映画専門家レビュー一覧

  • DUNE デューン 砂の惑星(2020)

    • 映画評論家

      上島春彦

      これは「パート1」なのでそのつもりで。いかにも、植民地からの叛乱という事態が世界を覆っていた60年代に書かれた原作ならではの展開。同時にP・K・ディック『火星のタイムスリップ』にも通じるトリップ感覚がキレ味よろし。主人公の王子は他者を内面から統御する「ヴォイス」と呼ばれる超能力を王の愛妾である母から受け継いでいる。父からではなく。王位継承譚とは言いながらそこは微妙にねじれているとも見える。ワーム(「ナウシカ」で言うところの王蟲)の造形も秀逸なり。

    • 映画執筆家

      児玉美月

      ドゥニ・ヴィルヌーヴによる過去の諸作品に見られた作家性が随所に鏤められた未知な世界観への没入体験が続く155分間。デイヴィッド・リンチ版は荒唐無稽さとクリーチャーのリンチ的な造形だけが記憶に残る怪作で、同じ物語でもここまで高尚かつ壮大な次元に押し上げられるのかと、『DUNE』の映像化でこれ以上のものはないのではと思わされた。ティモシー・シャラメの顔貌がそこに負けずに存在している。ただ、物語自体は何をやっているのかまったくわからない。

    • 映画監督

      宮崎大祐

      まずはスター・ウォーズ・サーガにつづく歴史的SF映画が同時代に誕生したことを言祝ごう。冒頭から電子の砂嵐に巻き込まれるような感覚をもたらすこの映画の音像は「プライベート・ライアン」以降屈指のものであり、画は凡百のアクション映画にありがちな、記号としての画ではなく、細やかな演出を通じ役者ひとりひとりの実存をしっかりとすくいとっている。画と音の力を等しく信じ、映画の可能性を少しでも拡張せんと愚直にあがく毎分毎秒にわたしは感動せずにはいられなかった。

  • クライモリ(2021)

    • 米文学・文化研究

      冨塚亮平

      人種やジェンダーをめぐる差別を問い直す近年の流れを受け、とうとう人気シリーズの怪物表現にもアップデートの波が。人類学的な視点を盛りこみながらも同時に暴力描写は一切手加減せず、田舎ホラー特有のベタな設定や展開も部分的に残すことで、致命的な失点を防ぎつつ娯楽映画としてのバランスを巧みに保っている。過剰さや歪さに欠けるウェルメイドなB級ホラーが時代を超えて愛されるのかは疑問だが、そこまで求めるのは酷か。元作品を褒めていた帝王キングの感想が気になる。

    • 日本未公開映画上映・配給団体Gucchi's Free School主宰

      降矢聡

      ホラーという枠組みは崩さず、その中で様々な映画の型を横断していく作りやカルト集団が焦点になるなど、現代的な流行は感じさせる。実際に「トマホーク ガンマンvs食人族」や「バクラウ 地図から消された村」、はたまた「グリーン・インフェルノ」や「ミッドサマー」、それに「マッドタウン」から果てはジョン・フォードの「捜索者」まで様々に想起させるが、それはあくまで表面的な類似にすぎず、本作に強烈なオリジナリティがあったかと言われるとかなり疑問が残る。

    • 文筆業

      八幡橙

      2003年版から約18年。中盤までは、その歳月の意味を感じた。森に入る若者全員が白人の旧作に対し、現代版は国籍も多様化し、一組は同性カップル。以前は下着と見紛う服装のパリピ揃いだった女性陣も、ここでは一転、強く、クレバーに。第一に森で闘う相手自体が食人族ではなくなり、偏見や差別に抗う姿勢がくっきり。が、後半突然「ザ・ビーチ」的展開に突入し、マシュー・モディーン演じる父が合流する終幕は、遂に「ウィッカーマン」に!? “リブート”の意味をしみじみ、考えた。

  • THE MOLE

    • 米文学・文化研究

      冨塚亮平

      当初の企画が次第に予想を超えた規模に発展していくにつれ、身の危険を顧みずさらに事態を過激化させていく撮影チームは、ある意味で告発対象よりも恐ろしい。なぜか報酬もなしに自ら進んでリスクを負う主人公、圧倒的なうさん臭さと存在感を放つミスター・ジェームズ、そして監督。彼ら三人の胆力と覚悟は、明らかに正義感以上に好奇心や悪意と結びついている。そんな彼らのタガの外れた悪ふざけぶりが生んだ、より危険でサスペンスフルな「ボラット」とでも呼ぶべき異形の一本。

    • 日本未公開映画上映・配給団体Gucchi's Free School主宰

      降矢聡

      いくらなんでも北朝鮮へのスパイ活動の内容が凄すぎる。映画はスパイのウルリクを「目立たない人物」と評するが、無表情というのが適切で、彼の感情は一切わからない人。フィクションにおけるスパイならば表情と心理のズレをサスペンスに交換するところだが、主役ののっぺらさがこのドキュメンタリーの特徴だ。そして、石油王に扮してウルリクをサポートする「役者」のミスター・ジェームズや闇取引を行う北朝鮮関係者が揃いも揃って良い表情ばかりなのも嘘みたいによくできている。

    • 文筆業

      八幡橙

      鑑賞中、“ざわざわ”が止まらない。今、何を見ているのか、こんなことをして大丈夫なのか、映画として公開しちゃって本当にOK? 何より、これは本物のドキュメンタリーなんだろうか!? 隠しカメラとは思えぬほどリアルで鮮明な「潜入映像」は一方で、見慣れた風景にも思える。武器売買契約終了後の宴席など、「工作」にこんなシーンが、と過去の映画の断片が頭に浮かんだ。そう、混乱しつつ確実に言えるのは、フィクションに劣らず滅法面白いということ。マッツ・ブリュガー恐るべし。

  • ビースト(2019)

    • 米文学・文化研究

      冨塚亮平

      事件解決に向けた手がかりがほぼ外部の女性情報屋からもたらされることは、権力をめぐる男たちの争いの虚しさを強調する狙いがあったのだろうが、それ以上に捜査の過程からジャンル映画としての魅力を削ぐ結果になってはいないか。ハンスと出世を争うミンテがかつては相棒であったという設定もほぼ生かされていないため、なぜ不仲で偏屈な二人のいがみ合いを長々と見続けなければいけないのかという気分に。二人の因縁に感情移入できないせいで、終盤にもいまいちのめりこめず。

    • 日本未公開映画上映・配給団体Gucchi's Free School主宰

      降矢聡

      ヤンキー映画と見紛うほどに身体が暴力を介して入り乱れる、裏社会のアジトへ突入するシーンを筆頭に、抽象的な心理描写を斥けて、腕っぷしと人数という即物的な力に信を置いている作りがとても良い。警察と裏社会との結びつきや組織内での権力争いなどといった特段目新しいわけではない題材を、しかしきっちりと撮り上げる総合力の高さも感じられる。ただし、着実に事態が進行していく反面、後戻り不可能な決定的瞬間が捉えられていないことを指摘するのは少し野暮か。

    • 文筆業

      八幡橙

      あのフレンチノワールの名作を韓国でリメイク! 第一報に心躍った。義理と人情に篤く、仲間や家族の絆を重んじ、出世欲さえストレートに露わにする韓流独自の“熱さ”が、オリジナルのテーマにしっくり溶け込みそうに思えたからだ。多くは語らず余白で伝える大人の映画だった仏版とは、また違う手触りのノワールをきっと見せてくれるはず、と。実際、演出も演技も悪くない(特に「白頭山大噴火」と正反対のチョン・ヘジン!)のに、脚本の大胆すぎる改変が仇になったか……。無念。

  • Our Friend アワー・フレンド

    • 映画監督/脚本家

      いまおかしんじ

      風呂場で体を洗うシーン。末期癌のヒロインの背中が異様に美しかった。人が死ぬことや生きていくことについて、あれこれ考えた。不満なのは、難病ものにつきまとう真面目さだ。お涙頂戴のシーンは絶妙に省略していたり、時制が行ったり来たりする構成にしたりと色々工夫されているが、やっぱり辛気臭い。ヒロインに付き合う男二人のオタオタぶりは、好感が持てる。二人の芝居を見ているとホッとする。うまくいかないことをどういう風に切り抜けていくのか? そこが見所と思った。

    • 文筆家/女優

      睡蓮みどり

      癌宣告を受けた妻とその家族、彼らを支える親友の人間関係と受け入れ方を丁寧に描く終わりの始まりの物語。宣告前と後をいったりきたりするなど、時系列をわざわざ複雑にすることが何か仕掛けになっているとは思えなかった。はたから見たらなぜそこまで?と思うほど献身的に友人夫婦を支えるデインの温かな存在が最後まで優しい。闘病ものがどうしても苦手というのもあるのだが、新作としての驚きはない。ジャーナリストで妻を支える夫役のケイシー・アフレックは特によかった。

    • 映画批評家、東京都立大助教

      須藤健太郎

      カメラは「関係」を捉えられない。関係は事物ではなく、そのかぎりで描写の対象にならないからだ。またカメラは「変化」を捉えられない。変化は持続の中で生じる「変容」と異なり、時間軸を穿つ点だからだ。本作がショットの切り替えに自覚的なのはそれゆえである。なぜ車内の会話シーンが車外からの窓越しで終わるのか。デインが去ったあと、なぜマットは°90別の角度から捉え直されるのか。ニコルが息を引き取り、なぜドア越しのショットへと移っていくのか。理由は明らかだろう。

  • 夢のアンデス

    • 米文学・文化研究

      冨塚亮平

      アンデス山脈と所縁の深い彫刻家たちの証言は、祖国を後にしたグスマンが現地に読みこもうとする象徴性とあまり?み合っていないようにも見えるものの、長年チリ政治の腐敗と民衆の闘争を現場でカメラに収め続けてきたパブロ・サラスと彼が保管する膨大な資料へと作品の焦点が移るにつれて、目が離せなくなる。自らと対照的にチリの地にとどまることを選んだ彼の仕事は、監督にとってありえたかもしれない未来であり、同時に「チリの闘い」を現在へと引き継ぐ試みでもあるだろう。

    • 日本未公開映画上映・配給団体Gucchi's Free School主宰

      降矢聡

      激動のチリを見守ってきたアンデス山脈の岩の言葉を理解できれば、失われた答えがわかると映画作家はいう。それこそが芸術家の仕事なのだと。でもどうやって? アンデス山脈の岩で作られた道路をじっと見つめて、そこに響いた足音の記憶を語る思索的な語りを披露しつつ、他方でピノチェト時代の暴動を捉えた切迫的な映像や、アンデス山脈と関わりの深い芸術家による直接的な社会批判を織り交ぜるアプローチは、いささか強引にチリとアンデス山脈を繋ぎ合わせているように見える。

    • 文筆業

      八幡橙

      「光のノスタルジア」、「真珠のボタン」に続く三部作最終章。第一作では星と砂漠を、第二作では海と水を美しく映し出し、大自然の恵みと悠久の時を通じて、隠蔽されたチリの悲痛な歴史をあぶり出してきたグスマン監督。アンデスの雄姿に始まる今作は、独裁政権に虐げられた人々の叫びを、より直截的に描き出す。ラスト、廃墟となった監督の生家は、そのまま第一作冒頭の甘い記憶へと繋がる。時の重みを黙って受け止める山々を前に、“人間とは何か”という解けない謎を自問するばかり。

  • 人と仕事

    • 映画・音楽ジャーナリスト

      宇野維正

      もし有村架純が介護福祉の現場取材をしていたら、『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』放送時の騒動の後日談という別の意義も立ち上がったわけだが、そんな気の利いた切り口もなく、コロナ禍の限られた条件と人気俳優2人の空白となったスケジュールから捻出された限られた素材が、ただ漫然と並べられているだけ。取材対象をエッセンシャルワーカーだけにすればもう少し焦点は絞られたとは思うが、いずれにせよ作り手の力不足は明らか。「映画」である理由がない。

    • 映画評論家

      北川れい子

      俳優二人の、いささか及び腰のインタビュー(特に有村架純)は決して悪くないが、ここ一年半、コロナ禍で以前と同じには働けなくなった人々の話は、新聞やテレビで連日のように報道されていて、そういう意味ではこのドキュメンタリー、格別な情報があるわけではない。夜の街新宿で働く風俗関係の人々の話にしても。取材相手の多くは、人と直接関わる仕事をしている人たちで、顔を出して質問に答えるその姿は、仕事は何であれ、みな普通の生活者。二人が自分を語る場面はちと甘い。

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