ダレ場を作ることへの制作側の恐怖心や不安という、現在の映像をめぐる別種の問題こそが露呈しているようにも思えた。

    • 日本未公開映画上映・配給団体Gucchi's Free School主宰

      降矢聡

      高級レストランのスリリングな2時間をワンカットで描ききるスタッフの技術力もそれに応える俳優陣も見事。忙しない店内を追うだけでも見応え十分だが、外国人労働者や人種の問題、パワハラやセクハラ、さらにはインフルエンサーや食メディアへの対応など、レストランにまつわるあらゆることが盛り込まれている。現代的な話題を高い技術でまとめた映画と思わなくもないが、滅法面白いんだから仕方がない。複雑な視点を席番号という数字でシンプルに整理し誘導するのも上手い。

    • 文筆業

      八幡橙

      正真正銘ノー編集ノーCGによる全篇ワンショットの緊迫感&臨場感は、前人未踏の域に。さらに12年ものシェフ経験を持つ監督の、実体験に基づく人間描写のリアリティが、現場の熱を増幅し、観る者を引き込む。登場人物実に20人以上。綿密なワークショップの成果が見える一人一人の生きた台詞と存在が連綿と瞬発的な感動を生み、息もつかせぬ90分。その上で、フォロワー数に平伏すSNS偏重社会や人種差別など今日的な諸問題までぎゅっと詰め込んでみせるとは。プロの仕事を見たり。

  • 炎のデス・ポリス

    • 米文学・文化研究

      冨塚亮平

      主人公の女性警官がいきなり襲われる序盤から終始一貫して、緊張感を持続させつつ意外性のある展開を連続して盛り込んでいくサスペンスとサプライズのバランスが、エンタメ作品として絶妙な塩梅。誰が味方なのかはっきりしない状況で二転三転するストーリーは見応え十分だし、各人物、とりわけサイコパスの殺し屋アンソニーのキャラ立ち具合は素晴らしい。ガンアクションは一見やや地味にも映るが、いずれも警察署という限定された空間の性質を生かしつつ演出と呼応しており効果的。

    • 日本未公開映画上映・配給団体Gucchi's Free School主宰

      降矢聡

      警察署を舞台に素性のわからぬ男たちが銃撃戦を繰り広げるというシチュエーションは非常に心躍る。しかし、極めて限定的なポイントに向けて強者どもが集結し、それぞれ突破を試みる、内と外の攻防が実に愉快なカーナハン演出の本領は発揮されていないように見える。特に男たちの謎をもったいつけた演出で先延ばしする前半部分は私は乗れなかった。また、警官が状況を打破するために、詐欺師と殺し屋、どちらを信じるかという展開もどうにもピントが外れているように感じた。

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