映画専門家レビュー一覧

  • トムとジェリー(2021)

    • 映画評論家

      きさらぎ尚

      人気の若手女優と80年あまり前に誕生した人気アニメのお馴染みのキャラクターの共演は、終始、実写とアニメがイマイチしっくり馴染まない。一流ホテルの中で冒険を繰り広げるネコとネズミのコンビと他の動物たちのアニメ部分のプロットは過不足ないが、実写部分は個性的な俳優を揃えた割にストーリーが練り不足。ただしC・G・モレッツはアニメの中にいても違和感はない。実写とアニメによるこのスラップスティック・コメディ、見ている間のそれなりの楽しさ以上のものがなく残念。

    • 映画監督、脚本家

      城定秀夫

      2Dアニメと実写の融合は文句なしの出来とはいえ、自分にとってこの手の世界観を楽しむのにデジタル技術の進歩はさほど重要ではなく、そういう意味では三十余年前の技術で作られた「ロジャー・ラビット」と印象は大きく変わらないのだが、子どもの頃から慣れ親しんだトムジェリがリアルなニューヨークの街なかで追いかけっこする様は眺めているだけで楽しく、不満点としてはトムの体の可塑性を生かしたギャグが存外に少なかったことと、人間側のドラマにパンチが不足していたこと。

  • ミナリ

    • 映画評論家

      小野寺系

      文学や映画では「怒りの葡萄」、TVドラマでは『大草原の小さな家』を思い出す、移民の定住と家族の物語が展開。アメリカの白人がフロンティアスピリットを正面から描くことができなくなっているなか、アジア系の監督と出演者が、その根源的なテーマを引き継いだことが、そのまま作品自体の強さとなっている。「クレイジー・リッチ!」、「フェアウェル」から、さらに飛躍を遂げた“アジア系のアメリカ映画”であり、この試みは、とくに文化史のなかで象徴的な位置付けとなるだろう。

    • 映画評論家

      きさらぎ尚

      葛藤を端正に語っていると言ったらいいだろうか。夫婦、二人の子ども、妻の母らの登場人物は、それぞれの立場で葛藤を抱えているが、各人の胸の内を仰々しくないシーンで表現している。配役のうまさが際立ち、なかでもユン・ヨジョンのぶれないマイペースぶりが物語の要となる。葛藤や失望などの感情を、彼女が静かに吸収し、その結果、家族はむろん、見る側にも救いをもたらす上品な結末に感じ入る。夢の実現のために家族を振り回す夫の独善は気になるが、素直な展開がしみる。

    • 映画監督、脚本家

      城定秀夫

      息子の病気療養の意味合いもあるが、主には農地開拓での成功を夢見る自身の山っ気により家族を巻き込む形で何もない田舎に引っ越してきた『北の国から』の黒板五郎のような父親の行動、言動は、子を持つ親の視点で見るとなにかとイライラしてしまうのだが、子どもとおばあちゃんのキャラクターが可愛らしく、終盤まで大した出来事もなく進んでゆく家族の物語は骨太な演出に支えられて観飽きることがなかったがゆえにこの唐突な幕切れでは物足りなく、もう少し続きを見たいと思った。

  • クイーンズ・オブ・フィールド

    • 映画・音楽ジャーナリスト

      宇野維正

      以前調べたところ、サッカー関連映画の製作数が多いのは母国イングランドよりもドイツとフランス。フィクションで、日本語字幕が存在する作品(配信も含む)となると、おそらくフランスがトップ。そんな地に足のついたサッカー映画産出国だけあって、他愛のないコメディでありながらもディテールがしっかりしているのでしらけることがない。設定の疑問点にもちゃんとオチがつくのだが、そのあっさりした描写もいい。邦題は「フィールド」よりも「ピッチ」のほうが良かった。

    • ライター

      石村加奈

      宣伝では、主婦が強調されるが、シングルマザーや女子高生をはじめ、さまざまな女性が参加していることを、物語でもフィーチャーしてほしかった。例えば練習の後、気軽に飲みにも行けないほど、多忙な女性たちにどんな変化があって、パブへ繰り出すようになったのか? ドラマの鍵は、その辺りにあったのではないかとも。ざっくりと描かれる女性たちに比べて、ミミル(アルバン・イヴァノフ)がチャーミングで目が離せない。動作自体もレモネードを作るなど、おいしいポジションだ。

    • 映像ディレクター/映画監督

      佐々木誠

      伝統ある町のサッカーチームが乱闘を起こして選手全員がリーグ終盤で出場停止に。代わりに彼らの妻たちが選手として出場すると言い出すが……という筋書きを読んで想像することが全部起きる。でも楽しい。突っ込みどころもあるけど、最後まで笑って泣けちゃう。スポーツって良いなぁとも思う。ジェンダーについての問題提起もやりすぎず、ちゃんと笑いと共に盛り込む。ベタを正面から丁寧に仕上げ、観客に良い気分で劇場を出てもらう、という作り手の想いが伝わってくる作品だった。

  • まともじゃないのは君も一緒

    • 映画評論家

      北川れい子

      わっ、愉快!! 近年の青春映画や青春コメディの定番キャラといえば、コミュケが苦手な男女ばかりで、いささかうんざりしていただけに、本作の口達者なヒロインと理屈屋の塾の講師、どっちもどっちでいい勝負。しかもすれ違う会話にさりげなく本音と毒が隠されていて。ことば(喋り)でその人物を見せるというのは古典的手法だが、脚本の高田亮はその辺りをしっかり押さえ、前田監督の演出もテンポよく軽妙。そして何より成田凌と清原果耶の弾力のある演技。笑ったぜ。

    • 編集者、ライター

      佐野亨

      「婚前特急」でスクリューボール・コメディへの造詣を垣間見せた前田弘二監督+脚本・高田亮のコンビによる快作。このところTVバラエティの延長のような日本のコメディ映画を立て続けに観たせいもあってか、空間の切り取り方やファッションの配色など、品のある画づくりと俳優たちの優雅な動かし方(成田凌のクラシカルなたたずまいが映画のトーンにぴったり)に見惚れた。しかも社会が要請する「まとも」から否応なく外れてしまう主人公二人のドラマはすぐれて現代的である。

    • 詩人、映画監督

      福間健二

      日本では定着しなかったスクリューボール・コメディを狙ったのだとすると、進行の予想外の度合いがもうひとつで、スクリューが曲がり切らない。でも、見終わって楽しかったなあと思わせるものはある。いちばんの功績は、主人公の予備校講師大野を演じる成田凌。頭のいい役で「普通」がわからないというのが新鮮。前田監督と脚本の高田亮、いままで以上に、セリフのテンポで運んでしまえ、だったのか。ヒロイン清原果耶が荒れるバーの場面に勢揃いした男たちの面々、これは文句なし。

  • 国際捜査!

    • 非建築家、美術家、映画評論、ドラァグクイーン、アーティスト

      ヴィヴィアン佐藤

      ここ数年どの映画を見てもレベルの高い韓国映画業界だが、この様な作品に接すると多少安心してしまう。ハミ出しデカのコメディだが、テンポや展開にムラがある。何も考えずに映画を鑑賞したい人にはオススメ。仕事や倫理的には駄目だが、良き家庭人であることが何よりも大切だという韓国の家族哲学が見える。もう少し派手なアクションなどがあれば視覚的にもうちょっと楽しめたのかも知れない。韓国映画の陰りと見るのか、たまたまなのかは謎。もはや日本は悪人にもならず、影が薄い。

    • フリーライター

      藤木TDC

      私好みのオッサン顔俳優が揃った犯罪コメディ。しかし脚本に難。隠匿された山下奉文財宝を探し刑事とギャングが競う導入と結末だけ決め、間をうまく構成できないまま時間切れになった風で、つなぎのストーリーがあちこちに分散し各所で停滞、今、映画のどの辺を見ているか分からなくなる致命傷が。監督を志す若者は中盤をどう直せば面白くなるか考えるといい宿題になる。ビッチな女脇役不在も大きな欠点。B級活劇なんだしポリコレ縛りでエロキャラを出せない作品でもあるまいに。

    • 映画評論家

      真魚八重子

      ほかの映画では血も凍る怪演や、味のある芝居をみせている俳優たちが揃っているのに、いまいち弾けない。話があちこちに飛んでも、本筋がじつは単純でたいそうなことでもない。韓国映画はヴァイオレンスやスリラー、ホラー映画は秀作が多いのに、ハッピーなコメディはちょっとベタすぎて笑えないことが多い。時に超絶展開をする場合もあるとはいえ、本作にはそういった跳躍力はなく、想像通りの結末に落ち着く。せっかく力量のある俳優陣を集めながら、キャラクターや脚本が弱い。

  • すくってごらん

    • フリーライター

      須永貴子

      登場人物による歌のパフォーマンスにより、映画化する意味のある仕上がりに。原作の軸である「金魚(すくい)」をモチーフにしたプロダクションデザインも秀逸。着物の柄、夏祭りのポスターデザイン、金魚鉢のようなエフェクトをかけた映像処理など、細部まで仕事が丁寧。その世界観の中で、歌舞伎俳優、アイドル、劇団四季、モデルなど、出自も個性も異なるキャストが調和し、各々の枠を打ち破る。尾上松也の、確かな技術に裏打ちされたコメディの表現力にも驚かされた。

    • 脚本家、プロデューサー、大阪芸術大学教授

      山田耕大

      金魚すくい? もし漫画原作がなかったら、同じようなプロットがあっても絶対に映画にはならなかっただろう。それを思うと少し悲しい。映画は映画自体の力で花開いてほしいと思い続けている。この映画は楽しい。ミュージカル風にしたのは大正解だろう。しかもその主題歌、挿入歌のほとんどの作詞を脚本家が手掛けているのがいい。観終わった後には何も残らず、すぐにこの映画を忘れてしまうだろう。が、それの何が悪いと居直って胸を張ってるような小気味良さがある。

    • 映画評論家

      吉田広明

      左遷されたエリート銀行員が田舎町で人らしい心を取り戻し、それぞれに挫折した(この挫折の物語も凡庸)町の住人たちともども、大きくなれないために露店で売られる、これまた挫折した存在たる金魚「すくい」で「救う」コメディ・ミュージカル。物語は紋切り型、捻じれたエリート意識を語るモノローグや、その心情をいちいち字幕で表すのも煩わしい。ただ、古く美しい街並み(奈良)を徹底して人工的に作り変える美術と照明、キャストの歌唱力に一見(聴)の価値はあるかもしれない。

  • アウトポスト

    • 映画評論家

      小野寺系

      基本的に有利な立場にありながら、前線基地で数的不利な立場に追い込まれるアメリカ軍の状況や、実際にこの戦いに参加した兵士が同じ役で出演しているだけあって、リアリティある兵士の表現が見られるのは興味深い。アラモ砦の戦いを連想させる戦闘の絶望的な描写は、観客をも戦場に巻き込むような映像的な迫力と細部の説得力がある。ただ、ピンチに陥ったり死亡した兵士たちを英雄として持ち上げ、無理な作戦を強いた軍の責任の所在が深く追及されていない点には、疑問を感じる。

    • 映画評論家

      きさらぎ尚

      個人的に知る限り、70年代以降のアフガニスタンは切れ間なく紛争が続く、泥沼の紛争地域である。ソ連軍の侵攻と撤退、米国同時多発テロ後には米ブッシュ(子)政権によるアフガン攻撃開始により、国土も治安も人心もさらに荒れ傷む中、ついには中村哲氏の殺害まで。撤退準備中の米軍前哨基地を舞台にしたこの戦争映画は描写が生々しく痛ましい。主題の“生き抜く”を熱演する注目の俳優たちからは戦場のリアルが伝わる。が、米国の視点で描かれた戦争であることを頭に入れておきたい。

    • 映画監督、脚本家

      城定秀夫

      このような地獄の戦闘になってしまった要因である作戦の不備や前哨基地の劣悪な立地条件の詳細、政治背景などはさほど描かず、尺の半分を戦闘描写に費やしている純度の高いミリタリーアクション映画で、どうやって撮ったのか見当もつかない臨場感抜群のショットの数々を手に汗握って観たとはいえ、戦争に対する映画の向き合い方を考えると、米国軍人たちの雄姿をひたすらに称えるラストを素直に受け止めることはできないし、これがわずか10年前の出来事という事実にも肌が粟立つ。

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